56話 束の間の休息
シオンの亡骸に思わず礼を取る、しばらくしてオヅマ軍からゼン達が数人の兵と共にこちらに向かってきた。
ゼン達は口を引き結ぶと俺の前で片膝をつく、ヒルコやフドウも片膝をついて屈した。
「黒嵐騎士ベルク、我々はシオン様に勝利した貴方に従う事への異論はない……だが許されるのであればシオン様の亡骸を渡していただきたい」
「弔う為、だな?」
「はい、シオン様を生まれ故郷であるオヅマの地にて埋葬させたいのです」
「分かった、だが雷顎焔嘴はこちらで預からせてもらう」
「お待ちを」
雷顎焔嘴を手にしてゴモン軍の方へと戻ろうとするとゼンから声を掛けられる。
「なんだ?」
「……シオン様は強かったか?」
突然の問いに少しだけ沈黙する、胸に灯った熱を思い浮かべながら言葉にした。
「強かった、将としても戦士としても尊敬に値する男だった」
「……そうか」
俺の言葉にゼンだけでなくヒルコやフドウ達も響いたのか声を殺して涙を流す気配が伝わってくる。
その場を後にして戻るとアリア達が迎えてくれる、ゴモン軍の前で雷顎焔嘴を掲げて告げた。
「勝鬨を上げろ! この戦は俺達の勝ちだ!」
ゴモン軍から歓喜の声が上がる、ライゴウもイルマもこの時ばかりは破顔して喜んでいた。
―――――
戦の後始末を終えて元オヅマ軍の五千と共にゴモンへと戻る、と言ってもいきなり軍を合流させるのは危険だと判断して俺が見ておこうと思ったがライゴウとイルマも協力するので今は休んでくれと言われた。
「今回の戦で近隣諸国も動かざるを得ないでしょうが……まずは兵達を労わなければなりません」
「うむ……それには最大の功労者がいなければなりますまい、今日のところは休んでいた方が後の為でしょう」
そう言って陽が暮れる前にゴモンで宴が開かれた、兵達だけでなく国民達も喜びの声を上げて賑わっていた。
俺も宴に参加していたが途中で抜ける、少し飲んで寝ようとしたが宿った熱が収まらず夜風に当たっていた。
月を見上げ、どぶろくと呼ばれるヒヅチ特有の酒を飲みながらこれからの事を考える。クセはあるが中々の味だった。
(シオンに勝利したという報はすぐに伝わるだろう)
ヒヅチ最強の武人が率いる軍を撃ち破ったという事実はオヅマの巨大な影を揺るがすものとなった筈だ。これまで沈黙を保っていた近隣諸国に働きかけて加勢を得ればオヅマへの侵攻が可能になるだろう。
(出来るだけ早く軍をまとめ上げて、オヅマに向かう……問題は相手の兵力、黄泉兵をどれだけいるかが分かれば)
考えるだけで頭が痛くなる、この手の事は兄貴やセレナの方が得意なんだが今回は任せっぱなしとはいかない。
(まずはアマネと共に近隣諸国と交渉か……後は合流したゼン達と最低限の調練や擦り合わせを……)
「誰だ?」
思わずため息をついたところで気配を感じてそちらを向く。
「す、すいません」
そう言って顔を出したのはヒノワだった。
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