第6話 封建社会の錯誤
幹部の人たちには丁重に感謝を述べ、次に第一発見者である三んに事情聴取をしたいというと、幹部の方でも当然そうあるべきだと思ったのか、快く了解してくれた。
「では、さっそく、発見者の三人をここに連れてきてください」
と幹部の人にいうと、
「分かりました」
と言って、離席してから少しして、幹部が連れてきてくれた。
三人はまるで借りてきたネコのようにおとなしくしていたが、刑事と面と向かうのは初めてなのだろう。何をどうしていいのか分からないと言った様子だった。その気持ちも分からなくもない辰巳刑事は暖かな目を三人に向けていた。
「さっそくだけど、三人はここで被害者を発見したんだよね? その時のことを少し話をしてくれるかな?」
と辰巳刑事は言った。
「ええ、でも、あまり僕たちは何も知りませんよ」
と言って、先に伏線を敷いたが、それは刑事というものに対しての警戒心からではないだろうか。
「ええ、構いませんよ。とりあえず、ありのままを教えてください」
と辰巳刑事は言った。
「僕たちはまだこの教団ではほとんど新参者なんですが、その分、奉仕として、早く起きて道場の掃除をするんです。まだ目が覚めていない人もいて、半分ボーっとして現れる人もいるんですが、僕は比較的目が覚めるのが早いので、道場に入った時には、ほぼ意識はハッキリしていました」
「なるほど、それで?」
「はい、私は皆がまだボーっとしている分、まずは道場内を見渡すようにしているんですが、あそこの道場には、横に小さな部屋があって、その部屋は普段は扉が閉まっているんですが、その時は開いているのにすぐに気付いたんですよ」
「どうしてすぐに気付いたんですか?」
「普段扉が閉まっている時は、壁と同化しているように感じるので、意識しないんですが、電気が消えていると、そこだけが暗いんですよ。そのために、違和感を感じたので、せっかくだから、普段はしないんですが、今日は隣の部屋も掃除しようと思ったんですよ。それで電気をつけに行った時中に入ったんですが、その時、電気がついたのかを確認しようと後ろを見ると、その中央に倒れている何かがあるのに気付いたんです。最初は黒い塊にしか見えませんでした」
「誰かが倒れているとすぐには分からなかったんですか?」
「分かっていたのかも知れませんが、信じられないという思いが働いたのか、にわかには人間だとは信じられませんでした。そのうちに、他の連中が僕の様子がおかしいのに気付いて声を掛けてくれたんです。それで我に返ったというところでしょうか」
「じゃあ、その時に、そこに誰かがいるということを分かったわけですね?」
「ええ、そうです。声を掛けられて我に返ると、背筋に寒気を感じて、それに伴って、姿勢がよくなった気がしたんです。まるで棒を飲み込んだような感じですね。そのせいか、足も棒のようになって動けないんです。僕が動けない分、他の人は動けるようで、実際に確認してくれたのは、彼だったんですよ」
と言って、ちょうど隣にいた一人の小僧を指差した。
彼の方が一回りほど体格はいいが、最初に話をした彼の方が、この中では一番しっかりしているようだった。彼が最初に口を開いたのは第一発見者だというよりも、彼がこの中でのリーダー的存在だということを示していた。
だからといって、長のようなものではない。さりげなく醸し出される雰囲気が、彼をまわりが無意識にリーダーのようにしてしまうオーラを感じさせるのだろう。
これは、本人が望んでいようが望んでいないことであろうが、まわりの誰もが認めるそんな雰囲気に、不自然さはまったくなかったのである。
指差された彼は、自分から話し始めた。
「ええ、私は。彼の後ろから見えたんですが、自分の身体は見ての通り、人よりも少々大きいので、彼の後ろから、彼の視線の延長線上という形で見ることができるんですよ。だから彼が見た視線と同じで見てみたんですが、なるほど、最初に彼が思ったように、何かがあるが、それが何かすぐには分かりませんでした。でも。私は彼が最初に見つけてくれたので、ワンクッションあり、そのおかげで、すぐに人間だって分かったんです。そしてすぐに駆け寄って、眺めてみたんですが、私は医学の知識が皆無だったので、少し医学の知識のあるもう一人に委ねたんです」
と彼がいうと、もう一人が手を挙げた。
