賢者様、貴方をパーティーから追放させてください！

第一章：水上貿易都市「ウェクリア」/勇者と賢者の始まり

１：森を抜けた先に

賢者ノワと勇者アリアは王都を旅立ち、近くの森を数日彷徨いました

森を抜けた後、彼女たちは王都近辺にある水上の貿易都市「ウェクリア」に辿り着きます

そこで、後に勇者パーティーを支える「僧侶」と出会うことになるのです・・・

・・

アリアが永羽ちゃんと知った翌日

「・・・」

私は元気に歩くアリアの姿を、複雑な視線でしか見ることができなかった

いや、素直に嬉しいんだよ

出会った時からもう既に歩けなかった永羽ちゃんが、こうして元気な体を得て、楽しそうに歩いているところを見られるなんて思っていなかったから

だからこそ、この枷が重い

「どうしたの。首元なんて押さえ込んで」

「え」

「呼吸が苦しいの？」

「あ、いや・・・別に・・・そんなことは」

私にしか見えない二つの枷

一つは時間経過で取れるのだが、もう一つはパスコードがないと外せない仕様になっているようだ

・・・師匠がきちんとパスコードを設定してくれたのは覚えているのだが

これさえ外れたら後が楽になるんだよね・・・

パスコードには心当たりがない

けれど、師匠はなにかヒントになることを言っていた気がする

少し、思い出してみようかな

・・

私がノワになる前

図書館の中で、私は師匠に修行をつけてもらっていた

私の転生特典は「生前の魔法の才をそのまま引き継げる」こと

つまり、図書館で鍛えれば鍛えるほど来世であるノワも強くなる

そしてここの管理者をしている人は、魔法使いとして一流だった人だ

それに気がついた私は、転生前に師匠から修行をつけてもらうことにした

「ふっ・・・！」

「甘いね。無詠唱な分、魔力はきっちり練り上げないと・・・それに、魔法陣がぶれている。これじゃあ駄目。もう一度」

「師匠。厳しすぎるって。私元病人だよ？」

「今はもう関係のない話。それに時間がないと言ったのは君だろう。ほら、ワンセット」

「悪魔め・・・」

「好きに呼ぶといいよ。生前、それ以上の罵倒を何度か食らったことがあるからね」

師匠は杖を器用に回し、私の方へ向けてくる

元々この人は私が住んでいた鈴海で、鈴海一の魔法使いと言われていた人だ

数多の人間が敵に回ったこともあったのだろう

「・・・師匠」

「何？」

「辛くないの？名前で呼ばれないの」

「辛くないさ。それが僕の立っていた場所では当然だったことなのだから。ほら、世間話はそこまで！もう一回！」

「ぐえぇ！？」

師匠は甘さを見せてはくれなかった

師匠と一緒にこの図書館で過ごしている黒髪の女性だけは私に甘くしてくれたし

厳しすぎる師匠を止めたりしてくれたっけ・・・

・・

でもこれはどうでもいい記憶

問題はパスコード

パスコードを設定した時の記憶が欲しいのだ

記憶の中を辿る内に、該当する記憶にたどり着く

『・・・パスコードはわかりやすいものにしておいた』

『本当？』

『最悪、永羽さんでも解けるものだよ。君の誕生日』

『へぇ・・・』

『君はその病気の関係で忘れやすいみたいだから。ちゃんとメモにとっておいて。その手帳は、君の魂と一緒に送り込むから』

『了解！』

・・・と、師匠は言っていた

けれど、その手帳にはパスコードがあることぐらいしか書かれていなくて

肝心のパスコードがなんなのかは書かれていない

「そして私は自分の誕生日を忘れた・・・」

「誕生日？」

「あ、うん」

そのひとりごとはうっかり漏れてしまっていたらしい

しかしアリアはそこまで気に留めない

唐突だったけれど、話題の一つとして受け止めてくれたようだ

「貴方、元々スラム街の出身だと聞いたわ」

「うん」

「だから、本来の出生日というものは記録上に存在しないそうね」

「まあ、そうなる」

「魔法では調べられないの？」

「魔法はそこまで万能では・・・」

いや、師匠は「魔法は万能なのもの」だと言っていた

使い方次第でどんな奇跡だって叶えられるし、世界だって変えられる

理を捻じ曲げる力だと

「ない、と周囲は言う」

「そうなの？」

「うん。万能ではないと、思い込んでいると私は思う。本当は奇跡だって起こせるのに」

「そう。それなら、いつか貴方の「本当の誕生日」もわかるのではなくて？」

「そうだといいね」

今は興味がない、本当の誕生日

けれど全てが落ち着いたら、探してみるのもありかもしれない

「そういえば、アリアの誕生日っていつ？」

「７月１７日・・・」

・・・一応、補足しておくとアリアの誕生日は「９月２６日」だ

先程のアリアが述べた誕生日は、永羽ちゃんの誕生日

自分の誕生日は忘れても、彼女の誕生日は覚えているから間違いないだろう

「ま、間違えた！？」

「誰と？」

「お、お母様よ・・・本当は、９月２６日だから」

苦しい言い訳だけど、そういうことにしておこう

「そう。覚えていたら誕生日プレゼントを用意してあげるよ。クマのヌイグルミとかがいいかい？」

「そんな子供っぽいもの、もう必要ないわよ・・・」

「じゃあ何が欲しいの？」

「と、富と名声と結婚相手？」

疑問詞なあたり、それは永羽ちゃんが考えたアリアらしい解答なのかもしれない

なんというか、頑張っているな・・・永羽ちゃん

「そんなもの誕生日に要求しないでよ・・・」

「そうね。自分で言っていて駄目だと思ったもの」

「じゃあ実際にアリアが欲しい物って？」

「・・・」

一瞬だけ、何かを言おうとしてすぐに躊躇うように口を閉じた

「・・・アリア？」

「なんでもない。内緒よ」

そう告げた彼女は、少しだけ早歩きを始め・・・森を抜けた先で立ち止まる

長い森を抜けたらそこには、貿易都市「ウェクリア」が広がっている

・・・のちに勇者パーティーに所属する僧侶「ミリア・ウェルド」がいる場所だ

私のやるべきことはアリアの妨害

そして彼女のパーティー入りを阻止すること

気を抜くことなんて、まだまだできやしない