根暗な私に恋してください
うっちー
第1話 根暗な私に恋してください
「はあ……私、いつになったら友達できるんだろ……」
明るい日差しが教室を照らしている。男女問わず賑わっている教室の隅に座っている私・赤瀬日和は今日も一人、クラスの中で浮いていた————————。
幼い頃、父に買ってもらった本をきっかけに読書の楽しさに気づき、それからずっと読書しかしてこなかったせいで、友達を一人も作らずそのまま貴重な中学校生活が終わった。高校生にもなると流石に友達を作らなければまずいと思い、私は住んでいる地域より電車で一時間ほど離れた高校に入学した。そこだと一から友達を作れると思っていたが、一年たった今……まだ一人も友達ができていない。それもそのはず、私の入学した高校は地元の中学から進学している人が九割で、クラスの大半が昔からの友達で固まっていた。そのほか一割の人たちは自分から声をかけたりしてクラスに溶け込んでいた。生まれてから一度も友達のできなかった私に自分から声をかけれるようなコミュ力などあるわけがなく、結局そのまま一年が経って、現在に至る。
「この後、この店行かない?」
「あ! そこ、行きたかったとこ!」
放課後になり、クラスの女子が会話をしながら教室を出ていった。私も友達作ってその店行きたいな。どこかわからないけど。友達のいない私は外にいても何もすることがないので学校が終わるとまっすぐ家に帰る。
「ただいまー」
家に帰るとすぐさま自分の部屋に入り、ベッドに飛び込む。
「まあ、そのうちなんとかなるか……」
今日も友達ができず、一日が終わる。
「今日こそは友達作ろう!」
駅から学校までの道を一人歩いていた。ポケットからスマホを取り出し、電子書籍を読む。“歩きスマホ”ならぬ“歩き読書”だ! これが一日の楽しみでもある。普通は危ないからやらないようにね。
「この時間がずっと続けばいいのに……」
電子書籍で自分の好きなサスペンス小説を読みながら曲がり角を曲がる。
「いた!」
「うお!」
ドン!という音と共に私は地面に倒れ込む。もう、急に飛び出てきてなんなのよ。まあ歩き読書しながら歩いてた私が悪いけど!
「大丈夫?」
私の頭上で優しい声が聞こえ、すぐに顔を上げた。そこにいたのは私と同じ高校の制服を着た男子が私に手を差し伸べて立っていた。
「ア……アリ……アリガ……トウ……ゴ……ザイマ……ス……」
家族以外の人と久しぶりに喋った私は声を詰まらせながらに御礼を言い、彼の手を取って立ち上がった。
「歩きスマホ、危ないよ?」
そう言って彼は地面に落ちていた私のスマホを拾って私にそっと渡した。
「ア……アルキ……ドクショ……デス……」
「ん?」
「……ナンデモ……ナイデス……ワスレテ……クダサイ……」
「あ、そう?」
「ジャ……ジャア……」
人にぶつかった挙句、相手の顔も見ずに自分の世界観を押し付けて、私、めちゃくちゃ恥ずかしくない? さすがコミュ力0の私。
「あの人…かっこよかったな……」
彼に謝り、あの後すぐにその場を去った私は、ふと彼の顔を思い出した。一瞬しか見ていなかったが、あの顔はテレビに出ているそこら辺のアイドルに負けないくらい整った顔つきをしていた。
「あの人と同じクラスだったらいいなあ……」
どうせ話しかけれないのにそんな期待を胸に私は学校へ行く。
「転校生の基山俊介君だ」
「基山俊介です。よろしくお願いします」
いや、本当に同じクラスになっちゃったよ。神様は私の味方だったりする? そんなわけないか、味方だったら友達の一人や二人いるはずだし。
「じゃあ、基山。赤瀬の横の空いてる席が君の席だから」
「わかりました」
はあ……一度でいいからイケメン男子と席が隣になればいいのになあ……あれ? 先生……今なんと?
「じゃあ赤瀬、基山にいろいろ教えてやれよー」
え…本当に隣になっちゃったよ。こんなことある? 神様は急にどうしたの?
「よろしく。赤瀬さん」
「…………」
かっこいい顔でこっちを見ないでえ〜。友達いないコミュ力0の私が喋れるわけないじゃん!
ホームルームが終わり次の時間まで十分ある。せっかく隣になれたのだから私が最初に声をかけなければ!