「はい、今度は自分が引き受けます。自分はそこに転がっているのが人間だと聞かされて、初めてあの部屋に入りました。救急救命士の勉強をしたことがあったので、彼らに比べれば医学の知識はあるつもりです。でも専門家ではないので、自分なりに見てみましたが、自分が分かったことは、大したことではありません。胸を刺されているということと、すでに死亡しているということくらいで、死後数時間が経過していることは分かりましたが、時間までは見当がつきません。だから、警察への連絡を指示したんですよ」
「その後、教団幹部の方を呼びに行かれたんですか?」
と辰巳刑事がいうと、
「いいえ、呼びに行ったわけではなく、この部屋の異変に気が付いたのが、幹部の人がやってきたんですよ」
と最初のリーダー格の人が言った。
「じゃあ、最初に発見した時に大声を出したんですか?」
「いいえ、大声を出したというわけではありません。三人が三人とも息を呑んだように、低く呻いた程度です。それだけで異変を感じたとは思えません」
「だとしたら、どうして幹部の人はすぐに来られたんでしょうね?」
「私たちには分かりません。ただ、私たちがどうしようかと思案していた時、気が付けば後ろにいたのが、幹部の一人でした。その人も声を挙げなかったので、同じように立ち竦んでいるような感じでしたが、僕が振り返った瞬間、その幹部の人も我に返って、すぐに僕たちを残して他の幹部を呼びにいったという感じですね」
「事情はよく分かりました。ちなみに、この倒れている人が誰なのか、誰も知らなかったんですか?」
と訊かれて。
「最初は俯せだったので、分からなかっただけど、それは警察の人が来るまでは、むやみに動かしてはいけないと思ったからなんですが、仰向けにされてからも、最初は分かりませんでした。でも今は見覚えがある人だということは分かっています」
「それは一体誰だったんですか?」
「我々の教団は、自給自足を行いながら、農産物を育てて、それを街の八百屋さんにおすそ分けしたり、お安く提供したりしているんですが。そんな知り合いの八百屋さんの中の一つのお店の奥さんだと思います」
というと、他の二人も頷いた。
そのうちの一人はどうも今気付いたかのように、閃いたような表情になったが、もう一人は最初から分かっていたようだった。
「その人は信者の方なんですか?」
「いいえ、違います。八百屋の奥さんとしてしか、お付き合いはないはずです。だから、教団の人も奥さんのことは知らないんじゃないでしょうか? 僕たちも野菜を持っていく時に話をするくらいで、それ以外では面識がないくらいです」
「なるほど、教団とは関係のない人なんですね?」
「ええ、そういっていいと思います」
「そんな教団に関係のない人が、どうしてこの部屋で殺されて発見されなければいけないんでしょうか? 何か心当たりありますか?」
「いいえ、僕たちのような新参者には分かりかねます。ほとんど、顔を知っているという程度でしかないですからね」
と彼らが話してくれた。
しかし、彼らが知っているのはそこまでで、どこの八百屋なのかということを教えてもらい、とりあえず、教団から聴ける話はそこまでと思い、犯行現場を見にいった。
そこでは鑑識の調べが進められていて、話を聞いてみることにした。
「どうですか?」
と聞くと、
「死亡したのは、胸に刺さっているナイフの傷口からの出血多量によるショック死ですね。死亡推定時刻は死後六時間から八時間というところですね。だから、今が八時前くらいですので、深夜であることに間違いはないと思います。ただ、もう一つですが、何か睡眠薬か何かを服用しているようにも見えるんで、眠らせておいて殺したんでしょうね。そうじゃあければ、殺された時に声を発しなかった理由も分からないでしょうから、そういう意味では辻褄は合っていると思いますね」
と白衣を着た監察医がそういった。
「なるほど、よく分かりました。後は、実際の司法解剖の後の資料をよろしくお願いしますね」
と辰巳刑事はそう言って、とりあえず、現場での話は、後で報告を受ければいいと思い、署の方に戻った。
署に戻れば、捜査本部ができていて、いつものメンバーが集まっていた。門倉刑事に清水刑事、こういう捜査ではいつものメンバーであった。
署に帰った時には、捜査本部は、慌ただしかった。
