第21話 ラケットの在り処
「藤崎!! ここにいた! 練習は?」
美羽はどこかで見た顔だと思っていたら、彩夏が「大島先輩……」と呟いた。
「練習は、今日はちょっと」
「藤崎、大丈夫か? あの~、その。あ~、えっと。いや、何でもない」
そう言うと、走って行ってしまった。廊下を走る足音が遠ざかっていく。
彩夏が、「怪しい~!!」と叫ぶ!
「大島くんは、この前、ラケット見つけてくれたし」
「それが、怪しいって言ってるんですよ!! まず、なんでラケットの有りかを知っていたんですか? それに、ラケットの無くなったときに、教室まで何しに来たの?? 絶対に怪しいでしょ! 大島先輩、藤崎先輩のことが好きなんじゃ!?」
彩夏は、どうしても動機を恋心にしたいようだ。
「小林、まだそんなこと言ってるのか??」
青木が呆れたように呟く。
「だぁ~ってぇ。ラケット隠しておいて、困ってる藤崎先輩を助けて好感度上げようって魂胆なんじゃ~?」
彩夏が青木に詰め寄っていると、藤崎先輩が笑った。
「それはないかな。ふふふ。大島くん、彼女いるよ。一年生の三咲さんだよ」
「あの、三咲ですか?? まさか!? 大島先輩、あんな感じの子が好みだったんだ。意外~」
「だから、何か他の理由があるはず」
彩夏と藤崎先輩が話している間に、青木は時間割りを確認し終わったようだ。
「先輩、今日って移動教室がある教科は無さそうですけど、そうすると、誰かがいるのに無くなったことになりますよね。先輩、怪しい人見てませんか?」
藤崎先輩は、思い出すように「う~ん」と唸っている。
「移動教室って言っていいのかな? 数学の授業が22HRと合同でレベル別になってるの。この教室も使っているけど、私は隣の空き教室なの。トイレとかで私が教室を開けることもあるけど、そのときもクラスメートはいたはずだし。怪しい人って言われてもね~」
仲のいい人のクラスに入ることは普通だ。青木だって辻のクラスにズカズカと入っていくし、北野が美羽のクラスに入ってきたこともある。クラス外の人がいたとしても、クラスメートと仲良く話していれば誰も気にしない。ただ、入ってきてラケットを持っていったとしたら、近くにいる人は不審に思うのではないだろうか?
「特に怪しい人にも心当たりはなく、長時間教室から人がいなくなったってことはないんですね」
「うん。そうなるかな」
「この辺ってうちのクラスだったら男子の溜まり場です。このクラスではどうだったのでしょうか?」
辻がキョロキョロとクラスの中を見回している。
「うちのクラスも男子の溜まり場かな。だいたいこの辺にいることが多いかも」
藤崎先輩が、ラケットを置いたところよりも入り口に近い部分を指し示した。
その位置に男子の溜まり場があるとしたら、ラケットに辿り着くには、遠回りをするか溜まり場付近を通過するしかない。
美羽は自分が溜まり場を通過することを想像した。自分のクラスでも遠回りしてしまうのに、他のクラスで突っ切るなんて出きるわけ無い。
青木が上靴を脱いで、ロッカーの上に登り始めた。
教室の隅にある清掃用具入れの上を確認し、その位置から前の黒板横にある棚の上を覗き込んでいる。
ロッカーの上から飛び降りると、掃除用具入れを開けた。回りも覗き込み、ラケットを探している。
「青木君、ラケットは教室内ですか?」
「あぁ、この教室に人がいなくなるタイミングがなかったみたいだし、近くに隠してあるんじゃないかと思うんだ。皆も探してくれ」
黒板横の棚の中や、その隙間なども覗く。今は人も荷物もなくガランとしている。ラケットが隠せるような場所はそう多くない。
物陰なども探した。廊下や、隣の教室まで。
「見つけました!!」
西原が叫んだ。黒いケースにピンク色のロゴ、可愛らしい熊のぬいぐるみが付いていた。
隣の空き教室前の廊下には荷物が置いてあるところがあり、そこの影から見つかったのだ。
藤崎先輩に確認してもらう。間違いなく藤崎先輩のもので、ラケットは無事だった。
「彩夏ちゃん、探偵部の皆、ありがとう!」
「先輩、ラケット、あって良かったですね。でも、まだ解決してないですよ」
