7月23日(日) 『静かな毒』

 昨晩の疲れから朝寝坊した日曜日。

 遅めの朝食後、ダイニングテーブルの片隅に置いていたスマホから通知音が鳴った。友達グループの一人、華からのLINEだった。


【radikoのアプリ、さっそく入れて使ってるよ。教えてくれてありがとう!あいらがよく聴いてるラジオはあるの?オススメあったらまた教えて欲しいな。】


 私が昨日伝えたラジオを聴けるスマホアプリを、華は使い始めてくれたようだ。率直に嬉しい。


 華からのLINEにひとまずスタンプで返事をする。加えて【華が好きそうな番組、後でピックアップしておくね!】と短く返しておいた。

 確か、華は今日の午後、塾で夏期講習だ。準備もあるだろうし、今はこれで切り上げておいた方がいいだろう。華からすぐにスタンプで返事がくる。ウサギのキャラクターがまたね、と手を振っているスタンプだった。

 LINEでのやり取りに区切りがついたので、食器を片付けるために席を立った。


 ***


 自室に戻ってから、スマホでラジオ局のホームページを見ていた。

 私がよく聴いているラジオ番組といえば、タソアイ──タソガレドキにはアイスティーを、なのだが、タソアイは七月限定のラジオ。近々放送が終わってしまうので、華に勧めるのは別の番組にしておこう。


 ドラマ主題歌や流行りの曲が好きな華だから、カウントダウン形式のチャート番組を勧めておこうかな。土曜日に放送しているチャート番組があったはず、と思い出してホームページで番組表を確認する。

 聴き覚えのある番組名を見つけて「あ、これこれ」と画面をスクリーンショットで保存。再びLINEを開いて、その画像を華へ送信しておいた。【よかったら聴いてみてね。夏期講習で忙しいと思うけど、無理しないでね!】とメッセージも送る。既読はすぐにつかないので、今頃塾にいるのかも。


 ついでに、と思って明日の番組表を見る。タソアイも同じラジオ局だから、きっと記載されている。

 今までタソアイの番組ホームページを見たことが無かったので、一度くらい見ておこう。そんな軽い気持ちだったのだけど。


「……ん?載って、ない……?」


 午後七時、つまり十九時からの時間帯──タソアイの番組名は書かれていなかった。全く知らない、別のラジオ番組が記載されている。前後の時間帯は、知っている番組だった。


 ラジオ局自体を間違えちゃったかな、と思ってホームページのロゴを見る。タソアイが放送されているラジオ局名が描かれていた。ってことは、番組表の方が誤っているのかも。と考え直して【タソガレドキにはアイスティーを】でネット検索をかける。


 アイスティー関係の検索結果ばかりで、タソアイの番組ホームページは見つからなかった。


 嫌な汗を感じながら、Twitterでも検索する。#ハッシュタグタソアイ、で呟いている人は……。誰も、いなかった。


「どうなってるの……?」


 私が一昨日まで聴いていたラジオは、タソアイは、なんだったの?この耳で、何度も聴いていたのに、その存在が実在しないかのようだ。

 わけの分からない不安に心が占められる。まるで、得体の知れない静かな毒におかされていくような、そんな感覚だった。

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