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無銘

第1話 記憶

――その日は、寒かった。


冬なのだから当然と言えば当然で、それが田舎ともなれば尚のこと、輪を掛けて寒かった。


事実は小説よりも奇なりというが、その日、少年の眼前で起こった惨劇はあまりにも現実から乖離していた。


街が、沈んだのだ。


その街は四方を山に囲まれた小さな田舎町だったが、都市開発が行われ、少しずつだが発展を見せていた。


そんな折り、2020年の年末。新たな年が近づくその日、その街は沈んだのだ。


巨大な地震と大量の水。それが、文字通り一瞬で全てを飲み込み、少年から全てを奪った。


後に、『大晦日の惨劇』とセンセーショナルに報道され、あまりに多くの謎を残し、ある種の都市伝説と化したその災害の生存者は、少年ただ一人だった。


その後、少年は父方の伯父に引き取られた。

生活に苦労は無かった。

周囲が事情を知っているかどうかはさておき、そんな惨劇の被害者であることなどまるでなかったかのように、少年はごく一般的な子供と変わらない生活を送った。


だが、だからと言って、その記憶が薄れることはない。


少年は――守谷もりや悠希ゆうきと言う少年は、『自分のみが生き残ったという奇跡』を、『自分だけが生きること』を決して良しと思わなかった。


故に、悠希は自身を罪人とした。


「これは、俺の罪滅ぼしなんだ」

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