「あ……あの……きや……まく……」
「ねえねえ基山くん! どこからきたの?」
「基山くん、かっこいい〜」
「基山くんって彼女いるの?」
「基山くん! 次生物の授業だから一緒に行こう!」
「「「私も行く!」」」
教室はあっという間に私一人となった。陽キャ女子の占領すごすぎでしょ……まあそうよね、気軽に話しかけれたら今ごろ友達できてたし。友達いないからこうなってるのに。こうして根暗隠キャは陽キャの波に飲まれて消えていくのよね。そんなことを思いながら私は教室を後にした。
午前中の授業が終わり、昼休み。今度こそ話しかけて彼と友達になるんだ!
「あ……あの……きや……まく……」
「おう俊介! 一緒に飯食おうぜ!」
「俊介、俺のジュースいる? 飲みかけだけど」
「俊介! 飯食い終わったらグラウンドでサッカーしようぜ!」
「「俺もする!」」
あっという間に私の席の周りは誰もいなくなった。まあ、クラスの女子にさえ話しかけれないコミュ力0の私がイケメン転校生に話しかけれるわけがなかった。私も男子を下の名前で呼んでみたいなあ…………苗字でも呼べてないけど。ハードル高すぎるよ! ん? なんか一人気持ち悪い人いなかった? まあいいや。
「結局今日も私一人か……」
昼休みも話しかけれなかった私は屋上で一人、昼食を取っていた。いつも通りのことだから別に気にしていない…………嘘……めっちゃ気にしてる。早く友達作らなければ、このまま社会に出たら終わってしまう!
「そうだ! クラスの女子に俊介くんのことを色々聞いてもらおう!」
クラスの女子経由で彼のことを聞いてもらえれば、その話題で話を切り出せるのではないか。革命的な考えを思いついた私は食べ終わった弁当箱を鞄にしまい込み、すぐさま屋上を出た。
「ん? 待てよ?」
階段を降りている途中にふと思い出す。そうだ……私……そもそも女子の友達いないんだった。
「まあ……とりあえず……俊介くんのこと見てるぐらいしかできないか……」
根暗でコミュ力0な隠キャはいきなり話しかけるよりも、相手のことをよく観察してから話しかけないと……自分から話しかけれないんだから。
「基山くんってどんな人がタイプ?」
私が屋上から戻り、自席に座って本を読んでいると、隣に座っている彼に対してクラスの陽キャ女子が聞いた。それを私は本を読んでいる風に装いながら耳を傾けて聞いている。
「ん〜。静かだけど、ときどきおもしろい人とかかな?」
「え〜ん。やだ〜。じゃあそれ私じゃん! 私、おもしろいし静かだよ?」
そんなわけない。陽キャが静かなわけない。けど、いいことを聞けた。静かでおもしろいか……。
「じゃあ、他にはないの? 性格とかじゃなくてさ!」
最初の回答に納得が行かなかったのか、続けて質問をする。
「え? 他に? ん…………綺麗で、よく食べる人?」
「そうなんだ〜。なんか意外〜」
「え〜。そうかな〜」
彼の回答を耳だけを傾けて聞いていた私はすぐさまノートに書き留めた。
「はい、みんな席に着けー」
先生の言葉と共に彼といた女子たち含め、クラスで騒いでいた人たちはみんな席に着いた。それと同時に先生は授業を始めた。
「静か……おもしろい…………綺麗……よく食べる……」
みんなが授業を受けている中、私は一人、彼の好きなタイプを小声で復唱していた。
「お笑い……お笑い……あと……化粧の本…………」
私は一人、本屋さんに来ていた。昼休みの会話に出てきた彼の好きなタイプに少しでも近づけるために、自分なりに本で調べてみようと思っていたからだ。
「何これ? ファン……デーション? 何に使うの?」
今まで本にしか触れたことがなく、化粧に疎い私が理解できるものではなかった。
「お笑いって……コントか漫才……どっちがいいんだろ……」
お笑いなんてものは家族がたまに見ているぐらいで本当に何がおもしろいのかイマイチわかっていなかった。そもそも彼の言うおもしろい人というのがお笑いと関係あるのかさえ怪しくなっていた。
「とりあえず、これで試してみようかな……」
結局最後まで意味のわからなかったお笑いと化粧の本を買い、本屋を後にした。
「でも……これ…………意味あるのかな……」
