第3話 パーティを追放される話
「ロイス、お前は追放だ」
「ど、どうしてですかアルベルトさん!?」
冒険者ギルドの飲食スペース、通称「冒険者の酒場」。
ここでは依頼を終えた冒険者たちがギルドへの報告や換金、等々を終えてくつろぎを得る場所だ。
俺、ロイス・レーベンと仲間たち「草原の狼」もひと仕事を終えた後はここで一杯をひっかけるのが恒例となっている。
そうだ。いつもならここで楽しくドンチャンして明日への英気を養っているはずだったのだ。
リーダーのアルベルトさんが乾杯の音頭を取るべく長い前置きの挨拶を始め、それを無視したゲオルグさんがさっさと食事を始める。
メリッサが全員の食事の取り分けをしながら、こっそり自分の皿から苦手な豆料理を俺の更に移し替える。
俺はそれを笑って見逃しながらアルベルトさんとゲオルグさんの口喧嘩を見つつ好物の肉を頬張り……
だが、今は違う。
アルベルトさんは険しい眼で俺を見つめ、リーダーの横でゲオルグさんは言葉もないと言った顔で本に目を落としている。
唯一メリッサだけが俺の側に立ってくれているが、彼女も理解している。
リーダーは優しく面倒見のいい大人だが、一度決定したことを変えたりはしない。
つまり俺の「草原の狼」追放は確定事項なのだろう。
「でも納得できません!ロイスが助けてくれなかったら私たち皆ドラゴンに殺されてたんですよ!」
「いいよ、メリッサ………リーダーが決めたことなんだから……」
「でもっ!」
やはりメリッサは納得できていないようだ。 思えば彼女は昔からこうだった。
普段は活発では物分かりの良いしっかりした彼女が、なぜか俺が絡むと一度決めた意見をテコでも変えない。
村を出ると決めた時もそうだったのだ。また説得に三日三晩を費やすのだろうか。
「メリッサの言いたいことはわかっている。俺もジョージも同じ気持ちだ。だがな……」
俺とメリッサ、アルベルトさんとゲオルグさんに分かれた中心のテーブルに置かれたものに視線を移す。
そこに置かれたものは、俺の冒険者登録証。
そのプレートはプリズム加工により七つ色に反射する「虹」のプレート。
「…………ネームドモンスター打倒おめでとうロイス。お前は晴れて最上位ランクの冒険者だ」
「えぇ…………」
――――ネームドモンスター。
端的に言ってしまえば世界に一匹しかいない
そういった魔物には二つ名や固有の名称が与えられ、それをネームドと呼ぶ。
もちろん生きた真竜など正に伝説としか言いようがない。
そして俺は見事に新発見のネームドを打倒し、その功績が認められて、最上位冒険者の証である「虹」の冒険者プレートに更新された、というわけだ。
冒険者登録証には等級があり、等級によって登録証に使用されるプレートが変わる。。
下の等級から順に、「銅・鉄・銀・金・虹」だ。冒険者は誰もが銅から始まり、一人前になって鉄と認められ、もっとも数が多いのが銀である。
そして最上位に位置するのが虹、というわけだ。
ギルドはこの街のみならず世界中に支部を持っており、この等級によって受けられるサービスが変わる。
金プレートの冒険者にもなると一流冒険者と呼ぶに相応しいもので、ここまでくると生活水準も非常に上がるらしい。
虹プレートとなるとその数は王国全体でも片手で数えるほどもおらず、他所の国まで探しても両手を埋める数は存在しない。
なにより得られる社会的信用が等級次第で大きく変わる。最上位である虹ともなると信用だけなら貴族にも匹敵するとか。
「よくギルドが認可しましたね………普通、銅プレートが真竜を倒したとか信じないと思いますが……」
「証拠があるんだから仕方ねえだろ」
そう、証拠はあった。
完全未発見の隠し部屋は「草原の狼」の証言通りにギルドが存在を確認した。間違いなく未発見だったとお墨付きだ。
そしてそこでの戦闘跡も検分された。聞くところによると王都から派遣された名のある考古学者やら魔導士やらが執拗に検分したらしい。
見事なまで俺のたちの証言と一致したそうだ。
「何事も物的証拠がものを言うものだよロイス」
ゲオルグさんがいつの間にか注文していた泡酒に口をつけながらニヤリと笑う。
「ったく、抜け目ねえなあジョージは。まさかドラゴンの鱗なんかガメてるとはよお」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。拾っただけだ。ドロップ品の取得は冒険者の権利だろう?」
戦闘が終わった後、アルベルトさんとゲオルグさんが目を覚ましてからダンジョンを撤退した「草原の狼」だが。
