タムケノハル
雪水湧多
第1話 久しぶりに電話してきたやつが言った
「ねぇ!どうして⁉俺は折れる度に何度でも立ち上がって、このインターハイに賭けてきた!なのに、なぜなんだぁぁぁ!」
型落ちの小型テレビに卓球部のユニフォームを着た俳優が映っている。病室で膝から崩れ落ち泣き叫んでいた。背中を中心にカメラが引いていき、恋人を失ったとき喪失感を印象付けている。カメラが切り替わり、病院を全体に移すと慟哭が鳴り響いた。
「ミカリ!ミカリィィィィィィ!」
あと二話で完結予定のドラマを妹と一緒に見ている。小説をドラマ化して視聴率も悪くなく、最終回まで打ち切りの話は上がらない程度の人気だ。妹が好きなだけで別にドラマは好きじゃないが、恋人を失うという噂があったことと、卓球部を題材にした珍しい設定に惹かれ一話から一緒に見続けてしまっている。
「ねぇ、どうなっちゃうのかな?このままミカリちゃんは目を覚まさないのかな?せっかくユウスケが県大会出場を決めたのに」
「どうだろうな、案外このまま心臓のドナーが見つからずに終わるかもな。ミカリの血液型マイナスだし。そもそも心臓のドナーってそう簡単に見つからないだろうし」
「え~それじゃかわいそうだよ。きっと見つかるよね?治人お兄ちゃん」
「そうだな、きっと見つかるよ。きっと・・・」
『いつかあの卓で』という青春スポーツドラマ。テレビや広告で見たような人たちが演じている。演じる人は特に興味はない。この青春に惹かれてみていたのだ。
「さぁ寝るぞ、純玲、歯は磨いたか?」
「大丈夫、トイレはこれからだけど」
「じゃあ、先にベッドに行ってるな」
「うん、おやすみお兄ちゃん」
その晩、スマホのバイブレーションで起こされた。夜中の一時半のことで、ドラマが終わったのは二十二時なためそれほど寝れていない。
仕事先やいたずら電話だろうと、眼を擦りながらスマホの画面を見ると意外な人物からの電話であり、飛び起きて電話に出た。
「お前今まで何してたんだよ!」
『うわぁ、うるさいな。久しぶりに電話してやったのに・・・もう切ろうかな』
「何様だよ!こっちは夜中に叩き起こされて、四年ぶりの親友からの電話で頭がどうにかなってしまいそうだ」
『なら、また明日?かけなおそうか?』と電話の向こうから聞こえてきたが、見えていないのに首を振って「いや大丈夫だ。で、なんだシグマ」と返す。
『治人から言われると懐かしく感じるね。それで、要件なんだけどね。いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?』
こちらもシグマの回りくどい言い方に懐かしみながら、「前者」と答える。すると、にひっと笑う声がした。
『そうだね、良いニュースはアレが完成したよ。ほんと苦労したよ、前例がないんだから、なにせSFかライトノベルしか情報がないし。アイデアをひねり出すのに本当に苦労したんだよ。色んな犠牲も払ったし』
「でどうなんだ、行けるのか?」
食い気味の俺と対照的に電話の向こうのシグマは、ちょっと引け気味だ。一拍おいてからあきらめたように話し始めた。
『それが悪いニュース。治人の願いは叶えられない
--------やっぱり過去の一部分だけを修正して、今この私と話している時間につなげるなんて無理だった。つまるところ、治人が望むタイムマシンなんてのはできなかった』
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