「辰巳君。朝からご苦労様」
と、辰巳刑事を見つけた清水刑事はねぎらうように言った。
「いいえ、大丈夫です。教団の方で話を聞いてきましたが、分かったこととしては、被害者が誰かということくらいで、ほぼ何も分かりませんでした」
というと、
「被害者の話は聞いたが、一介の八百屋の主婦が、信者でもないということなのに、どうして深夜、あの施設の中で死体となって発見されなければいけなかったのかという意味で、まずは何も分かっていないということだよね?」
と清水刑事が言った。
「そうなんですよ。なぜ被害者がその場所にいたのかということが一番の謎なんじゃないでしょうか?」
というと、
「そうなんですよ。これは誰に訊いてもよく分からないということでした。やはりこの件に関しては教団側の人に訊くよりも、被害者側の環境から迫らないと分からないかも知れないですね」
と辰巳刑事が言った。
「ということは、被害者の家庭である八百屋に当たってみるしかないよな。今のところ殺害現場としての教団側しか見ていないからだからな」
と清水刑事は言った。
そのうちに鑑識からの報告が入り、最初に聴いた情報から、それほど増えたものはなかった。
念のためにということになるが、やはり睡眠薬のようなものを服用はしていたようで、そのせいなのか、争った跡もないという、たしかにあの場所で争った跡もなかったことから、もし、睡眠薬の話がなければ、
「殺害現場は別だったのでは?」
という疑問も浮かんでくる。
この疑問は解消されたわけではないが、その理由は、胸を刺されて死んでいるわりに、血液の量が比較的少なかったような気がした。
死因は鑑識通りの、
「出血多量によるショック死」
には変わりなかった。
それであれば、いくら胸にナイフが刺さったままといっても。まわり全体に円形になるくらいの血液が流れていても不思議はなかったのに、身体の下になった部分でほとんどの血が流れた跡が終わっている感じだった。死亡してから発見されるまでに六時間以上経過しているとはいえ、ほぼ血液は凝固していた。それからも、出血は最初だけで、すぐに止まったということを示しているようだった。
司法解剖以外のこととしては、指紋の採取が行われたようで、気になるのは、あのあたりに被害者の指紋が残っていないことであった。
「部屋の入るノブにもついていないし、襖のように並行に開ける扉にもついていませんでした」
「じゃあ、どこに指紋が残っているんだい?」
「それが、指紋がどこからも検出できなかったんですよ」
「じゃあ、誰かが拭き取ったということかい?」
「それもないと思います。他の人の指紋は多数発見できたので、拭き取ったとはいうことはありえません。何しろ死亡したのが深夜で、いつの間に入ってきたのか誰も知らないということは、ここに他の人、たぶん犯人でしょうが、それ以外の人がいたということは考えられないですからね」
と、清水刑事の話に辰巳刑事が答えた。
そうやって考えると、本当になぜ彼女が殺されたのかということよりも、なぜあの場所だったのかという方が、疑問としては深いような気がした。
少しして、辰巳刑事が急に変なことを言い出した。
「私は宗教団体というものをあまり詳しくはないですが、人が殺されるような事件があったりすると、偏見があるせいか、宗教団体すべての人が絡んで、事件を引き起こしているような錯覚に陥ることがあるんです。本当に凝り固まった偏見なんですけどね」
それを聞いて、
「それは私も思っていましたね。特に数十年前のテロのような団体を見てきたりすると、余計にそうです。それに宗教団体と称してお金を騙し取るような団体も多く、それを見ていると、偏見にならない方がおかしいと思うんですよね」
と清水刑事が言った。
もちろん、今は偏見ではなく、冷静な目で見ているのであろうが、やはり相手が宗教団体というと、微妙にやりにくいのは分かってくる。
特に宗教団体ともなると、どうしても秘密主義であることから、警察の力が介入できない。何しろ、
「信仰の自由」
というのは、憲法で定められている権利だからだ。
それを持ち出されると、さすがに警察とはいえ、必要以上に捜査に支障をきたしてしまうだろう。そう思うと、捜査に行き詰った自分が、呪縛を受けているように思えてならないのだ。