わけのわからないことをいきなりして、逆に怪しまれないだろうか? 私の近くで話していたし、そもそも根暗隠キャの私を嵌めるための嘘なのではないだろうか? と嫌な憶測ばかり考えてしまっていた。
「そもそもこんな私が俊介くんと仲良くできるわけないよね…………」
根暗だし、コミュ力0だし、友達一人もいないし…………それに比べて彼は明るくて、イケメンで、転校初日に友達たくさん作って、おまけに優しい…………え、本当に完璧じゃん。こんなことになるなら小さい時から友達作っとけばよかった。なんてことを今頃になって考え込んでいると…………。
「ドン!」
「あ……すみません……」
通行人の肩にぶつかった私は謝るのと同時に歩道から露出している道路に飛び出してしまっていた。小さくて弱々しい女子高生の体が社会人の男性の体に耐え切れるはずもなく道路に飛び出てしまった私から少し離れた距離からトラックが走ってきていた。トラックの運転手の焦っている顔がはっきりとわかった。それと同時に道路に飛び出ていた私の腕を誰かが背後から歩道に向かって引っ張った。
「ドス!」の音と共に私と誰かは歩道に倒れ込んだ。
「大丈夫?」
倒れたままの私に誰かはすぐに立ち上がり、声をかけてきた。今朝からずっと聞いたことのある声だった。私はそのまま声のする方へ顔を向けた。
「だ……大丈……ブ!?」
返答したのと同時に私は声の主の顔を見て驚いた。声の主は転校生の彼だった。
「大丈夫? 赤瀬さん」
彼は手を差し伸べて私の名前を読んだ。顔……覚えてくれてたんだ……なんてことを考えてつい頬を赤くしてしまう。
「だい……丈夫……で……うわ!」
彼の差し伸べていた手を取り、お礼と共に立ち上がった私だったが、彼の引っ張る力が強かったせいか、私の小さな体が彼の大きな体に包まれる。さっきまで頬を赤くしていた私は顔までも赤くなってしまう。え…………いいの? 私みたいな根暗な隠キャがイケメン転校生の腕の中に入っちゃっても…………。
「あ……ごめん! 立たせるだけだったのに」
「ダ………ダイジョウ……ブ……デス……」
危なかったとはいえ女子高生を抱きしめてしまったことに彼は謝罪をした。私は他人にしかも同じクラスの男子に抱きしめられたことが一度もなかったせいで、頭の中がお花畑になっていた。
「よかった! 怪我してなくて」
私の頭の中がお花畑になっていることも知らずに彼は私の体を見て言った。って! 早く目を覚ますのよ! 私!
「ア…………ナンデ……ココニ……イルンデスカ……?」
お花畑からすぐに目を覚ました私は彼に問いかけた。
「? 帰り道にたまたま赤瀬さんが見えたから」
「ソ……ソーナンデスネ…………」
「そんなことより、よそ見してちゃダメだよ」
「ソ……ソウデスヨネ……スミマセン…………」
彼は私の目を見て話してくる。きゃ〜! こっちを見ないでえ〜。ダメだ……カッコ良すぎる……彼に話しかけられる勇気さえあれば…………あれ? 私、彼と話せてない? 話せてるよねえ! やった〜! 心の中の私はガッツポーズをする。
「本屋さんで何買ってたの?」
私が心の中にいる時、彼は私の買った本たちが袋から飛び出かけているのを見て、袋を拾い、中身を見た。
「お笑い芸人になるには? 誰でもできる、化粧の秘訣……?」
「あ…………ソレワ…………」
終わった…………お母さん……お父さん……近所のおばちゃん…………私の青春…………無事……終わったよ…………。
「ブ! ワハハハハハハハハハハハ!」
あ……完全に終わったよ……笑われたよ……あ……泣きそう……もう帰っても良いかな……。
私はただただ下を見るしかできなかった…………。
「あ……ご、ごめん! 笑うつもりじゃなかったんだ」
「へ?」
「いや……俺の為にここまでしてくれるのかって思って!」
彼から謝罪と共に驚きの返答がきて、私は固まった。
「今日一日、ずっと俺に話しかけようとしてくれてたよね?」
「へ?」
なんで彼は私のしてきたことがわかるの? 神様? それともストーカー? いやいやいや、こんなイケメンが私みたいな根暗隠キャをストーカーするわけないし、どちらかといえば私の方が彼のストーカーしてるみたいに見えるし。彼の言葉に対していろんな考察をして頭の中が混乱した。
