第17話 冒険が騒がしくなってきた話

「にぃ……どうしたのロイス?」


「な、なんでもないよユウリン姉さ…………ユウ」


「???」



 チートスキルの代償は重い。

 というか、アルーシャといいユウといい、どうして前世の縁者がこんなに身近にうろうろしてるんだ。

 これもルチアスのやらかしか、それとも身近に地雷が大量に埋設されるほどの回数を俺が転生してるせいだろうか。

 しかも、前世では年上の姉弟子がこんなロリっこに……今の自分は相当危険なのではないだろうか?



「まあ、よくわからないけど。寄付はありがとね。お陰で教会はなんとかやってけるよ」


「そ、そうか、よかった……俺もほら、一応虹プレートだから稼ぐあてができたらちょくちょく様子を見るよ」



 駄目だ。急に挙動不審になってユウから視線を逸らす俺を不思議そうに見る二人に耐えられない。

 逃げるように教会の聖堂から出ていくことにした。


 よく考えれば俺の目的はギルドに登録することだ。すっかり忘れていたが。

 気付けばこの教会に滞在してしまっていたが、本来は自分で稼いで宿を取るなり家でも借りるのが筋だ。



「……すっかり世話になっちゃったねアリス。それじゃ俺行くよ」


「……そっか。まあ、この教会を買い取る資金はあんたが出してくれたんだ。オーナーなんだからいつでも泊まりにおいで」


「あはは……オーナーは違うって。ただの善意の寄付者だよ」.


