第14話 今止めるからぁ‼
翌日、新入生オリエンテーションは滞りなく進んだ。生徒会の面々を見るとみんな隈ができていて、不安で顔が青ざめていたが。終わったころには、やりきった笑顔になっていた。
一方冬彦は無理と兄の寒葉さんの風邪がうつり、休んでいた。帰りにプリントを渡すことになったため、労いのカットフルーツと一緒に持っていこうと考えた。
放課後、神前に今日の生徒会には参加しないことを伝え、冬彦の家に向かった。道中、琉亞を見つけ“現実”の時とは違い、声を掛けた。
「琉亞じゃないか、どうした?お見舞い?」
「そうだよ。そう言うハルくんも?」
「ああ、先生に言われてプリントを渡しにな。あと、あいつも生徒会の仕事して頑張ってたから、労いのカットフルーツ」
「あっ、フユの好きなパインだ。フユは喜ぶね。流石、長い付き合いだね」
高校に来てからの話や、冬彦の昔話をして会話のネタにした。
現代では神前と一所に居たが、軽く探りを入れてもこの時点では何も接点はなかったため、二人の性格的にも状況的にも接点ができるとは考えにくく、高校卒業後に接点を持ったと考えた。
冬彦はかなり元気だった。どうやら体調が悪かったのは午前中だったらしく、新作のPCゲームをプレイしながら暴言を吐いていた。ジャンルはFPSと呼ばれるシューターゲームだった。
「あのやっろ、ぶっころだわ」
「あのな、お前今日休んだんだろ?少しは自重しろよ。ほら、これプリント」
「ありあり、ってそれ、パインじゃねーか。なんだ?俺に差し入れか?いいね、気が利くじゃないか」
「始めはそのつもりだったんだけどな。琉亞。一緒に食べるか。なんか、用意した俺が馬鹿みたいだ」
「・・・ごめんね。フユ」
手を口元にやって笑いをこらえるようにしているのだが、傍から見れば言いたくないことを隠しているように見えるわけで。
「セリフ、セリフ‼考えようよ、なんか変な気持ちになるから‼ソリッドブックみたいに‼ごめん、ごめんて、今止めるからぁ‼」
「純愛派の殺し方だな、問題点は俺にも効くことか」
「へへ、ごめんね」
血相変えて冬彦はゲームを止め、テーブルに座った二人に寄ってきた。そもそも渡すだけの予定のカットフルーツは一人1~2個食べたら無くなってしまったため、冬彦がおかしを用意して、琉亞が紅茶を用意した。
「ハルくんは緑茶が苦手なんだよね。だから紅茶にしてみたよ」
「よく場所知ってたな。好きに使ってとは言ったけど、ここ俺ん家だぞ?」
「前にフユの家でお母さん同士、好きなお茶を交換しててね、ついでにいろんなお茶をだしてたから、覚えちゃった」
お茶の話題ときて、次は治人と冬彦の生徒会の仕事の話になった。琉亞は基本的に聞き役だが、時折質問をして二人のことに興味があるようだった。
「こっちは、なんとか部活を回り切ったけど。そのあと、冬彦の手伝いをしたよ。冬彦はどんな感じだった?」
一応、夜の事は勘違いされそうだったので伏せて話した。別に隠し事をしないと決めた仲の良い友人同士だったわけでもなかったからだ。
「俺は泣きそうになりながら、地域の方や保護者向けの書類を。あと、新入生オリエンテーションの先生用の計画予定表とか作ってたよ。言われた通りやってただけで、ハルよりかは楽だったと思うぞ。先輩たちは、俺の作った書類のチェックと、過去の先輩たちの残した書類の整頓だったよ。前の生徒会がかなりクソだったらしくてな、重要書類も一度使ったら使わない書類も一緒にしたまま解散したから、みんな怒りながらだったよ。これからの行事の内容も決めなきゃならんのに、俺らが駆り出される理由もよくわかるよ」
忙しい理由に俺と琉亞は「あー」と目を伏せた。雰囲気が少し悪くなったのを感じた。
「寒葉さんはどうなの?今日は高校行った?」
「今日から高校に行っているってさ、生徒会の仕事は何とか回っているってさっき連絡来た。なんでも夜中に叫び声が聞こえたらしくてな、いたずらだと思うけど一応調査しなくちゃいけないんだとさまったくあの野郎のせいで、仕事が増えたし、会長さんにも近づけなかったし、最悪だよ」
