55話 決着
刀を振り抜いた体勢から残心を解いてシオンと向かい合う、シオンの姿が人に戻っていきながら左手から雷刀が落ちて地面に刺さった。
「……その刀にも不死を斬る力があるのか」
シオンは口から血を流しながらも呟く、全てを焼き尽くすかの如き闘気は消失していた。
「見事だ、ベルク……約束通り俺の軍は鉾を納めお前に従うだろう。ヒヅチの武人として約束を違う事はない」
鎧を解除して向き合う、死がすぐそこまで来ているというのにシオンの眼は輝きを失う事なく俺を見ていた。
「ベルク、頼みがある」
「……なんだ?」
「オヅマを救ってくれ」
シオンは血を流しながらも言葉を紡ぐ、既に尽き掛けている命の火を繋ぎながら……。
「殿が……オヅマが道を違え過ちを犯しているのは分かっている……だがそれでも俺が生まれ、育ち、守ってきた国である事は変わらない」
それを為すのはシオンの誇り高さだ、忠誠心や故郷を守りたいという願いが築いた誇りがシオンの命を繋げている。
「殿を、止めてくれ……そうすれば、この戦いにも、俺の死にも……意味があると思える」
「……救えるかは分からない、だが出来る限りの事はやると約束する」
俺の言葉にシオンは笑みを浮かべる、流れた血が足下に血溜まりを作り出していた。
「良い眼だ……命を掛けた思いに応える将の眼をしている」
「……アンタは強かった、殺さなければ俺は負けてた」
シオンは強かった、将としても一人の武人としても尊敬を抱かずにはいられない男だ。
「アンタと共に戦いたかった……それが出来なかったのはアンタを殺す事でしか倒せなかった俺の弱さのせいだ」
「ふはは……それだけの強さを得て、まだ上を求めているのか……どれだけ過酷で濃密な時を戦い抜いてきたのだ?」
シオンは笑う、俺に対する敵意も悪意もなく純粋に俺より先に生きた者として俺を見た。
「それほどの強さと考えを得るほどの……退屈する暇もなかったのであろう人生は……一人の武人として羨ましく感じる」
「シオン……」
「だが、最期の最後で……これほど面白い男と出会い戦えた俺の人生も……悪いものではない」
シオンは笑う、死にかけの男が出せるとは思えない快活な笑い声は俺だけでなく両軍の兵の耳に届いた。
「まったく、馬鹿は死んでも治らなかったか」
シオンは笑いながら天を見上げる、雲ひとつない空に自分を映す様に。
「将としての責を果たせなかったというのに……悔いは……ない」
その言葉を最後にシオンの眼から光が消える、片腕を失い命の火が消えてもシオンは地に膝をつく事はなかった。
それが闘将シオン=フワの最期だった……。
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