逮夜の花燭
序
皇家廃絶を掲げる革命軍の決起から動きは迅速だった。
五十年余りにわたる皇家の正統を争う黒のハイゼンベルク、白のディックハウトの内乱で、戦う魔道士はもちろん民衆も疲弊しきっていた。
ディックハウトの皇主の急死と、その血統が疑われることへの動揺。道を失ったディックハウトの魔道士らは主を失ったからといって、ハイゼンベルクへ寝返ることは選ばない者が多数だった。
主君と誓ったはずのディックハウト家への失望は皇家への失望と同じ。あるいはハイゼンベルクを裏切った者達も、いまさらまた膝を折ることもできない。
なにより、なしくずしで正統となったハイゼンベルクの皇主に、期待がなかった。
即位して数ヶ月の若干二十一の皇主は、戦狂いだ。
獣のように、ただひたすら暴れるばかりでまともに人の言葉も通じない。破壊の限りを尽くす戦の化身そのものだった。
戦に嫌気がさした民衆も、ハイゼンベルクの皇主を歓迎してはいなかった。
そして革命軍は血によって選ぶ王を持たない国へと変え、戦ではなく合議によって国を動かすためにグリザドの血を絶ち島から魔術を排除することを宣告し、民衆の支持を得ることとなった。
わずかひと月足らずの間に、かつてのディックハウト軍を基盤にハイゼンベルクの魔道士も多数味方にした革命軍の数は一気に膨らんだ。
そうして、首を差し出すことを求められた皇主は、忠誠心を求めなかった。
戦場と力を望む者だけ自分についてこいと、全ての魔道士に告げた。
それにより一部のディックハウトの魔道士は、皇主につくことになった。
こうして五十年に渡る皇家の正統争いの内乱は、魔術を捨てる者達と捨てられない者達の戦へ変わったのだった。
***
戦わねば終わらない。
処刑台に立つことを革命軍からの使者に要求された時、バルドはそう思った。
自分の首を差し出したところで、千年に渡る皇祖グリザドの支配からこの島の者達は解放されない。
討ち倒すことに意義があるのだ。
力の、戦の象徴である自分を魔道士達が自らの手で倒さねば、どこかにわだかまりは残る。
そして、戦以外に生きる場所を見いだせない者達にも、死に場所が必要だ。
戦の象徴、戦を望む者。その全てを一掃してこの島の戦は、一度終わりを迎えるだろう。
(俺も戦わねば死ねない)
誰よりも死に場所を求めているのは自分だ。
夜明け前にふと目を覚したバルドはすぐ側で体を丸めて眠っているリリーの寝顔に目を細め、半分眠った頭でぼうっと考え事をしていた。
彼女もまた、戦場で終わることを望んでいる。
だけれども。
バルドは目を閉じてもう少しだけ眠ることにする。慌ただしい毎日の中、ゆっくりと眠れる時間は貴重だ。それに、頭も体もまだ休息を必要としている。
この頃は考え事があっても眠ることは難しくなくなった。リリーが一緒にいるのももちろんだが、自分の中でひとつ区切りになる答が見つけられたのもあるだろう。
後は踏み出すだけだが、それはまだ踏ん切りがついていない。
バルドはリリーに身を寄せて眠気に大人しく降伏することにする。
夜明けまでの穏やかな時間を無駄にするのはもったいないと思えるほどには、心は穏やかだった。
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