異世界出張相談所

望餅

勇者パーティー追放編:追放された魔術師

暗い森の中をただひたすらに走る。

「はぁ…はぁ…」

どうしてこんなことになってしまったのか。

俺はただいつも通り仲間達と魔王討伐を目標に様々なダンジョンへ潜っていただけ…だけだったはずなのに…。

「ちくしょう…ちくしょう…。」

悔しさや悲しさが込み上げて、これからどうすれば良いかも考えつかない。

「おい!こっちから声がするぞ!!」

「くそ!」

勇者パーティーのメンバーだった俺は何故か

「必ず見つけ出して息の根を止めろ!!」

魔王軍の手先、人類の敵にになっていた。




~数時間前~

「もう遅いしそろそろ街に戻ろうぜ」

我らが勇者様、アリスに提案する。

今日は朝からダンジョンに篭りきりで体力ももう限界である。

「…えぇ、そろそろ撤退しましょうか。」

アリスは表情を変えず応える。

やっぱ勇者はこの程度では疲れたりはしないのか。

「おいおいもうバテてんのかい!今日こそこのダンジョンを完璧に攻略しようって話だったじゃないか!」

豪快に話に割り込んできたのはイージス。背も高くガタイもいい女騎士であり勇者の最強の盾とも言える存在だ。

騎士団に所属しながら俺たちのパーティーにも加わっている。

「アリスも余裕そうじゃないか!疲れちまってるのはアンタとエレナだけだよ。」

「いや…だって私たち魔術師だし…君たち筋肉バカとは違うんだよ…。」

「誰が馬鹿だって!?」

しんどそうに文句を言っているのはエレナ。俺と同じ…いや俺以上に優秀な魔術師だ。有りとあらゆる攻撃魔法が使える世界でも屈指の魔術の天才である。

「パーティーの半数が疲れてるんだから…撤退した方がいいでしょ…ウルスも言ってやって…。」

あ、面倒だからってこっちに投げやがったな。

俺もエレナと同じ魔術師をしてはいるが、正直彼女との実力差はかなりかけ離れている。

だからこそエレナには「そんな羽虫みたいな魔法攻撃するぐらいなら補助に回って」と言われてしまい、みんなの力の底上げに尽力していた。

…いや改めて考えると羽虫は酷いな…。

これでも中級ダンジョンのモンスターと渡り合うくらいの魔法は使えるのに…。

まぁ勇者パーティーのレベルに合っていないのは百も承知だが…。

「アンタら魔術師組がすぐ疲れたとか抜かすから全然先に進めないじゃないか。

こんなことしている間に魔王軍が力を蓄えちまったらどうするんだい?」

「その時は私の魔法で魔王軍を丸ごと押し返すよ…そもそもイージスは騎士の癖に自分から突っ込もうとしすぎ…盾って守るためのものだよ…知ってる?」

「はぁ!?盾で殴るのも強いじゃないか!!」

あ、また言い争いが激化してる。

「…すまんアリス。この場を抑えてもらってもいいか?」

アリスは深くため息をつくも2人に話しかける。

「今日はもう十分奥まで進めたし、撤退するには良いタイミングだと思う。疲れから連携がうまく取れなくなる可能性もある。」

「…アリスがそこまで言うならしょうがないね。」

「やったね…早く帰ろ帰ろ…ウルス早く転移魔法使って。」

「はいはい、すぐ準備するよ。」

俺とアリスは所謂幼馴染である。

元々小さな村で2人楽しく暮らしていたのだが、アリスの剣の才能を見抜いた王族に勇者として世界を救って欲しいと頼み込まれた。

そして勇者として冒険にでる条件として俺も連れて行きたいと申し出たらしい。

昔はこんなに慕ってくれていたのに…最近はずっと真顔で何を考えているのかわからない。

(俺たちの冒険は辛いことの連続だし、しょうがないと言えばそうなんだが…。)

時々、ふと考えてしまう。

(冒険になんてでなければ…俺たちは笑って過ごせていたのかな。)




「もう帰っていい…?さっさと宿に戻って寝たい…。」

「何言ってんだい。その前に今日の進捗の報告だよ。」

「…面倒…任せた。」

「あ!?こら逃げるんじゃないよ!?」

エレナとイージスが騒がしく言い合いをして、アリスと俺はそそくさと城に向かいダンジョンの攻略結果の報告をする。

ダンジョン攻略後のいつもの帰り道だ。

でも今日は少しだけ違和感があった。

城に着くまでの道中が妙に静かだ。まるで誰もが建物の中でそっと息を潜めているような感じ。

そして特に大きな違和感、城内に入ってから明らかに嫌な視線を感じる。

「…アリス、気付いてるか?」

「…気付いてはいる。でも別に気にする必要はない。」

そうは言ってもなぁ…。

勇者パーティーということもあり俺たちはそれなりに知名度がある。時には羨望の眼差しを向けられることもあるが、今回はそれらとは明らかに違う類の視線だった。

「…俺は少し気になるからさ。様子を見てくる。先に報告済ませといてくれ。」

アリスは「わかった」と呟き歩いて行った。




長い廊下をどんどん進んでみる。するとその先は行き止まりで1人のメイドが立っていた。

「…すみません。ちょっと伺いたいことが…。」

おそらく彼女が視線の正体だと思うのだが…。

様子がおかしい。何故が身体をガタガタと震わせており、呼吸も荒い。

「あの…大丈夫ですか?」

色々聞きたいところだったが流石に心配のほうが勝る。

「………んなさい。」

「へ?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」

「え!?ちょっと何!?」

急に壊れたように謝罪を繰り返すメイド。

何事か全くわからない。

「キャーーーー!!!」

少女が急に奇声を上げ抱きついてきた。本当に何事かわからず固まっていた次の瞬間、彼女の身体がバラバラに飛び散った。




「え?」

気付くと周りは血と肉片、骨がとびちっている。

少女がすぐ近くて破裂したため俺にも凄まじい量の返り血がついていた。

「ど、どうなってるんだよ…!訳がわかんねぇよ!」

落ち着かなければと理解はしているものの、頭の中は完全にパニック状態だった。

すると後ろから大勢の足音がする。

恐らく少女の奇声から城の騎士たちが集まってきたのだろう。

現状を説明しようと振り返ると、

「遂に正体を表しやがったな!!この勇者パーティーの裏切り者が!!」

…何が起こっている?

