1-1 【始まりの騎士】の友達
01 宝箱ゲットだ……!
ついにこの時がやってきたのだ。
ついにっ……ついにっ!!
(最下層のボス部屋に忍び込むことに成功したっ……!!)
感動で声が漏れそうになるのを必死で堪える。
ダメだ。少しでも声や息を吐けばアイツにすぐにバレるからな……!
(我慢だ。我慢……)
今、目の前にいるのはこの【オブジェクトダンジョン】──通称【オブダン】の最終階層のボス。
名前は知らん。とかくでっかい黒色の犬っころだ。
コイツは鼻が効く。足も早いし、噛みつきなんて食らったら一撃で死んでしまう。
そんな奴を倒すことがボクの目的……。
(なわけがないだろ!! そんなの無理だ無理無理!!)
ボクの目的はコイツの後ろにある宝箱だ。
ってかやっぱり宝箱あるじゃねぇか。誰だよ「オブダンの最下層には強いボスがいるだけです〜」とか抜かしてた奴は。
心の中で大きな愚痴を叩きつけながら、漏れ出しそうだったため息を肺の中に押し留めた。
(でも……やっと、これまでの努力が報われるんだ……)
あるかどうかも分からなかった、あのたった一つの宝箱のために、気が遠くなるほどの時間をかけてここまで来た。
気が遠くなるって言っても……まぁ、二年ほどなんだが。
『GRRRRRRRRRRRR……』
(かおこわ……)
抜き足差し足で『犬っころ』に見つからないように通り過ぎて行く。
呼吸はせず、慎重に。あとちょっと、数メートル……転んだりしないように。
まじで、頼むぞ。震えるな、ボクの足っ……!
(ここまで来るのにどれだけ苦労をしたか……)
涙がほろりと出てきて、今までの記憶が走馬灯のように思い出してきた。
ボクの名前は
皆からはよく「チビ」とか「ゴミスキル持ち」とか「ぐるぐる目」って言われてる。まぁ、事実なんだから仕方ない。
あと、ダンジョンに潜ってるが、
ボクは正真正銘の一般人だ。一般人と
その
そのランクはEランクから始まり、最高到達点はAランクまで。Eランクというのはダンジョンでモンスターを倒してたら自動で上がる。
要するに一般人がモンスターをある程度倒したら、自動で「君は
だが、繰り返して言うがボクは一般人だ。
モンスターを一体も倒さずに【オブダン】の最終階層まで来ている。
頭がこんがらがってきた? でしょう。走馬灯中のボクも苦笑いをするレベルの「何してんだコイツ」感だ。いや、ホント何してんだ。
だけど、ご覧の通りだ。ここの最下層で、ボクはボスに『認識』をされていない。
これがどういうことか分かるだろうか。分かんないよね。ぶっちゃけ、ボクも分かってない。というか本当に思いつきの作戦だったのだ。
名付けて『一般人で、陰キャのスキルレベルが最大ならボスにも見つからないんじゃね!?』作戦!
これが上手く刺さってボク自身も笑ってる。
この作戦を思いついた理由は二つ。
まず一つ目。隠密系スキルの『陰キャ』のスキルレベルは、戦わずとも上がることに気付いた。
やり方はモンスターの近くをバレずに通り過ぎるだけ。
字面では簡単そうだけど、上げるのマジで大変だった。
二つ目は、
じゃあ逆の一般人なら? と思ったら大当たり。一般人なら存在感が全くないことに気付いた。
ここまでのことをまとめると、モンスターに近づいて離れての繰り返しで2年間が消えていった、ということになる。
自分の走馬灯を見ながら思うが、本当に何やってんだろうなぁ。
まぁ、他のスキルも結局は戦闘系スキルではないから、正攻法では戦えないのだ。
【陰キャ】──隠密行動が可能。陽キャとパーティーを組んだ場合は弱体化。
【ぼっち】──ソロ状態で強化。パーティーを組んだ場合に弱体化。
【脳内お花畑】──隔離空間に移動が可能。ある程度の物は貯蔵可能。
見ての通り、戦闘向きのスキルなんて一つもないし、パーティーを組んだ時点でくっそ雑魚カスになる。
パーティー必須のダンジョンで自己完結型のスキルばかり。そりゃあ、白い目で見られるし、大人から「
世間はパワーレベリングだ〜とかなんとかって、みんながみんなパーティーを組んで、学生ですらダンジョンで小銭を稼ぐ奴がいるってのに!! こんな危険なダンジョンでパーティーを組んだら弱くなるって終わってるだろ!?
えふんえふん。ちょっと感情的になった。愚痴るくらいは許してくれ。
そんなこんなで【装備なし】【周りは高レベルのモンスターだらけ】【孤独】の状態で、諦めずにこの最終階層までやってきたわけだ。
ぶっちゃけ、正攻法でここの最終階層に来ようと思えばいくら時間をかけても足りない。
オブダンの
Aランクの
要するにだ。陰キャぼっちのボクが普通にやろうと思ったら、人生を投げ売ってでも足りないということ。
じゃあよぉ「他に道はないか」って考えるのも普通だよなあ。
(ってか……やべ。……なんか、走馬灯見えた……)
口元に滴っていた涎を拭い、前を向く。
あとちょっとってところで変なもん見せやがって。はやく前に進みたいんだっての。
(もう少し……もう少しでっ)
犬っころの尻尾を横目に、宝箱に手をかけた。
よしっ!! このまま宝箱を開けて──……。
がちゃ。
『!!!!!!????』
『犬っころ』が音に気付いて、身の毛のよだつ形相で振り返った。
『…………?』
が、そこにボクはもういない。
脳内お花畑に背中から落下したところだ。
「
これは緊急避難に使えるスキルだが、ここから出てしまったら、再度、あの空間に逆戻り。
待ち伏せされてたら終わりなので、使い所は気をつけなければならない。現状のスキルレベルだったら一日に一度しか使えないので、このタイミングで使うつもりはなかった。
だが、ひとまずは……!
「宝箱の中身、ゲットだ!!」
息を切らせながら、宝箱の中にあった本を掲げた。
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