18話 因縁
翌日、俺達は兵の鍛練の様子を見る事にした。
鍛練場では掛け声に合わせて弓隊が弓を引いたらすぐに下がり、入れ替わる様に長槍を一斉に突き出す槍隊等の兵科に合わせた軍事調練が行われていた。
「おお、来ていただけましたか」
掛け声を発していた壮年の男が休憩の合図を出しながらこちらに来る、その立ち姿に揺らぎはなく確かな技量を持つ武人である事が窺えた。
「まずは挨拶からですな、儂……私はライゴウ=ドウマと申します。
ゴモン軍の大将を任されている者です」
「ベルク=リーシュ=ミルドレアです、かしこまる必要はありません。
立場上は対等ですがこの地を守り続けた先達の戦士には敬意を払いたい」
互いに握手を交わしながら自己紹介する、俺がそう付け加えるとライゴウは破顔して答えた。
「ではお言葉に甘えさせていただこう、年を経ても話し方をかしこまったものにするのは疲れてしまう」
俺との挨拶が終わるとラクルとセレナとも挨拶を交わす、ふとカオスクルセイダーがうずいて休息を取るもすぐに動ける様にしている兵達の方に目を向けた。
「……かなりの練度ですね、それに一人一人の士気も高い」
「ええ、元々オヅマとの因縁もありまして兵達もゴモンを守らんと滾っております」
「……その因縁とはあの少女にも関わりが?」
俺がそう言いながら視線を向けた先には丸太に向かって打ち込み稽古をする少女がいた。
良く見れば昨日アマネの側に控えていた少女で鬼気迫る勢いで木刀を振るっていた。
「ああ、アメリ様ですな……確かにあの方も因縁深いですな」
「アメリ……彼女は一体?」
「アマネ様の娘でヒノワ様の妹です、術はヒノワ様が優れていますがこと剣に関してはアメリ様は父君クノウ様と同じく才がある」
「父君……その方はどちらに?」
「……亡くなった、いえ殺されたのです。
オヅマの骸将ドウゲンに」
ライゴウは憤怒を隠した表情でそう答える、そして苦々しい口調で話してくれた。
「クノウ様は優れた方でした、剣の腕も将としての器も……なによりも争いを好まず平穏を愛するお方でした。
オヅマが黄泉呪法を使っているとアマネ様が気付いた際もまずは対話によって解決を試みようと自ら交渉に向かったのです」
「真っ直ぐな方だったのですね」
「ええ……ですが感覚を共鳴させていたアマネ様は見てしまったのです。
ドウゲンによって斬り殺される姿を、クノウ様の首が送られてきたのはその数日後でした」
告げられた内容にセレナが息を呑みラクルの気が張り詰めたものになる、俺も二人がいなければ気を乱していただろう。
「アマネ様もヒノワ様も深く嘆きましたが民の為にと気丈に振る舞い、アメリ様は必ず仇を討つと一層稽古に励んでおるのです。
……無論儂等もです」
兵達が休憩を終えて鍛練に戻る、その気迫からクノウがどれだけ慕われていたか察せられた。
「ベルク殿、どうかアマネ様達の力となってくだされ。
……さすれば儂等は最後の一兵となっても戦ってみせましょう」
ライゴウの言葉に俺は深く頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます