二千回転生した元勇者~女神に気に入られて何度も勇者になった俺の現世の話~

桜ヶ丘 大和

第一章 覚醒冒険者編

何も持たない男が何かを求めて冒険者になる話

 冒険者という職業は夢と浪漫と戦いと危険に満ちている。

 人々はこの言葉に魅せられて、剣を取る。


 俺、ロイス・レーベンもその一人だ。


 生まれは、片田舎の農村で生まれ育ち、狭い土地の小さな畑を耕す両親の背を見て育った。

 田舎生まれの若者が歩む人生に選択肢などいくつもあるはずがない。

 田舎の生活に満足し、親の後を継いで慎ましく生きるか。村を出て、夢を追うかだ。


 極々、平凡に産まれ特別な才能もなく、なにより《スキル》が未だに目覚めもしない。

 そんな俺には本来なら選択肢など無いに等しい。親の後を継いで畑を耕すべきだろう。

 両親に不満はない。田舎の生活だって嫌いではない。具体的な目標が有ったわけでもない。

 仲の良い友人たちだっていたのだ。


 それでも、だ。


 俺は村を出て旅立ち、大きな街で冒険者ギルドへ登録を果たした。

 理由は自分でもわからない。それでも、自分は旅に出るべきだと胸の中で何かが叫んだのだ。

 昔からそうだった。何か理由が有ったわけではない。ただ、昔から何かをやらないといけないという強迫観念にも似た衝動があった。

 自分に《スキル》が目覚めないことが原因だったのだろうか?それはまったくもってわからない。


 幸いなことに両親は心配こそしたが反対はしなかった。

 少々の路銀と応援の言葉をくれて送り出してくれた。感謝の言葉もない。

 村の友人たちもほとんどが同じような反応だった。心配はしても反対はしなかった。良い友を持てたと思う。

 ……約一名が凄まじく泣いて叫んでゴネて反対したものだったが、アイツも俺を心配してくれてたことは痛いほど伝わっている。

 旅立ちの日の最難関は間違いなく、こいつだった。やつを説得する為に旅立ちの予定は三日は遅れたのだった。


「駄目だよ!もう18歳になってまだ《スキル》にも目覚めてないのなんてロイスくらいだよ!?」


「それは……そうなんだけどっ!」


 そうなのだった。先ほども述べたが俺は、この年齢になれば誰もが持つ《スキル》が無い。

 《スキル》とは、この世界の人間がある程度の年齢になると自然と目覚める個人異能だ。

 異能とと言っても大半はしょうもない、大して役に立たないものが大半である。

 若い頃の母が父を射止めた最大の決め手が体温が人より温かいとかいう、それただの体質では?というような《スキル》だったというくらいだ。

 父に言わせると、抱き心地が良いとか、そんなことを息子に言うなという話だ。



「普通はそういうの、戦闘向きの《スキル》が発現した人がやるんだよ!ロイスの出る幕じゃないってば!」


「それは確かにそうなんだけど!」


「そうなんだよ!」



 ぐうの音も出ない正論である。それがこの世界における「普通」なのだから当然だ。

 まして本来なら《スキル》の発現は早ければ12,3歳で、一般的には16歳の頃には発現するものだ。

 《スキル》の発現に発育が関係あるのかは定かではないが、それにしても遅れている。

 幸いなことに、それが理由で差別をされるような村ではなかったが。



「《スキル》なしのロイスが都会なんて行ったら絶対に馬鹿にされちゃう!ギルドでチンピラに『無能は引っ込んでな』とか絡まれちゃうよ!?」


「そんな差別問題は初めて聞いたんだけど!?」


都会ではあるのだろうか。少し怖くなってきたのは秘密にした。


「でもメリッサ、俺は決めたんだよ。どうしても冒険者になりたい。いや本当にそれがやりたいことなのかもわからないけど……」



 拳をギュっと握りしめる。確かに俺に戦闘向きどころか《スキル》そのものが無い。

 本来は、戦闘に向いた《スキル》持ちが王国の兵士や冒険者などをやるものだ。それすらないのは茨の道なのはわかっている。

 分かっていても、止められない。ずっと小さい頃から、何かをやらなきゃいけないと、積み重なってきた理由のない感情なのだ。

 その為に、剣の鍛錬も欠かさなかった。少なくとも村の男子相手なら喧嘩でも負けない程度には鍛えた。

