第一章 そして英雄へ
対の英雄
この日アレスティア帝国の王都は熱気に沸いていた。
それもそのはず、つい先日宿敵である
日頃から娯楽に飢えている民にとって今日は久々の娯楽なのでテンションが天元突破していた。
そして、「英雄様達が帰ってきたぞー!」という言葉と共に城門が開き、一糸乱れぬ行進で件の軍勢が入ってきた。
それを見た民達の歓声が爆発し、それを受ける兵士や騎士達も顔は引き締めながらも嬉しそうに進んでいく。
そして一際目立つ鎧をつけた二人の男が入ってきて、その二人を見た民衆は更なる歓声を上げた。
そう、その二人こそがアレスティア帝国の誇る二人の英雄である。
一人は黄金の鎧を身につけた黒髪赤眼の美青年。輝かんばかりの笑顔を向けながら自分たちに歓声を送る民達に手を振る。
一人は白銀の鎧を身につけ白髪碧眼の美青年。微笑を浮かべながら民達に手を振る。
二人が手を振れば更に歓声は大きくなり、二人を褒め称える言葉が次々に飛び交う。
「やっぱりアルバート様は最高だな!男の俺でも見惚れるほどのイケメンで更に強いとか完璧だよ!」
「何言ってんのよ!天炎の英雄よりもレイモンド様の方がいいじゃない!」
「あんたこそ何言ってんのよ!あの明るい笑顔を浮かべるアルバート様の方がいいじゃない!冷たい感じの氷剣の英雄よりも!」
「おいおい、何言ってんだぁお嬢ちゃん。あのレイ様のちょっと冷たい感じがいいんだよ。それに、見かけに反して結構フレンドリーだぜ。天炎様の数倍の頻度で市民街にいるからな」
「そうよ!レイモンド様の方が距離が近いしかっこいいしで良いじゃない!それに天炎様は距離感が遠いから、魅力を感じないわ!」
「はぁああ!?あんたねぇ……」
炎と氷、アルバート・アルテリオスとレイモンド・レインスターのどちらがいいかで喧嘩が起きるほどに二人の英雄は人気であった。
△▼△
そのまま広場に到着して、二人は演説用の壇上に上がった。そこには壮年の王が待っており事前に決められていた通りに二人は王の前に進み膝をつく。
「天炎の英雄、アルバート・アルテリオス」
「はっ!」
「氷剣の英雄、レイモンド・レインスター」
「はっ!」
「此度の働き見事であった。褒めて遣わす」
「「ありがたき幸せ」」
皆が認め、頼り、憧れる英雄が王の前に跪く。それはまるで物語の英雄を想起させる様な光景。それを見て民衆は更に盛り上がる。
だが、
(まだ喋るんだ。皇帝の話はやっぱり長いや)
(こいつの顔なんて見たくもないんだが。吐きそう)
(早く終わらないかな。僕はこういう儀式みたいなの苦手なんだよね)
(国の体制的に行わなければ面倒になる事はわかる。けどやはり気は乗らない。この鎧も剣も忠誠も全て偽物なのだから)
その中身は、酷いものである。
そんな事はつゆ知らず周りは動き、二人は立ち上がらせられ、皇帝が後ろから二人の肩に手を置き喋り出す。
「此度の戦、我々は当初またあの苦しく辛い戦争が始まると思い絶望した。……しかし!この若き二人の英雄の働きによって我々は憎くき帝国に大勝した!もう我々は帝国に、安寧を脅かされる心配はないのだ!何故なら我々には、アルスティアには英雄がいるからだ!」
オオー!と民衆が今日一番の盛り上がりを見せ、英雄様バンザーイ!!レイモンドさまぁー!アルバート最高っす!と様々な言葉が飛び交う。
それに二人はにこやかに応えながら、自身を、皇帝に認められ、名実共に英雄となった自分を思う。
((ようやくここまで来た))
(あの日から数年)
(あの誓いから数年)
(僕はようやく英雄を手に入れた)
(俺はようやく英雄になった)
(金、力、名誉、僕は全てを手に入れた)
(ようやく俺は誓いを果たせた)
((ああ……本当に英雄とは))
(最高だ!)
(最悪だ)
炎と氷、魔法と剣、陽と陰、黒と白、相反しながらも、似ている二人は、その思考も反対でありながら一部似通っていた。
それは二人が同じ出身だからか、剣士だからか、魔法使いだからか、それとも――
――英雄だからだろうか
『英雄』
それは、武勇や才知にすぐれ、普通の人には出来ないような事柄を成し遂げる人のこと。
だが、それは本当なのだろうか?
それは真実なのか?
それは英雄の一部ではないのか?
では、二人が執着する英雄とはなにか?
――光か
――闇か
――栄光の城の頂点か
――屍の山の頂上か
――実に造られた偶像か
――虚に包まれた幻想か
これは対の英雄の物語
そして――英雄の意味を問う物語である
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