89話 山の刃と死の刃


(ドウゲンside)


(このガキ!? さっきまで完璧に心が折れてたろうが!?)


 振るわれる斬馬刀をいなしながら顔をしかめる。俺が操る刃をあのガキはクノウの技で弾いていく。


 背後の心配がなくなったラクルの攻撃は鋭さが増す。いなす事が出来ず受け止めるが強化されてなお屍骨喰を通して腕が痺れる重さだ。


(立ち直ったってのか!? ならきっかけはこいつか!? そんな偶然あるわけねえだろ!?)


 左腕から刃を生やして振るう。棘のついた金棒を思わせるシルエットをした左腕を地面から生えた砂の腕が掴んで止めた。


 土がラクルの腕に集まって大槌を模した岩になる。大槌は鳩尾に叩きこまれて衝撃で胃からこみ上げてくるものを吐き出すところだった。


「やはり傷を大きくするのも限界がある様だな」


 刃に触れた大槌に幾多もの傷が入って崩れ落ちる。だがその下にあった籠手に傷はなかった。


(こいつ、気付きやがったか!)


 屍骨喰はあくまでも傷を大きくする能力だ。かすり傷でも骨まで届く程の深手にする事は出来るが問答無用で全てを斬り裂く事は出来ない。


 端的な話、傷以上の分厚い盾や鎧があれば一、二回防ぐ事は出来る。だがそんな馬鹿なものを使うくらいなら避ける方が確実だし戦ってきた相手もそうしてきた。


 だがその馬鹿な方法を使って戦う奴がいた。しかもこれまでの避けようとする相手と違って何度斬っても致命傷には至らない。


 自分の培ってきた技術と経験が発揮できない相手に今までにないほど死の予感が背筋を走った瞬間、屍骨喰が斬馬刀で押さえられて岩を纏った拳が頬にめり込んだ。


「は……はは、はははははは!」


 殴り飛ばされて地面に倒れる。全身の痛みと感覚に気付けば笑っていた。


「これだよこれ! 生きるか死ぬかの瀬戸際を渡ってる感覚! 面白えのもイラつくのもぐちゃぐちゃのごちゃ混ぜになったこれが堪らねえ!!」


 立ち上がって屍骨喰を掲げる。左手にある刃で全身から血を撒き散らすほど傷をつけるとこれまで出した刃も屍骨喰に集まっていった。


「先の事だの後だのどうでもいい! 今この瞬間を楽しまなきゃなぁ!? “御霊喰みたまくらい”!!」


 屍骨喰が集まった刃を取り込んで巨大化していく。天を衝くのではと錯覚するほどの巨大で禍々しい刃を振り下ろした。


 巨大化した屍骨喰にラクルは真っ向から立ち向かう。踏み込むと勢い良く斬馬刀を身体ごと回転させると斬馬刀に土が凄まじい勢いで集まって急速に刀身を形成していく。


「“大山裂葬たいざんれっそう”!」

     

 ラクルが振り上げたのは巨大化した屍骨喰よりも倍の威容を誇る岩の刃だった。山から引き抜いたかの如き荒々しい刀身が唸りを上げて屍骨喰と衝突する。


 地鳴りの様な轟音が響いて巨大な刃が押し合う。屍骨喰の刃から邪悪な波動が放たれてラクルに届くと鎧の至るところに傷が入って広がっていく。


 岩刀が屍骨喰とぶつかり合っている箇所から罅が広がっていく。兜が割れてラクルの目元が露になると額から血が流れた。


「おおおおおおおおお!!」


「あああああああああ!!」


 それでも力の限り岩刀を振るうラクルの全身全霊の叫びに応える様に魂から絞り出した様な咆哮が喉から飛び出す。


 拮抗していたぶつかり合いはやがて崩れ、隕石が落ちたかの様な轟音と土煙が巻き起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る