 何かをするために行きたい。ただ、その感情のために。



「それでも、俺は絶対に行くよメリッサ。ごめん……心配してくれてありがとう」


「んんんんん……………っ!」




 理屈でも感情でも俺を止められないと理解してしまった俺の幼馴染、メリッサ・ラントは、それっきり黙ってしまった。

 なおこの説得のために三日の時を費やしたことは再び記しておく。




***




 そして俺はもっと近くに有った冒険者ギルドを有する街、冒険者の街イニテウムにやってきた。

 冒険者ギルドで登録を済ませるとさっそく、新人でも受けれくれるパーティを探して入団を希望する。

 冒険者の街と呼ばれるだけあって、パーティの数は多かった。

 とは言え優秀なパーティは求められる実力が高く、一般人かつ《スキル》を持たない自分には無理だ。

 かと言って、いわゆる底辺パーティも厳しい。パーティの実力が低いのならまだ良い。

 ランクの低い底辺冒険者はほとんどがゴロツキやチンピラ、中には資格を剝奪された犯罪者だっている。

 さすがにそういった手合いは勘弁願いたい。

 しかし、選り好みをするわけにもいかない。どのパーティだって欲しいのは即戦力なのだから、駆け出しの新人を好んで入れたがるパーティは少ないのだ。


 いくつものパーティに入団希望を伝え、その度に前途を祈る言葉をかけて追い返される。

 差別があるわけじゃないにしても、《スキル》を持たない新人に対する目が厳しいのも事実だった。

 実績のあるような優良パーティは特に厳しい。

 仕方なしに、徐々に希望のランクを下げていき、最後に行きついたのが二人の中年男性冒険者のパーティだった。

 【草原の狼】という名の実績も評価もあるのだが、メンバーがたった二人と小規模なパーティだ。



「ああ、若いのにそりゃ大変だろ。いいさいいさ、うちに入りな。おっさん二人じゃ最近は色々と厳しいことも多かったしな。若いのは歓迎だ」



 如何にもな重戦士然とした筋肉質で大柄な肉体を持ち顎髭を蓄えた40代頃の男が笑いながらそう言った。

 最悪ソロも覚悟し始めてきたところに、この大男が天使のように笑って受け入れてくれたことに感涙する。

 筋肉質で大柄で顎髭の生えた天使がここにいた。


 天使の名はアルベルト。このイニテウムの街を拠点に活動するベテランの冒険者だ。

 今でこそ相棒と二人で、細々と活動するに留めているらしいが、実績も信頼もギルドからのお墨付きの優良冒険者のようだ。

 若い奴は一度はこの人の世話になるとか。



「おうい、ジョージ?構わんよな?」


「……はぁ、どうせお前が困ってる若者にお節介焼くのはいつものことだろ?」



 冒険者ギルドの飲食スペース、いわゆる冒険者の酒場でカウンター席に座って本を読んでいた男が面倒そうに答える。



「まあ、放っておいたら死にそうな若者だ。悪そうな人間でもなし、構わないさ」



 ジョージと呼ばれた男はそう言って視線を本に戻す。



「どうせ成長したらまた独立するんだろうけどな。いつものことさ」


「いいじゃねえかジョージ、若いやつが困ってる時はベテランが面倒見てやるもんさ。それで成長して巣立ってくなら結構なこった」


「そんなこと言ってるから、いつまでも僕たち【草原の狼】の評価は中堅下位なんだよ、アルベルト?」


「今更、評価が気になるような歳でもねえだろ」


 ジョージと呼ばれた男は本を閉じると、ため息を一つついてロイスに向き直る。

 もはやアルベルトとのやり取りには諦めが混じってるような、それはそれとして嬉しそうな不思議な表情だった。


「……魔導士のゲオルグだ。そこの脳筋とは昔からの付き合いでね。よろしく頼むよ新人くん」


「ジョージって呼んでいいぞ?」


「………まだそこまで親しくないだろ、まだ」



 二人の気安いやり取りに安心を覚えつつ、俺はこのパーティでやっていくことを決めた。

 面倒見の良さそうなベテランの教えを受けられるのなら、思った以上に両物件だったかもしれない。



「ロイス・レーベンです。よろしくお願いします!」



 これから仲間となる二人の大先輩に改めて挨拶をする。

 そして、同時に……



 バァンッ!



