110話 封印(アリアside)


 地下の最奥に辿り着くとそこは一際広大な空間だった。だがその異様なまでの広さは空間の中央にあるものが納まる為だとすれば納得がいった。


「これが……黄泉の門?」


 部屋の中央に浮かんでいたのは亀裂の入った月を思わせる大きな物体だった。幾つもの人骨がしがみつくかの如く覆っており、その手は亀裂に掛かっていた。


「既に半分まで開かれている……これ以上開かれたらあの光の魔神を超える存在が顕現していたかも知れません」


「イル・イーターを超える……冗談ではなさそうね」


 部屋に入ると斬撃が降り注ぐ。セレナが咄嗟に結界で防ぐと黄泉の門の前に四人の人影が降り立つ。


「今の技は……」


 降り立った四人の骸が立ちはだかる。立ち姿から黄泉兵とは比べ物にならない強さを有しているのは明らかだった。


「早急に倒して封印するしかないわね」


「……アナタ」


 アリア達が構えるとアマネが骸の一人を見つめながらそう呟く。唯一兜をした骸は刀を納めたまま構えていた。


「……アリアさん、あの兜の骸は私達がやります」


「分かったわ」


 アリアはアメリ達の様子から察するとそれぞれ骸の相手をする為に分かれる。アリア達が動くと骸の二人が後を追い、ラクルは反対側にいた骸へと向かった。


「姉様、私に術を」


「……うん」


 ヒノワがカムツヒでアメリの力を増幅する。アメリは呼吸を整えるとアマネを見ながら言葉を紡いだ。


「母様。あれはただの骸です」


「!?」


「父様ならば私達に刃を向ける事を誰よりも嫌うでしょう。骸と言えどその様な事をさせられているならば止めなければなりません……何より」


 アメリは前に出ながら骸と同じ構えを取ると決意の込もった眼で見据えた。


「父様の魂は今も戦っています。黒い嵐となって」


「アメリ……」


 空気が張り詰める。永劫止まったままかと思われた時間は一瞬の後に互いの踏み出す動き共に動き出した。


 アメリの刀が骸に届く範囲に入る前に抜かれる。骸もまたアメリより長い刀身の長刀を抜き放った。


 拳ふたつ分長い骸の刀がアメリの首に迫る。だが一瞬早く振るわれたアメリの刀は骸の長刀を持つ手を斬り裂き、握っていた長刀を弾き飛ばした。


「“飛燕・渦昇り”」


 アメリの刀は翻って骸を逆袈裟に斬り裂く。胸に埋め込まれた呪符が斬られると骸は崩れていき、塵が舞う中でアメリは刀を納めた。


「せめて、骸だけでも安らかに……」


 アメリが流した一筋の涙が地面に落ちるとアリア達もそれぞれの骸を倒し終えた。







―――――


「それでは二人共、準備はよろしいでしょうか?」


 アマネがツクヨを手にしながらヒノワとラクルに問うと二人は頷いて答える。それを確認したアマネはツクヨを掲げた。


「“夜よ巡れ、月よ刻め、命ある者は朝日を通して中津原を歩み、命なき者は闇夜を通して黄泉国へと渡りたまえ”」


 アマネの詠唱と共にツクヨが輝きを放つ。黄泉の門の上に方陣と呪文が浮かび上がった。


「“日が照らすは育み、火が燃やすは命、明けぬ夜の帳を開け放ち、中津原に陽をもたらして黄泉路を分かつ”」


 ヒノワの詠唱によってカムツヒが光輝く。その輝きは方陣と呪文を大きくさせ光を強くすると黄泉の門を覆っていた人骨が剥がれていく。


「“生と死は分かたれた。摂理が混ざり狂わぬ為に楔を穿ちて此処に命の理を確立する”」


 ラクルが詠唱と共にザンマを振り下ろす。地面が勢い良く隆起して地割れが起き、隆起した地面が巨大な手の様に黄泉の門を包み亀裂を閉じると黄泉の門は地を揺らしながら地面に沈んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る