「ホームルームが終わってから話しかけようとしてくれてたのはわかってたんだけど。女子とか男子がいっぱい話しかけてくれるもんだからなかなか赤瀬さんと話せなくて……でもさっき君が本屋から出てくるのを見かけて、今ならゆっくり話せるかなって思ってさ」
彼はそう優しく私に語りかけてくれた。彼はなんて優しいのだろうか。普通の人なら根暗隠キャのことなんかほっとく人が大半だったはず(個人の意見)。なのにわざわざ放課後の時間を割いてまで私なんかに気にかけてくれて。そんなことばかり考えていると彼が再び口を開いた。
「ずっと君と……赤瀬さんと話したかった」
「へ?」
彼の意外な言葉に私は思わず変な声が出てしまった。なんで私なんかと話がしたかったのだろうか。
「この本……俺の好きなタイプに寄せる為に買ったんでしょ? 昼休みの話聞こえてたよね?」
うん! そうだよ! って言いたいところだったが、今まで同級生と話したことなんて一度もなかった私が今頃そんな元気な声が出せるはずもなく、そのまま顔を頷かせた。
「おもしろい人ってお笑い芸人ってことじゃないよ?」
私の頷きと共に彼は優しく微笑みながらに指摘した。
「ほんとに赤瀬さん、おもしろいね」
少し顔を赤くした私に彼はそう言った。おもしろい? 私が? なんで? おもしろいわけないじゃん。根暗で隠キャで、コミュ力0だし友達一人もいないし。私は全力で頭を横に振る。
「え? そうかな? 俺は赤瀬さんのことおもしろいと思うけどなあ〜」
きっと彼は心の底から私のことをおもしろいと思っているのだろう。今まで人と関わったことがない私でも一目見ただけでわかった。彼は本当に優しい人なのだと————————。
「俺と…………」
彼が喋り出した瞬間、私は気づいた。彼も同じ気持ちなのだと。だったら私も勇気を出さないと。告白なんて人生で初めてするけどどうか私の味方でいてください。神様…………。
「私と…………」
私も彼に続けて喋り出す。
「俺と友達になってください」
「私と……付き合って……ください」
…………………………………………え? 今……………………なんと?
「え? 俺と付き合う?」
私の言葉に彼が戸惑う。
「え? 私と友達に?」
彼の言葉に私が戸惑う。
「付き合うって…………早くない?」
「へ?」
あれ? なんで? 何が起きたの? 私何か変なこと言った?
「俺はてっきり、友達になるのかと…………」
「——————ッ!」
私は自分の言ったことと彼が言ったことの違いに今頃になって気づき、すぐに顔を赤くした。それに比べて彼はずっと「早くない?」と言わんばかりの顔をして首を傾げていた。
「わ…………わ……忘れてくださあ〜いいいいイイイイイイイ!」
顔を赤くした私はそのまま自分の鞄だけを持ってその場を走り去った。
「あ…………ちょ……と……」
すぐにその場から離れようとした私の背中を見て彼は呼びかけようとしたが、私が異様に速かったのか彼が呼びかける前にはもう見えなくなっていた。
「本…………忘れてる……」
「んもう! 私のバカバカバカバカ!」
何勘違いしていたのだろうか。彼が私のことを好きだと。私のことをおもしろいと言ってくれたから? そんなにちょろいのか私は!
『俺と友達になってください』
彼の言葉を思い出した。そうだ。友達にはなってくれるんだよね? 私、返事したっけ?
『え? 私と友達に?』
『へ?』
『——————ッ!』
『わ…………わ……忘れてくださあ〜いいいいイイイイイイイ!』
……………………私、返事してないや…………。うわああああああああ! 全て終わった…………。人生初の告白…………撃沈。私に神様なんていなかった…………。おまけに彼の言葉を無視してあの場を後にしてしまった。こんな醜態を見た彼はどう思うだろうか? 絶対嫌われたに決まってるよ! 本当に終わった…………。
「も〜!」
同じ高校の生徒が歩いている道の真ん中を今まで出したことのないほどの声で走り去った。
「も〜絶対に友達作ってやるうううううううう!」
彼に醜態を見せてしまった私はこのまま彼に顔向けできない。だから私はまず、友達を作ろうと思う。友達を作って彼と付き合って、青春してやるんだあああああああ!
そう心に決めて私は夕日の下を走る。絶対に友達を作るために。
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