清水刑事も今までに何度も同じ経験をして、事件が解決しても、どこか煮え切らない気持ちになったりしたものだった。
「でも、さすがに教団が集団で殺人を行うなどという発想はあまりにも奇抜な気がしますね。集団での殺人というと、昔の探偵小説などにあった閉鎖された山間の村などで、よそ者が入ってきたことを理由に、氏神様の恨みを買ったなどという因縁を吹っ掛けられての殺人だったりがありましたが、今のしかもリアルな世界では考えられないことですよね。何と言っても、架空の話であり、それこそ封建的な話になりますからね」
と辰巳刑事がいうと、清水刑事が反応した。
「封建というと、あの宗教団体には封建という言葉がついているんだよな?」
と言った。
「ええ、宗教団体というとそれだけで封建的なというイメージがあるんでしょうが、どうしてその二つが結び付くんですかね?」
と辰巳刑事がいうと、
「封建的というのは、土着民と領主との関係と言えば一番いいのだろうが、基本的には、土地を領主から保証してもらっている代わりに、年貢を納める。そして、他の国から責められないようにするために、責められた時、領民は領地を守るために、石高に見合った兵を出す。そのケースバイケースの主従関係のことを言うんだよ。宗教団体も同じような教祖と信者の関係なのではないかな?」
と清水刑事が答えた。
「封建政治というと、武家というイメージがあるので、どうしても、明治前の昔の歴史のように思うけど、農家などは、昭和の時代まで封建的だったりしますよね。それに封建制度が古い制度だと思うのは、明治期になってから、中央集権国家にあった時、『封建制度は一昔前の制度』ということを植え付けることで、天皇中心の世界へのプロパガンダとして君臨しているのかも知れませんね」
と辰巳刑事は言った。
「私は封建制度について詳しくは知りませんが、確かに明治以降の天皇中心の政治とはまったく違うものという印象があります。そもそも歴史がクーデターなどによって変わると、それまでの政府のやり方を全否定するのは、世の常ですからね」
と、清水刑事がいう。
「でも、彼らの使っている封建という言葉は少し違うものだって、幹部の連中は言っていましたね。彼らに言わせれば、俗世間というものほど、理不尽なことはなく、そちらのイメージが逆に言われている封建的だという言葉の悪しき部分を象徴していて、間違った意識を植え付けられているというんです。だから彼らは敢えて封建という言葉を使うことで、彼らの団体の扉を開く人の気持ちに寄り添おうとしているようですね」
と辰巳刑事がいうと。
「でも、そんな連中に対して、封建という言葉は却って気持ちを刺激して、扉を重たくするんじゃないか?」
と清水刑事に言われたが、
「そうじゃないんですよ。彼らの団体に駆け込んでくる人間には、もうどこも行くところがなくて、最終的に教団を頼ってくるんだって言います。その時にはすでに言葉なんかどうでもいいんですよ。入ってきてから、俗世間の封建が本当の封建制度との違いを教えればいいと思っているんですね。要するに、封建制度の悪い部分ばかりを拾い集めて今の封建制度への歴史認識になっているということを教えられるというんですね」
という辰巳刑事の意見に、
「確かにそれは言えるかも知れない。。私も歴史が好きなので、封建制度なども時々考えたことがあったんですが、確かに言われている、いや、それまで感じていたことが違っていたんだって思います」
「例えば?」
「歴史には、クーデターがつきもので、制度が変わるということは、基本的にクーデターですよね。だから、新しい政府が新しい政治を行うためには、過去を全否定しないといけないわけで、それがそのまま教育として教わることになるんですよ。だから、その教育の影響が強くて、人類がその教育を信じてしまうという感覚が当たり前だと思うことで、封建制度を否定する気持ちになってしまうんですよね」
と、辰巳刑事は言った。
「歴史的にはそうかも知れないが、それよりも、言葉から感じるものもあるんだろうね。特に、封じるという文字が使われていることもその原因じゃないのかな?」
と清水刑事は言った。
「だけど、私は、この団体を見ていると、封建という雰囲気はないんですよ」
「それはどうして?」