そのドサクサに紛れてゲオルグが赤い真竜のものと思われる鱗を拾っていたのだった。
もちろんこのドロップ品もしつこく検証され、見事未発見ネームドの物として認定された。
この物的証拠のお陰で、先日まで銅等級だった初心者冒険者が真竜を倒したとかいう誰も信じないような与太話は事実と認められた。
ついでに言えばメリッサがしつこく証言したのも理由の一つではあるらしい。
ちなみにアルベルトさんとゲオルグさんのプレートは銀。メリッサは鉄だ。
そして俺は銅……………だった、はずだ。
しかし、ここには虹色に煌めく俺の名が書かれたプレートがあるのだった。
どうしてこんなことに……いや、あの女神の贔屓のせいなのだが……
「ともかくだ。中堅である銀等級パーティの「草原の狼」としちゃ、虹等級の最上位冒険者の面倒は見れねえんだ……すまん」
「世界最高峰の虹等級冒険者、与えられる権利とそれに伴う責任が大きすぎるんだ。中堅ギルドのウチで扱える人材じゃない」
アルベルトとゲオルグがすまなそうに頭を下げる。彼らとしても申し訳ない気持ちが強いのは伝わってくる。
なにより、先日まで銅プレートだった初心者の下位冒険者が気絶してる間に真竜を倒したなど、感情の整理もついてないのだろう。
そう思うとこちらの方が申し訳ないくらいだった。
「いいえ。こちらこそご迷惑をおかけして……」
「馬鹿言うな。俺たちはお前に命を助けられたんだ。こっちが礼を言いこそすれ、お前に謝られる理由はねえ」
「そうだよ!ロイスがあのドラゴンをやっつけなかったら皆死んでたし、この街だってきっと危なかったよ!」
「まったくだ。君はこの街の英雄なんだからしっかりしないといけないな」
英雄、先日まで銅等級のスキルなしだった自分には身に余る言葉だが。
足元に転がしてある、布でぐるぐる巻きにして隠した剣を手にした時のことを思い出す。
俺は確かに真竜を倒して、仲間を救った。
せめて、それくらいは誇っても良いのだろう。
「……今までお世話になりました。アルベルトさん、ゲオルグさ……」
「ジョージでいいよロイス。
「………ありがとうございます! アルベルトさん、ジョージさん!」
椅子から立ち上がり、涙ぐみながら頭を下げる。
つくづく良いパーティに入れたと思う。
「それで、これからどうする?」
「あー、えーと…………その、どうしましょうか」
この街ではずっとアルベルトさん達に頼ってきた自分にはツテなどない。
虹等級に急激に出世したとしても自分が初心者であることに変わりはなく、冒険者としてするべきことがわからない。
この聖剣さえあれば食い扶持に困ることはないだろうが……不安な気持ちは残るのである、元勇者だとしても。
「だったら王都に行きな。あそこにはギルド本部がある。虹プレート持ちなら色々と優遇は得られるだろうし、仕事にも困らんだろうよ」
「王都、か……」
王都、俺たちが住み、活動している王国の首都……確か世界有数の騎士団を持つとかなんとか。
「いいじゃない王都!一度行ってみたかったんだよね!」
「え、メリッサお前……」
ついて来るの?と聞こうとしてメリッサの眼を見る。
嗚呼、駄目だ……メリッサは俺が関わることになるとテコでも意見を変えない……
そしてこの顔はついて来る気満々の顔だ。俺には止められない。
「駄目だ。王都に行きたいなら最低でもプレートを銀に更新してからだ」
「えぇっ!?なんでええええええええええええええええええっ!?」
意外にもメリッサを止めたのはアルベルトさんだった。
流石のメリッサもリーダーに断固と却下されると、いつものほどの勢いがない。
いつもなら駄目と言われても有無など言わせないものだ。
「王都への街道は危険も多いし、なにより今のままでは君も足手まといにしかならない。最低限、王都に自力でたどり着けるレベルになるまでやめておきなさい」
ゲオルグ……ジョージさんに冷静に言いくるめられると、言葉を詰まらせる。
メリッサも今の現状は理解しているようだ。
なによりメリッサは俺が真竜を倒すところをその目で見たのだから。
「んんんんん……………っ!」
街を出たあの日のように、メリッサは言葉を失くしていた。
「それにしても、メリッサはなんでそこまで俺について来たがるんだ……?」
「本気で言ってるのかよロイス……」
なぜかアルベルトさんが頭を抱え、ジョージさんはくっくっと笑っていた。
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