第21話 れんこん



 子どもの頃はさほど好きではなく、食卓に並ぶ料理の一部でしかなかった食材が大人になってからものすごく好きになることがある。


 いや、そもそも子どもの頃私が好きだったのは、いちご、りんご、とうもろこし、甘いもので、あとはそれ以外というくくりだったので、そのくくりの中に入る食材は山ほどあることになるのだが。


 今は冬ということで本日は蓮根を調理法から語りたい。


 福岡で生まれ育っているので蓮根を使った料理で一番に思い浮かべるのは筑前煮。

 具の一部に必ず入っているもので、この場合、泥を落として一口大の大きさに切ったものを鶏肉や他の野菜と共に炒めて出汁で煮るのが定番だろう。


 次に、酢蓮根。

 正月のお節に縁起物として一役買っているけれど、私は常備菜の一つにすることが多い。

 輪切りにして(私はかなり薄めに切る)酢水にくぐらせたのち、沸騰した水の中に少し酢を落とした鍋で数分茹でたのちザルに上げ、酢と水と砂糖と塩と鷹の爪を合わせたボウルに入れて馴染ませた後、瓶に詰める保存食だ。

 酢の物が好きなので、酢蕪とともによく冷蔵庫の中に鎮座しているものの一つとなる。


 それから、母が良く作ってくれたのは牛肉とニンジンと蓮根のきんぴら。

 いつもは薄味だけど、これに関しては醤油の風味が効いていてご飯がすすむ。

 実家へ寄ると土産にもらう総菜の一つだ。



 ところで、蓮根自体が傷むのが早く、ちょっと目を離した隙に白カビが生えてしまう。


 なので、入手したらすぐに洗って一口大の乱切りにしたものを茹でてザルに上げ、ジップロックに詰めて冷凍保存すれば、そのあとなんにでも使うことができて便利だ。


 最近はこの冷凍蓮根を気軽に使う。


 シチュー、スープ、カレー、豚汁、おでん、酢豚、グラタン、パスタ…。

 なんの料理でも相性が良く、煮崩れない点も良いなと思う。


 ところで、『あじのきおく』として何かないかなとしばらく考えているうちに思い出したのが、精進料理で、蓮根餅の餡かけ碗を食べて、それがめっぽう美味しかったことだ。


 それは下関の長府にあるお寺で昼のみ営まれており、見事な庭園を眺めながら粥を中心とした、とても手の込んだ料理を頂くことができた。


 四季折々の献立は一か月ごとに変わり、初めて食べて以来すっかり虜になり、数年かけて通い十二か月を制覇した。

 ところがその直後あたりから気楽に下関へ通えない状況になり、ようやく落ち着きいざ行こうと思いたち調べると、疫病流行の巻き添えなのかすでに閉店しているという無慈悲な情報が目に入った。

 とても…。

 とても残念です。

 画面の前で絶叫したくらい残念。

 あのお寺へ何度も通った理由はその膳のなかの一品一品が野菜の美味しさを教えてくれる料理だったからだ。

 そのうちの一つが先に述べた蓮根の椀物。

 晩秋から冬にかけての季節ならではの温かい汁と柔らかな蓮根の練り物は口の中にも身体にも優しく、ほっとする一品だった。


 ああ、蓮根ってすごく美味しいな。


 そう思うきっかけになった、『吉祥』の料理が食べられないなんて!

 なんてひどい世の中になったのよ!

 (興奮のあまり、とうとうお店の名前を叫ぶ私…)


 美味しい思い出をたくさんくださった料理人の皆様への感謝の気持ちを胸に、蓮根愛をもう少し語ろうと思う。


 ずいぶん前に家族がひどい喉風邪を患い、眠れないというのでネットで民間療法を調べて色々試したうちの一つが蓮根を生ですりおろして絞った汁を飲ませるというものだった。

 私のやり方が悪かったのか、それはあまり有効でなかったのですぐにやめた。


 その後、汁物のとろみをつけるのに同じくすりおろした蓮根を使ったことがあり、これはそれなりに美味しかったのだけど、私自身おろし金で何かをすりおろすのがとてもとても下手で苦手なので、ものぐさなりに考えた末に思いついた料理法が一つある。


 もう、みじん切りで良くないか?


 ためしに0.5~1センチ程度の角切りにした蓮根を出汁に投入するとそこそことろみがつき、蓮根のホクホク感も楽しめることに気付いた。


 しかも、蓮根は火が通るのが早い。

 時短料理の味方ではないか。

 気が付いたその時から常備野菜となった。



 そのようなわけで、冬のちょっととろみの付いているような気がする蓮根の汁物料理を紹介します。


 芋ご飯に具沢山の鶏汁をぶっかける、汁ご飯。


 作り方は相変わらずざっくりです。

 野菜の種類と量、そして味付けはお好みで。

 鶏肉はひとり百グラムくらいを目安にするとよいと思います。


 ① まず、一センチ角程度に刻んだサツマイモor里芋を米と昆布と酒少々でご飯を炊く。


 ② そして一センチ程度に割っただし昆布と同じく粉々に割った干しシイタケと煮干しと

   酒とみりんと千切りにした生姜と適当な大きさに切った鶏肉を水鍋に入れて中火にかける。


 ③ 沸騰してきたら煮干しを取り除き、灰汁をすくう。


 ④ 細かく刻んだ葱と0.5~1センチ程度の角切りにした蓮根を投入、

   葱に火が通ったら同じく1センチ程度に刻んだ白菜と2センチ程度に刻んだミニトマトを入れて

   白菜に火が通ったら味を確認し、足りないと思えばめんつゆを少々入れる。

   味が整ったら、ざく切りにした春菊を散らし入れ葉がしんなりしたら火を止める。


 ⑤ 芋ご飯をどんぶりに装い、上に黒のすりごまをまぶし、更に焼きのりを少々千切って散らす。


 ⑥ ⑤の上に④で作った鶏汁をかけて出来上がり。



 ものすごいざっくりで申し訳ない。

 目分量でいつも適当なので、まったく参考にならないこのレシピ…。


 蓮根とネギとトマト以外の野菜は冷蔵庫のあまりものやお好みの組み合わせで試してみてください。

 水から煮る鶏の出汁が口に優しく、味のアクセントはトマトと生姜で、食べる時にわさびを少し添えると少し大人の味に。

 最後に鍋の中にご飯を投入しない雑炊と想像していただければ、なんとなく作りやすいかもしれません。

 芋を刻む時間がない時は代わりに冷凍のむき枝豆をざっと投げ込むことも。

 単にごはんをちょっと別の素材で嵩を増しているだけなのだけど、白ご飯だけより美味しいと思う。



 夏には美しい花を咲かせ、冬には地下茎が滋味ある料理に変身。


 素晴らしきかな、蓮根。



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