「団体というものが、そもそも封建という言葉を含んでいるような気がするからですね。封建というものが、主従関係であるとすれば、それは、人が集まれば当然の結果として出てくるものだと思うんですよ。だから封建という言葉には抵抗がないんですよ」
と言った。
そんな辰巳刑事は、自分が小学生の頃を思い出していた。
小学校では苛めもあり、自分が苛められていたわけではないが、苛めていた連中を思い出してみると、どこか封建的なところがあったと思った。だが、その封建的だと思ったのは。間違った意識で覚えていた封建的なという言葉だったような気がする。
「人のものは俺のもの、俺のものは、俺のもの」
という理不尽な考え方だった。
封建という言葉をどのように解釈していたのかを言葉にするのは難しいが、
「全否定していた」
という言葉を表現するとすれば、この時の言葉が一番当て嵌まるのではないだろうか。
だが、実際に勉強したのは、主従関係が絆として形成されているのが、封建制度だということであり、悪い部分も含んでいることは分かっていて、絶対的な主従関係でありながら、主従関係で成り立っている世界では、実際の主従の間ではそこまで悪い意識はないかも知れない。
主従関係において、ちゃんとした双方関係になっている場合は、お互いに主従関係の感じないのだろう。しかし、時代劇などにあるような、悪代官や悪徳領主などが、暴利を貪るようなことになると、どちらかが利益を得て、もう片方は酷い目に遭わされるという状態になってしまうと、本当の意味での封建制度は腐敗に向かうのではないかと思う。
そういう意味での江戸時代というのは、戦国時代からの影響で、家康の意向の元、
「戦の世に戻さない」
という信念の下、太平の時代を迎えたことで、よかった部分も多いのだが、その弊害がなかったわけではない。
太平の時代になると、謀反や一機が起きないように定められた身分制度を悪用し、高い身分であることを武器にして、相手に無理強いをして、主従関係の根本を壊すという時代になっていた。
それが、幕府の財政に影響したのかも知れないが、幕府の財政がひっ迫し、庶民の生活をコロコロ変えるという状況に陥らせた李したものだった。
幕府がそんな状態では、世の中を正すなどできるわけもない。そのうちに鎖国していた世の中を、海外勢力の砲艦外交によって開国させられたことで、封建制度の危機はピークを迎え、倒幕へと結びついていくのだった。
日本の場合は、外国勢力による、
「図らずの封建制度の崩壊」
ではあったが、崩壊してしまったのが、本当の封建制度だったのかどうかは分からない。
明治政府では、一部の特権階級が権利と利益を貪るという時代があった。これは、本当の意味での封建制度の崩壊ではないだろう。
しかし、海外をマネて日本を中央集権国家に変えたのも事実であり、しかも、世界情勢が、日本国内だけでのそんな封建制を認めるわけにはいかない状況であった。
小学生の頃の辰巳はそんなことを知る由もなかったが、中学になって苛めがなくなると、小学生の頃の苛めを思い出すことがあって、
「あれこそが、封建的だったんだ」
と思うようになった。
学校では違う意味で習ったはずなのに、封建的だと思ったのは、ひょっとすると、中学時代に苛めが行われているということに、封建的という言葉が使われていたからなのかも知れないと思った。
「お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの」
という言葉は忌まわしい言葉に違いないが、辰巳の中では、
「ニセ封建制度のシンボルのような言葉だ」
と思うようになっていた。
この宗教団体が、どこまでの封建的な集団なのかは分からないが、彼らのセリフを鵜呑みにするとすれば、
「正統派の封建制度だ」
と思うのだが、どこまでの信憑性があるのか分からなかった。
一度会ったくらいでそう簡単に分かるものではないのだろうが、
「信じてみたい」
という思いが辰巳にはあった。
ただ、彼の気持ちに反するような形で起こった今度の殺人事件。一体何を意味しているというのだろう?
辰巳刑事はいろいろと思いを巡らせながら、今回の事件を考えていた。とりあえず、明日は、彼女の家の八百屋の方に赴いてみようと思うのだった。
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