目の前にいるのは間違いなく城の騎士たち、その全員が俺に武器を突きつけている。

そして彼らの発言…俺が裏切り者?

「お、おい。一体どういうことだよ…。」

「どうもこうもないよ。」

騎士たちの後ろから見知った顔の…しかし今までに見たことがないほど殺意のこもった目でこちらを睨んでいるイージスがいた。

「実は前からアンタが魔王軍からの刺客であるといった密告があってねぇ…。本当かどうか探りを入れていたんだが、自分から正体を表してくれて助かるよ。」

「はぁ!?何のことだよ!訳わかんねえって!」

「じゃあなんだい?その飛び散った肉片と返り血は?目の前で人が勝手に爆発したとでも言いたいのかい?」

…確かに、そんな密告とこんな凄惨な現場に1人でいるというのはかなり怪しいのだが、いかんせん思い当たる節もないし本当に勝手に爆発している。

「…頼む、信じてくれ。実際この人は急に爆発したし、魔王軍の刺客なんてのも嘘だ…。」

「….悪いけど信じられないね。それにアンタを仲間として信用する道理もなくなったのさ。」

「…は?」

イージスは俺の目の前に一枚の紙を落とす。そこには俺をパーティーから解雇するといった内容と…それを認めるとアリスのサインがされていた。

「…嘘だ。」

「嘘なんて何もないよ?幼馴染だからアリスはアンタに情があったのかもしれないが、最近は明らかにパーティーの足を引っ張っていたしね。」

「…そんな訳ない。」

だって俺たちは勇者パーティーで…。

「いつまでもメソメソ…。気持ち悪いったらありゃしない。アタシは前からアンタが気に入らなかったんだ。幼馴染だか何だか知らないが魔法に頼らなきゃ何もできないヒョロヒョロが。」

イージスは不快そうにこちらを睨んでため息をついた。

「お前ら、もうコイツに引導を渡してやりな。勇者パーティーにいたが自力はほとんどない奴だ。全員でタコ殴りにしちまえ。」

…ふざけやがって。流石にそこらへんの騎士程度に負けはしない。

けれどそれは魔法を使った場合の話。魔法をそこらの騎士にぶつけたらそれこそ大惨事になってしまう。

イージスのにやけ面を見るにこちらが抵抗できないことは想定済みなんだろう。

いや、むしろ罪を重ねることすら望んでいるかもしれない。

でも…逃げるだけなら容易い。

パーティー解雇で動揺してしまったか、イージスの敵意マシマシな発言のおかげでむしろ冷静になれた。

(現状は…引くしかない…。)

本当はアリスに真意を聞きたい。どこからそんな訳の分からない密告があったのか調べたい。でも…。

(…ちくしょう。)

「…転移魔法で逃げたか。お前ら、早く街の中を探しな。転移魔法は何度も連発はできないし距離にも限度がある。街の外には出ていないはずだ。」




俺はすでに街の外に出ていた。

「久々に全力で転移した…。」

俺だって全力出せばかなり遠くまで転移できる。しかし、

「…頭痛ぇ…。」

強大な魔法を唱えると酷く頭が痛くなる。

「…でも悠長にはしてられないよな…。」

早く遠くへ行かないと、そう思いつつ一度街の城壁に目を向ける。

その瞬間だった。城壁から眩い光が放たれる。

「…!?」

間一髪その砲撃を避ける。直撃はしなくともその衝撃で思い切り吹き飛ばされた。

さっきまで自分がいた場所には巨大なクレーターができている。

「この魔法は…。」

これほどの強力な魔法を放てるのは…。

「…エレナか。」

本当に俺はパーティーを解雇、いや追放されたんだと改めて実感した。

続けて魔法が飛んでくる。急いで道を外れて森の中へと身を隠した。

もう戻れないんだ。街にも、仲間にも。

エレナに見つかったということは街の外に出たこともすぐに伝わるだろう。

俺は今にも溢れそうな涙を我慢しながら暗い森の中に消えて行った。




無我夢中で追手から逃げ続けた。

何度か見つかってしまい攻撃を受けてしまったが…。

もうどれだけ時間が経ったのだろう。そろそろ夜が明けてもいい頃合いだ。

「明るくなると見つかりやすくなるし、一旦どこかに身を潜めたいな。」

どこか都合の良い洞窟などはないだろうかと目を凝らしながら進む。

「…?なんだ?違和感が?」

真っ暗な森とはいえ街からそう遠くない。ダンジョンに向かう都合で何度も通っている場所である。そのはずなのだが。

「森の中にこんな開けた空間あったか?」

森の中に草原のような空間が広がっている。

「しかも…家が建っている。」

開けた空間のど真ん中に立派な家が建っている。

「…。」

中に入って問題はないか、こんなところにある建物はすぐに見つかってしまうのではないかと疑念が湧くが…。

「なんか…安心する場所だ。」

絶望した心を癒すようなその空間に俺は身を委ねる他なかった。

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