 酒場の扉が勢いよく開き。



「メリッサ・ラントです!私もパーティ入団を希望します!」



 俺は言葉を失った。


 ともあれ、その日から俺のーーーーついでに押し掛けてきたメリッサの、冒険者生活が始まった。




***




 重戦士アルベルトの率いるパーティ【草原の狼】は、相棒のゲオルグ、新人のロイス、ロイスを追ってきたメリッサの4人パーティとなった。

 アルベルトとゲオルグはもとよりベテランの冒険者だ。経験豊富で様々な冒険知識に精通している。

 

 ロイスはまだ新人で経験も薄い、何よりまだ《スキル》を持っていないと言う点では落ちこぼれと呼んでもいいのかもしれない。

 しかし、彼は努力している。アルベルト達が教えたことはしっかり覚えるし、何より村を出る前から鍛えていた。

 剣の腕前は平凡ではあるだろうし未熟でもあるが、決しては弱くはない。何よりやる気に満ちているだけで及第点だ。

 底辺のチンピラ冒険者で終わらないだろうと思える程度の素質はある。アルベルトからしたら十分な素質だ。


 予想外の拾いものはメリッサだった。

 野営や周辺探索、手先の器用さと勘の良さから罠解除や探知をあっさり覚え、運動神経も良く短剣を使った戦闘もこなす。

 彼女は非常に優れた斥候スカウトとしての素質を持っていた。

 そして容姿も良い。素朴で飾らないショートボブの茶髪の容姿は田舎っぽさはあるが、元の素材が良く野暮ったさは感じない。活発で明るく、よく通る声はいつも元気で人を明るくする。

 スタイルもよく、活動的なショートパンツから伸びる生足を眺めている男の数は多い。

 十代半ばの可愛らしい少女がおっさん達のパーティに入ったものだからギルドの冒険者からは色々言われたものだ。

 何より彼女の作る料理は美味しい。それだけでパーティの生活水準が大幅に上がってありがたい。


 さておきパーティの人数が増えるだけでできる仕事の数も増えるというもの。

 二人が入団してからは、簡単な採取・狩猟・護衛を中心に徐々に仕事を増やしていく。

 

 本来の【草原の狼】のレベルを考えれば魔物の討伐をもっと中心に行っても良いのだろう。

 しかし、まったく未経験の初心者を二人も抱えた段階でそれは危険が大きい。

 アルベルトとゲオルグにとっては問題なくてもロイスとメリッサの安全を考えればそれはよろしくない。まずは二人の成長が第一だ。

 やがて、二人の成長に合わせてゴブリンなどの初級魔物討伐や初級ダンジョンの探索など、冒険者らしい依頼をこなしていく。


 その甲斐もあって二人の成長は早かった。半年が過ぎた頃にはパーティに振り込まれるギルドの支援金なしでも依頼金だけで生活ができるようになった。

 ロイスは天才と言えるほど著しいものではないが真面目に教えたことを血肉にしていく。

 メリッサはその器用さと勘の良さ、物覚えの良さからくる斥候スカウト適正はもはや上級ギルドからも引き抜きの声がかけられている。

 ギルドにも知り合いは増えたし、アルベルトたちも頼ってくれることは多くなった。

 【草原の狼】というパーティがロイスたちにとって良い環境だったのは間違いなく、アルベルトとゲオルグには感謝の言葉もない。

 今、ロイス・レーベンの冒険者生活は順風満帆だった。




***




 冒険者という職業は夢と浪漫と戦いと危険に満ちている。

 人々はこの言葉に魅せられて、剣を取る。

 だが、それは何も決してキラキラ美しい言葉などではない。

 それは常に危険と隣り合わせの世界だと言うことに他ならないのだから。



 とあるダンジョン、今ロイスは薄暗い地下迷宮で剣を構えている。





「はぁ……はぁ…………冗談じゃない。なんで、こんなイニテウム近くの遺跡にドラゴンがいるんだよ……!?」





 【草原の狼】は、壊滅の状態に陥った。





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