あい
椿
靄
「ねぇねぇおかーしゃん、おはなししてー?」
「もう、仕方ないわねぇ…」
子供特有の高く間延びした幼い声、そして静かな鈴を転がすような凛とした声。
__あぁ、夢か。
これが自分が見ている夢であると理解するのに時間はかからなかった。
子供の頃から繰り返し見る不思議な夢。
それは、母親が私に子供騙しな
なぜだかわからない、だけどこの夢だけは忘れたとしても何度だって夢に見る。
「昔々、たくさんの悪い魔物を率いる魔王が現れて、世界を滅ぼそうとしたの。勇者様が何度倒したって、その次の魔王が生まれる。とても大変だったらしいわ」
幼い私を膝の上に乗せ、ぽかぽかと温まる陽だまりの下で、ゆったりと語り掛けてくる声がとても心地良くて、この時間が私は大好きだった。
母に背中を預けられるこの時間が、どれだけ貴重だったかは成長した今ならよくわかる。
「おかーしゃん、まおうしゃってこわいの?」
「えぇ、ツノが生えてお目目も赤くて、とーーっても怖いのよ。あなたなんて、一瞬で食べられちゃうかもね」
「きゃーーー!!!っふふ、やぁっ!くすぐったいっ!」
がおーっと猛獣のように両手の指を曲げた後、私の身体を擽ってきて子供ながらに人を楽しませるのを上手いなと思った。
身を捩らせて逃げようとしても逃して貰えなくて、最終的に母の膝の上で突っ伏したのは記憶によく残っている。
そんな私を見て母は仕方無さそうに笑った後、私の頭を撫でながら話を続けた。
「それでね、女神様が人々を守るために自力で魔王を倒したそうよ。そこから先は魔王が生まれなくなって、魔物も消えて世界に平和が訪れた」
「すごぉーい!めがみさまは、せかいのへーおんをまもったんだね!」
「あら、平穏なんて難しい言葉よく知ってたわね」
褒められたのに気をよくして、えへへと満面の笑みを浮かべもっと撫でて、と強請ったのはいつだったか。
そんなことを考えていると、夢の最後が近付いてくる。
「じゃあ、めがみさまは、いまもへいわをまもってるの?」
「っ、そ、それはね?_____」
幼い私が思った疑問に、あのとき母はなんと言ったんだったか。困ったように言葉に詰まった後、どうやって幼い私を納得させた?
声が薄れ、視界がぼやけ、何も見えなくなる。
まるで
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