思わず目を逸らす、今後なにも起こらないといいのだが。
「だよな・・・あの人別件で忙しそうだったしな」
「ハルは何度か会ったんだろ?いいな、俺がそっちになればよかった。で、少しは進展したか?」
「進展?」と琉亞が首をかしげ頭上にクエッションマークを浮かべて、しばらくすると納得して顔を赤らめた。
「なにもないよ」
「嘘つけ、結構お前といるところを見たって人いるみたいだぜ。特に一昨日の帰り道だな。なかよく、笑いあってたってな。おいおい、もうそういう関係になったのか?」
「誤解だ。まだそんな関係じゃない」
「まだ?そのあと変わるってか?かーいいね。青春してるねー、いやぁよかった。」
「違う。言葉の綾だって」
夕方になり俺は帰ったが琉亞がもう少し話していくいと冬彦の家に残った。通り道の公園で電話が鳴った。スマホにはシグマと書かれていた。
『どうだ?楽しんでる?青春は毒のように心地いいだろう?』
「その話し方と嫌味の言い方は本物だな。でも、どうしてだ?俺に話しかけてくればよかっただろう?」
『私は一緒で青春が嫌いだ。それに特にこの頃は理解してくれる奴はお前ぐらいなんだ。それなのにお前と話していたら、他の奴らから反感を買いそうだ』
公園に向かってベンチに座って話を続けた。
「そんなことあるかよ、俺の知り合いはみんなお前を嫌ったりはしない。みんないい子だ。少なくとも“現代”の大人よりかは」
『どうかな、人は昨日言ったことと真逆のことを明日言う生物だ。信用できないね』
「そう卑屈になるなよ。で、何か用か?」
『いや、ただの確認さ』
そう言って、シグマは声色を変えた。先ほどは多少感情が籠っていて人間らしかったが、今は実験対象と話すような、一定なトーンで淡々とした印象を覚えた。
俺はここまでのことをシグマに話した。シグマは聞いたことをそのままメモしているようで、紙の上でペンが踊っている音が聞こえた。
『そう、そのまま神前とくっつくんだな。よかったじゃないか、これで日記の目的は果たせる。で、どうなんだ?神前のことは好きなんだな?』
「・・・どうなんだろうな。わからない。うまく神前さんへの感情を言語化できない」
『そう。ならそのまま神前を助けていればいいさ。その感情を言葉にできるまで。じゃあまた連絡する。オーバ』
何か急いでいるように「オーバー」の伸ばし棒を言い切る前にシグマは切った。急いでいるならもう少し時間があるときに電話すればいいのに、よくわからないやつだ。
家に戻ると純玲が相変わらずむすっとした表情で、待っていた。昨日ほど嫌な感じはしなかったが、野菜炒めの味が極端に薄くなっていた。色は特濃に見えるのに味が水レベルという、むしろどうやって作ったのかわからないぐらいで、ある意味芸術のようだった。
「あの、ものすごく薄いのですが、純玲さん」
「そう?お兄ちゃんの下が何かに毒されちゃったんじゃないかな?だってほら、こんなに色は濃いのよ?」
「そ、そうですね。でも、味が」
「・・・」
純玲は笑顔のままいつも通り食事を終えて、自分の食器を片付けた。「これは水なんだ」と我慢しながら終えて食器を片付けた。
「しかし、なんで純玲は怒っているんだ?何かしたのか?俺は」
“過去”に来てから純玲に対してやってしまったことと言えば、やはり初日から歓迎会まで夜遅くまで居たことだろうか。なんにせよ、謝った方がよさそうだ。
純玲の部屋に行き、ノックしてみる。
「純玲、あのさ。初日から数日遅くなったのは謝る。いくら連絡したとしても遅かったよな。遅すぎたよな」
「・・・本当にそれだけだと思ってる?私って結構めんどくさいんだからね―――お兄ちゃん。まあいいよ。許してあげる」
「ごめん、今度からは気を付ける」
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