71話 真っ向から


「ほう……」


 巻き上がった土煙が収まっていくと八雷神が感嘆の声を上げる、その視線の先には白亜の小手を左腕に展開した俺が立っていた。


「我等が雷を受け止めるか、それは龍の類か? 

……否、それだけではないな。お主の内にはとんでもない者共がおるようだのう」


 八雷神は興味深いとでも言う様に笑みを浮かべる。臨戦態勢を維持したまま問い掛けてきた。


「それほどの力を手にしながらまだ力を望むか? お主ならば我等の力などなくとも黄泉の門をなんとでも出来るであろう? かつての神器の担い手もおるようじゃしな」


 八雷神の眼のひとつが後ろにいるラクル達の方に向く。俺は右腕に漆黒の籠手を纏いながら構えた。


「確かに出来るだろうさ、この力はそれだけのものだって信じてるし疑った事は一度もない」


「ほう、ならば何故じゃ?」


「決まっているだろ」


 漆黒と白亜の籠手を打ちつける、拳護がぶつかり合って甲高い音が響くと同時に雷が迫ってくる。


「それじゃ駄目だからだ」


 八雷神が放つ雷を弾いきながら俺はそう告げた。






―――――


(ラクルside)


 目の前で八雷神と名乗る者とセルクが火花を散らす。それは戦いというより八雷神がセルクを試し、セルクもそれを理解して真っ向から挑んでいると言った方が正しかった。


 八雷神が周囲や四本腕から放つ雷をセルクは左右の拳で弾き、逸らし、打ち返す。徐々に苛烈さを増す雷を的確に捌いていた。


「どうして……あんな的確に」


 隣にいたアメリが目の前の光景を見ながらポツリと呟く。どうやらセルクが雷を一度も受け損ねない事に疑問を抱いているようだ。


「予兆を捉えて予測しているからだ」


「……予兆?」


 俺がそう言うとアメリは一瞬驚いたような顔をするがすぐに気を取り直して聞き返してきた。


「あの雷に限った話ではなくどんなものにも必要な動作がある。例えば奴は次の雷を右肩の辺りから放つ」


 俺がそう言うと八雷神の右肩辺りの空間が爆ぜて雷が放たれる。セルクは雷を打ち上げながら更に進む。


「剣を振る時に振りかぶる様に、矢を射つ時に弓を引く様に、魔術ならば魔力を集める必要がある。セルクはそれを察知する事で防いでいるんだ」


 雷を人の眼に捉える事は出来ない、だが放たれるタイミングと来る方向を予測できれば事前に動いて防ぐ事は不可能じゃない。


 そう説明するとアメリはセルクの動きだけでなく二人のいる空間を見る様にしていた。この分ならすぐに魔術の起こりを見れる様になるかも知れない。


(それにしても……)


 あの八雷神の雷に違和感を覚える。最初に放った雷に比べて起こりがわざと分かる様にしていると感じた。


 セルクを試しているからわざとしているのかそれとも違う狙いがあるのか……そんな事を考えながら行く末を見守っていた。

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