112話 僅かな時
ハイエンドの光によって天守閣がふき飛ぶ。ハイエンドを振り切った体勢から残心したまま煙が立ち込める先を見据えた。
煙が晴れるとその先で掲げた左手から禍々しく光る結界を展開したムドウが宙に浮かんでいた。
「……再び封印されるとは、我も予想外であった」
ムドウの口から別人の様な声が響く。だがムドウはすぐに困惑した表情を浮かべ取り乱していた。
「誰だ!? 我々の中に貴様の様な者はいない筈だ!?」
「異な事を言う……我は始めから存在していた。お前達が黄泉の門を開いた時からな」
「門を開いた時……だと?」
ひとつの体で二人が言い合う。だがハイエンドの一撃を防いだのであろう方は平坦な声音の筈なのに底冷えする様な寒気を感じた。
「疑問に思わなかったか? 黄泉の者達が何の代償も対価もなく貴様に従った事を。一人二人ではなくあれほどの大軍を使役できた理由が貴様の才だと思っていたのか?」
「まさか……そんな」
「黄泉の者達が従ったのは
ムドウが左手を振るう。すると地震が……いや、
城を貫いて浮かび上がるのは月の様に巨大な岩だった。ムドウが指を振るうと岩にどこからともなく人骨が群がって手を掛けると亀裂が走り出した。
「軍装展開“
鎧を纏って翼を展開しながら突撃する。岩が黄泉の門だと察してこのまま放って置いたら確実にまずいと判断する。刀をムドウに振り下ろそうとしたがその寸前でムドウが左手を掲げ……。
「“
そう唱えた瞬間、不可視の力が俺にぶつかって弾き飛ばされる。鎧を通して伝わる衝撃に意識が飛びそうになるが翼を拡げて急停止する。
(なんだ、今のは……?)
詠唱も何もなくただ呟いただけで凄まじい威力の衝撃に襲われた。軍装を纏っていなければ致命傷になっていただろう一撃に戦慄を覚える。
「この程度か……だが我の力に耐える器ではある。我の力に馴染ませてきた甲斐があったというものだ」
「……まさか最初から、あの時からこれが目的だったのか? あれからどれだけの年月が、時が過ぎていると思っているのだ!?」
ムドウが驚愕の表情を浮かべながら叫ぶ。すると内にいる者は事も無げに返した。
「年月? そんなもの……我からすれば僅かな時よ」
黄泉の門が開かれていく。流れ出す黄泉の冷気がムドウに集まっていき力が増大していくとムドウが叫び出した。
「があぁぁぁあぁぁ!? き、消える!? 私が! 我々が! やめてくれえぇぇぇぇぇぇ!!」
ムドウの叫びが木霊する。だが黄泉の冷気は無情にも集まり続け、断末魔の如き叫びを上げると糸が切れた様に項垂れた。
「……ふむ」
ムドウの内にいた者が呟く。それが顔を上げると同時に黄泉の門が完全に開かれた。
「少しばかり時は掛かったが……まあ良い」
内にいた者の姿が変わる。王の如く豪奢ながら死装束を思わせる服装にムドウが若返ったかの様な容姿になったそれが放つ圧が鳥肌を立たせた。
「お前は……何者だ?」
「む……呼び名は幾つもあるが、ここはこの地での名を拝借するとしよう」
黄泉の門を背にそれは高らかに名乗った。
「我は黄泉。死の概念であり命あるもの、生けるものに終わりをもたらす者……貴様達が神と呼ぶものだ」
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