「にぅ……お兄さん行っちゃうの?」


「ああ、なんか一晩のつもりが長いしちゃったからね。王都にはいるからまた顔見せるよ」



 ユウの頭を撫でる。

 前世で憧れた男勝りな年上の姉さんと比べて幼い顔立ちの少女。

 それでも面影は似ていて成長したらあんな綺麗な人になるんだろうと思わせる顔をしている。

 この子の生活を守れただけで、まあ大会に出た甲斐はあっただろう。



「それじゃ……ユウ、アリス。元気で!」






***





「ふふん、どうだ?やはり余の言った通りであったろう?その腕輪から貴様の魂と同じ匂いがしたからなあ?」


「魂の匂いってなんだよ……」



 教会を出て扉を閉じた瞬間、頭に謎の重量が乗っかった。

 空から降って来た生物が俺の頭に飛び乗ったのだ。


 生物は、一言で言うなら……中型犬サイズの…………赤いドラゴンだ。



「そう邪険にするものではなかろう、我が契約者よ?」


「ノリで王都を消し飛ばそうとしたやつに対する扱いとしては穏当じゃないかと思うよ、レナ?」



 そう、この小動物と化したドラゴンは、かつてイニテウム遺跡で戦い、武闘大会決勝で決着をつけた真竜。

 赤き真竜レド・ノビリス・アレス・レギナ…………つまりレナだ。


「今の余は貴様との契約で使い魔程度の能力しか持たぬ非力で哀れな存在ぞ?中位種モンスターの群れを焼き滅ぼすくらいが精々なるぞ」


「弱体化してても上位種モンスターくらいには強いじゃないか」


「それは仕方ない。真竜は最強であるからな」


「種族マウントやめろ」



 実際に仕方ないと言えるのが伝説の最強種、真竜の格である。

 個体の格として考えれば現状でも上位種どころか最上位種級には強いと思う。

 それでも人間が太刀打ちできるレベルまで弱体化してるのは事実だろうけど。



「なにより既に余は貴様と契約して人に手出しはできぬ身よ。いわば貴様の守護竜、人間の味方であるぞ?」



 そう、俺はあの大会でレナに勝利した。

 本来ならレナはあの時、竜種の死として肉体が魔力元素として分解され、光の塵となって消滅して世界に還元されるはずだった。

 だったのだ……


 だが、何の偶然か、運命の悪戯か。 俺はレナにレナという名前を付けた。

 名前とは原初の契約、原初のまじない。相手に名前を与えるということは相手の存在を他者が定義するということだ。

 もちろん、勝手に名を与えるだけで契約も呪いも成立はしない。そうでなくても相手は最上級の最強種だ。

 しかし、俺がレナに勝利したことで話は変わる。


 もともと真竜とは受肉した精霊とも言われ、この世界の循環する元素が一定の法則性を持って生物として受肉した存在を起源とする。

 簡単に言えばこの世界そのものの一部が生物となった存在が真竜だ。


 それほどの最強の存在であるが、いやそんな存在だからなのか、この生物は一度結ばれた契約というものに酷く従順になる。



「つまり、貴様が余を理解わからせしたというわけであるな」


「五月蠅いぞメスガキドラゴン」



 俺の勝利によって上下関係が定まり、さらに俺が名を与えたことでこのドラゴンは俺と契約で結ばれてしまった。

 今やこの小動物ドラゴンは俺の使い魔に成り下がってしまったと言える。



「それで良かったのかレナは?」


「む?何も悪いことはあるまい?真なる竜は財宝を守護し、英雄に打倒されるものよ。その英雄にであれば使役されるも善哉であるな!」



 どうも最強種の感覚というのは理解が難しい。

 ともあれレナに敵意が無い事は伝わってくる。今の俺たちは契約で結ばれているせいか、なんとなく近くにいれば感情が伝わってくるのだ。

 俺の感情まで伝わっていたら色々と困るが。



「まあいいか……とにかく目立つなよレナ?会話は念話だけ。許可なしで戦闘行為も禁止」


「そう何度も念を押されなくともわかっておるわ。我が契約者よ」


『本当にいいのかのう我が主よ……』


「ルクス、頼むから話をややこしくしないでくれ……」


「む?おお、宝剣の精か。余は竜なので宝も大好きだぞ?仲良くしようぞ、宝剣!」


『やかましいわ!?我は光翼剣ルクスじゃ!?』


「お前ら、会話できるんだな……」



 ルクスの声は俺にしか聞こえない。

 と言うか俺でも直接接触している時にしか聞こえないものだが、レナはこの声を聞くことができるようだ。

 ルクスが俺以外と会話できるのは、所有者としては喜ばしいことではある。ルクスの会話相手がいないからどうしようと思ってたところだ。



「ふっふっふ~、実は余ほどの、つよつよドラゴンともなれば伝説級の価値を持つ財宝というのは、感覚的にピキーンとわかるのだ。何を隠そうその腕輪にもピキーンと来てな?貴様とドラマチックに再会して殺し愛うためにというのが最大の目的ではあったがあわよくばあの腕輪も手に入れてしまおうというのが余の遠大かつ緻密な計画だったわけよ。どうだロイス?凄いか?凄いであろう?余は役に立つぞ?」


「さよけ」



 なんとも宝探し専門の冒険者が欲しがりそうな能力だ。

 もっとも彼女の言う宝とは金銭的な価値のある物品ではないようなので、果たして金になる能力かは疑問だが。



『ふん、我もあの腕輪から主の匂いがすることくらい分かっておったぞ』


「ふうん…………そういえば、あの腕輪にはルクスみたいな精霊はついてないのか?」


「余はそういう声は聞こえぬな」


『当たり前じゃ。我は元より女神が鍛えた最上位の聖剣。存在自体の格がそこらのアーティファクトとは別格じゃ。生きた時間も我より長いものはおるまい』



 なるほど、確かに。

 ルクスは俺の長い長い転生歴の中で一番最初の転生で勇者ヒデオに最初に与えられたチート武器。

 言い換えれば今後どんな装備が見つかっても、ルクスはそれより古い存在だということだ。

 存在した時間の長さが精霊を生み出す。ならばルクスより後の装備には精霊が憑いてる可能性は低いわけだ。


 ただでも装備を見つける度に精神汚染に悩まされる身としては、その上に装備ごとにルクスのようなの憑いてるかもしれないと思うと面倒なものを感じる。

 ルクスだけならまだいいが、これ以上姦しくなるのはちょっと勘弁してほしい。



「それでだなロイス、実はもう一つ。王都の近くに宝の気配があるのだ。どうだ?探してみぬか?」


「いや、その前にギルドの登録に行かないとね……」



 いい加減に最初の目的を思い出してギルドに向かうことを決心する。

 そもそも大会の賞金を全額アリスに寄付してしまったので依頼を受けてお金を稼がないと生活費が足りなくなる。

 イニテウムのギルドからもらった予算は宿泊代としてやはりアリスに渡したので正真正銘スッカラカンだ。

 せっかく虹プレートに次いで大会で優勝という肩書も得たのに懐事情はいつまでも厳しいままだ。



「どうにしかしないと……ああ、そうだ。ギルドについたら宿の手配の頼まないとなあ……さて、急がないと」





「ああああああああああっ!やっと見つけましたっ!」



 教会のあった裏通りから、表通り……王都の表側に足を踏み入れたところで叫び声が響いた。



「ロイス!探しましたよ!」


「君は……アルーシャ!?」



 王都へやってくる時に出会った女騎士、アルーシャとの再会であった。

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