花と星のワルツ

はる

第1話 出会い

 その少年は、美しい真っ直ぐな黒髪をさらりと揺らし、僕を見つめて云った。

「花ヶ瀬さんは死について考えたことがありますか」

 私は少し躊躇って頷いた。

「何度かね。答えの出ない問いだから、普段は……あまり考えないようにしているけど」

 

 私は大学3年の夏、ある富豪に雇われて、避暑地の病院で療養する星川渉という少年の家庭教師をやることになった。庶民の出である私は、避暑地というところに行くことがまず初めてだった。汗をかきながら坂道をのぼると、そこには瀟洒な白塗りの病院があった。受付で事情を話し、病室に通してもらう。ドアを開けると、そこには大きく開いた窓と、ふわりと揺れるレェスカーテン、そして背筋の伸びた少年の背中があった。

「……やぁ、はじめまして。僕は花ヶ瀬優也。君の家庭教師としてここに来た」

 そう声をかけると、星川渉はゆっくりとこちらを向いた。

「……あぁ、父が言っていた。はじめまして。僕は星川渉。病人です」

 そう自己紹介をし、彼はふわりと微笑んだ。少年らしい透き通った声質だが、どこか優しくて落ち着いた声色だった。私は幾分か安心して、少年の傍に歩いていった。気になったことを云う。

「……その病人ですっていうのは、みんなに言っているのかい?」

「気に入った人にだけ」

 そう少年はいたずらっぽく笑った。

「僕のアイデンティティって、それくらいしかないから」

「そんなことないさ。……私は君がどういった人間か、まだ分かってないけど」

「……花ヶ瀬さんは誠実ですね」

 そう星川少年は柔らかい瞳でそう云った。私は少し照れて頭をかいた。

「君はずっとここにいるの?」

 そう私が訊くと、彼は少し憂いだ目をした。

「13の時から。だから3年になる。友達にも会えないし、勉強は自分でするしかないし、とても退屈だったんだ」

「これからは私が勉強を教えるから、少しは退屈が紛れるといい」

 そう云うと、星川少年は頷いて私の手を取った。

「ありがとう、花ヶ瀬さん。お世話になります」

 星川少年からは甘い香りがした。

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