第2幕

確か、最初に話しかけられたのはちょうど1年前だろうか。

 冬、寒い日。

 白髭と白髪を生やした老人が話しかけてきた、気がする。

 もちろん、話した内容は全く覚えていない。

 さほど重要でもないので忘れてしまったのだ。

 

 僕はその日以来、彼の話を毎日聞き続けた。

 

 全く迷惑な話である。

 帰り道に名も知らぬ老人に淡泊な妄想を聞かされるのだ。

 自分としては一刻も早く家に帰りたいのだが、人間の本能だろうか、老人に声を掛けられた時、それを無視できないのだ。あるいは自分が作り出した強迫観念かもしれない。いずれにせよ善意は全くない。そう、全くないのである。

 

 と、そんなことを考えつつ寝床につくわけであるが布団の中に入ってからは何も考えなかった。何も考えずただ力が抜けた。

 理想の入眠状態である。

 

 これが僕の最後の安眠である。

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