第19話 初めての嫉妬、遠距離恋愛

 由香里との海と夏祭りのデートを楽しんで夏休みはあと2週間となり、今は夕食時。ちょっと本を買いに外に出かけていたのだが、ついつい立ち読みに時間をとられ帰るともう夕飯が由香里の手で作り終えていた。


「え、由香里これ一人で作ったの?」

「うん、どうかした?」


「どうかしたって…いやいや料理の腕上達しすぎでしょ。前まで料理一切しないで、私が退院した後も手伝ってもらってたけど、これは…」


 カウンターの上にあったのは、ふわっふわ、とろっとろのオムライスだった。包丁で切れ目を入れると中から半熟卵がお出迎え。最後にデミグラスソースをかけると実においしそうだった。いや、そんなことより!?ほんとに由香里が作ったの?


「えっと由香里食べる前で申し訳ないんだけど」

「うん、どうしたの?オムライス嫌いだった?」


「いや、オムライスは好きだけど、それより由香里私が入院してる間に相当料理勉強した?もしかして」

「うん!そりゃあ美波ちゃんの胃袋掴むために頑張ったよ!」


「あはは…」


 私にとって由香里に勝てる唯一の私の持ち味が今無くなった気がした。これはやばい…


「美波ちゃん見てるだけじゃなくて早く食べて?冷めちゃうよ」

「う、うんそうだよね。じゃあいただきます…ん!」


「どう?」

「おいしいです…」


 これはもう完敗です(泣)。大変美味しゅうございます、じゃなくて本格的に由香里に勝てるものが無くなってきている…このままだと家事分担した意味が皆無になる。このままだと由香里の性欲処理要員でしかなくなる…そ、それだけは阻止しなくては!


「由香里…私決めたよ」

「どうしたの美波ちゃん怖い顔してるよ?」


「私明日から、実家に帰らせて貰います」

「え…」


 由香里が作ってくれたオムライスは非常に美味だった。卵の中と外の火の通り加減、口当たりの良さ、そしてチキンライスは絶妙なケチャップの酸味が濃厚なデミグラスソースによって緩和され非常にマッチしていた。


 これはお母さんに教わらなくては…


「それで帰ってきたのね美波」

「うん、料理を教わりに帰ってきた。料理教室の先生してるお母さんなら間違いないかなって」


「ふぅん、まぁ好きな人のために頑張って美味しい手料理作りたいっていう気持ちは分からなくはないわね、わかったわ!この2週間でみっちり教え込んであげる!」


「さすが自慢のお母さん!」


 ふふっと自慢げに笑いながら私にこの2週間料理をみっちり教えてもらえることが決定した。よしこれで、由香里の胃袋を掴んでやるんだから!


由香里side


 私は一人で、カウンターに座り突っ伏している。

 

「美波ちゃんがご実家に帰っちゃった…なんか料理の勉強してくるって息巻いてたけど、私今の美波ちゃんのご飯の味好きなんだけどなぁ…はぁ早く帰ってこないかな、寂しいよぉ」


 2週間美波ちゃんに会えないと思うと寂しさが尋常じゃない、病院の時は会えたからそうでもなかったけど。


「毎日夜には通話しようとは言ってたもんね。でもこれって遠距離恋愛みたいでちょっとドキドキするかも」


 ずっと近い距離に居すぎるとマンネリ化するっていうから、こういう刺激もたまにはいいかも。寂しいのは変わりないけど…


 そして美波ちゃんと通話をする時間になり、しばらく話していた。


「あ、それで美波ちゃんご実家はどう?」

『案外楽しいよ、早くマスターして由香里のために美味しい料理作れるようになるね!』


「楽しみしてる!」

『うん…』


「美波ちゃん?どうかした?」

『…いや、なんか由香里に触れられない距離にいるって寂しいなっと思って』


 美波ちゃんもやっぱり寂しいんだ…まだ一日目なのに美波ちゃんだいぶ寂しがり屋さんなのかな?そういうところも可愛い。でも、少しでも安心してもらわないと、


「じゃあ、美波ちゃん聞いてて」

『ん?』


「ちゅっ」

『えっ?今のって、もしかして…』


「うん、キスだよ。美波ちゃんからもして?」

『うん…ちゅっ』


「ふふ、なんか恥ずかしいね」

『うん、そうだね。でもちょっと寂しさ和らいだかも、ありがとう由香里大好きだよ』


「私も大好きだよ美波ちゃん」


 この後も止まないキスの音が自室に響き続けるのだった。

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