32話 狂騒の嵐


「オヅマ軍の姿が見えました! 旗印からシオン=フワの軍に間違いありません!」


物見の兵から報告が上がる、それに頷きながら遠目に見えるオヅマの軍を視界に捉える。


俺達はゴモン軍と共に西水城がある山の近くにある平原に陣取っていた。


こちらの兵は四千、残りの兵はゴモンと城の防衛に回しており俺は兵達の前に立っていた。


アリア、セレナ、シュリンは右翼、ラクルにはヒノワと共に左翼を率いてもらい俺はライゴウを副官に本隊の二千を率いる事になっている。


「ベルク殿」


ライゴウが俺の横に来る、ライゴウから放たれる気迫はオヅマの軍勢を前にしても削がれている様子はない。


「どうしました?」


「いえ、かなり張り詰めたお顔をしていたので少々……」


ライゴウは気迫はそのままに案じる顔で俺を見る、大丈夫だと返そうとしたが彼にそうさせてしまうほど俺の顔は強ばっていたらしい。


「……初めてなんです、犠牲が出ると分かっていても指揮をしなければならないのは」


「……」


「俺の指揮で多くの兵が死ぬ、判断をひとつ間違えただけで被害が増える……どれだけ力があっても取り零してしまう命があるのは分かっていても堪えるものがあります」


俺の独白をライゴウは静かに聞いていた、そして真っ直ぐと俺を見ながら言葉を紡いだ。


「ベルク殿、実を言えば儂は諦めて玉砕を覚悟しておりました」


「え?」


「クノウ殿を殺され、外法に屈するくらいなら一人でも多くを道連れに死のう……そう考えおりました」


ライゴウは眼を閉じて静かに語る、だが眼を開いて俺を見ると口角を上げて続けた。


「ですがベルク殿は先の戦でも、今回の戦でも誰よりも危険な役回りをなされる。

思惑があるのだとしてもゴモンの為に戦ってくださるベルク殿達が生きる未来を示してくれた……。

例え死しても無駄にならないのだと信じられるからこそ兵達もベルク殿に従うのです」


ライゴウはそう言うと顔を引き締めて締めくくった。


「だからこう言いましょう……ベルク殿、思う存分戦いなされ」


「……ありがとうございます」


俺はガルマを一歩先に進ませると刀を掲げる、そして力ある言葉を口にする。


「軍装展開“黒纏う聖軍カオスクルセイダー”」


漆黒の鎧を纏ってオヅマ軍を見据える、風に乗せてゴモン軍へと告げた。


「ゴモンの戦士達よ!」


俺の声に大気が震える、奮い立つ心のままに叫んだ。


「この戦は多くの者が死ぬだろう! 多くの命が故郷に帰る事ができないだろう! だがそれでもひとつだけ約束しよう!!」


ガルマが嘶く、兵達の視線が全て俺へと向かっている事が伝わった。


「俺は必ずオヅマを倒しゴモンの未来を……お前達の帰る場所の未来を切り開く!!」


兵達の眼が輝く、武器を握る手に力が込もり爆発の時を今か今かと待ち構えていた。


「死を恐れず闘え! お前達の全てを以て俺に続け! 俺の全てを以てお前達に報いてやる! 行くぞ!!」


「「「お―――――――っ!!!」」」


ガルマを走らせる、兵達も大地が割けんばかりの鬨の声を上げて走る、その眼は闘争の狂気に彩られていた。











―――――


(シオンside)


「正気ですか? あの程度の兵で突撃するなど」


側に控えるゼンがこちらに向かってくるゴモン軍を見て呟く、対して俺は指示を出した。


「介者部隊の全てを進路に展開しろ! 術師部隊も後方で攻撃できる様に待機だ!」


俺の指示に兵達は動く、そしてゼンを見ながら告げた。


「まだ青いな、ゼン」


「?」


何を言われてるか分からないという顔をする従者に俺はふっと笑って教える。


「戦場で最も恐ろしいのは死を恐れぬ兵達だ」

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