彩夏は、こんなことをした犯人が許せないらしい。美羽だって犯人は気になる。野放しにしておいて、またラケットが盗まれたらと思うと犯人は特定しておいた方がいいと思った。
「え? 犯人ってこと?」
彩夏は大きく頷き、今からどうするかは青木が話した。
「そうです。もうすぐ部活が終わりますよね。大島先輩に話を聞きに行きましょう」
「大島くん?」
「何か知っていると思いますよ」
辻が柔らかい笑顔で優しく話す。
「僕らで探してくるんで、ちょっと待っていてください」
青木が辻を連れて出ていった。
「藤崎先輩、お待たせしました。下校時間まであとわずかですから、本題に入りましょう」
顔をひきつらせた大島先輩の姿があった。
「あの、俺は……」
「知っていることを話してくれればいいんです。大島先輩に不都合なことはないと思いますよ」
「でも……」
大島先輩は了承していないのにもかかわらず、青木は話し始めた。
「俺の見立てでは、犯人は女子テニス部の21HR 、22HR、範囲を広げたとしても23HRの生徒です。クラスに人がいるのにラケットを移動できるのは、ラケットを持っていても不自然ではない人物、つまりテニス部です。そのケースで、男子の可能性は低いですから、女子テニス部でしょう。さらに藤崎先輩に見つからないで移動できるということは、トイレのときか数学で移動したときか、タイミングはわかりませんが、藤崎先輩が教室にいないことを知ることが出来る人物。トイレも休み時間も短いですから、教室が近いことが必須条件です。ラケットも近くから見つかりましたし、遠くまで隠しに行く時間がないほど、短時間の犯行だと思います」
「それで、なんで大島くん?」
大島先輩はテニス部だが男子だ。クラスも該当しない。
「大島先輩、絶対に藤崎先輩が困っていることを知っていましたよね。今日の行動も、前にラケットを見つけたことも、夏休み中に公園であったときも、おかしな行動をとっていました」
大島先輩は、来たばかりと比べて柔らかい顔をしていた。
「あぁ~、あのだな。犯人は二年の女子テニス部で間違いないんだな?」
「まぁ、絶対ではありませんが、かなりの確率で」
念を押す先輩に青木が力強く答えた。
「前に公園であったとき、俺と渡辺はあの公園の貸しテニスコートにいたんだ。そこには女子テニス部のメンバーもいて、ちょうど着いたときに大きな声で藤崎の話をしているのを聞いてしまったんだ。藤崎って、その、テニス強いだろ? しかもこの見た目だ。男子人気も高いんだよ。それに関して、妬ましいから意地悪をしようって話だったんだ。次の大会で勝てないように練習時間を減らせばいいんじゃないかって話になっていた。嫌な話で聞きたくないと思ったから、コンビニに行ったんだけど、そこで小林に会って声をかけたんだ。藤崎の味方が一人でもいればと思って、仲いいか聞いたんだけど、仲いいんじゃん」
「いや、普通に先輩後輩ですって。だから、困っていれば助けますよ」
「まぁ、小林だったらテニスうまいし、妬んで意地悪なんてしないかなって。それで、その悪口を言っていたメンバーの中に三咲がいて、あぁ!三咲って彼女なんだけど、もしかして彼女がやったんじゃないかと思って言えなかったんだ。藤崎が困っているのがわかっていたのに」
大島先輩は藤崎先輩に頭をさげた。
「渡辺先輩もその話を聞いていたんですよね?」
「あぁ、渡辺も気にしてる。っていうか、あいつの方が気にしてる。ただ、あいつは男子テニス部の期待の星だから練習してくれって俺が言ったんだ。今日だって、藤崎が来てないって気づいたのはあいつだぞ。見てきて欲しいって言われて、来たんだから」
大島先輩は自分は一回戦負けだと思うからちょっとくらいサボっても大丈夫と言って笑った。
「夏休みの貸しテニスコートにいたメンバーで該当するクラスの生徒はいますか?」
大島先輩の話では二人いるらしい。藤崎先輩は、確証がないのに責めることは出来ないと言う。その二人に気を付けながら生活するそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます