第2話

木見灯乃飛きみひのと君。向こうでも頑張ってくれたまえ」

 恰幅の良い校長から異動を打診された。断る理由が無いから引き受けたが引っ越しが面倒くさそうだな。

 断る理由が引っ越しが面倒、なんて通るはずも無くそのまま俺は地方の小学校へ異動した。きっと俺のできが悪かったのだろう。俺の新しい職場は桜楼おうろう小学校という離島唯一の小学校だった。

 離島から察せられる通り人が少ない。この学校にはクラスが無い。1年生から順に5人、2人、4人、4人、3人、1人。計19人。その割に教室数が少し多い。これは記録から分かったことだが昔は大勢の生徒が通っていたらしい。しかし時間と共に島から出ていく人が増え現在にいたる。典型的な離島の過疎化だ。

「1年生が一番多いんだな」

 俺は生徒名簿を見ながら暢気なことを呟いた。

 離島の過疎化は現在、社会問題として扱われている。だが実際のところ、俺といわずともほとんどの人にとっては「ふ~ん」程度のことだ。『ついに○○島から小学生がいなくなり、離島の過疎化がうんたらかんたら』なんてニュースを見てもなにも思わない。ただ、そうなんだとしか。

「そろそろ時間だな」

 職員室の古いがやけに座り心地の良い椅子から立ち上がり教室へ向かう。

 キンコンカンコンとおなじみのチャイムが響く。

 扉の向こうではチャイムが鳴ったから何だと言わんばかりにガヤガヤ騒いでいる。少し上を見れば1-1の文字。1クラスしか無いのに。

「よし」

 俺は軽く自分を鼓舞しドアに手を掛ける。

 ガラガラと音を立ててドアが開いた瞬間さっきまでの喧騒が嘘のように静まり1年生5人全員が俺を見る。

 この瞬間、慣れる日が来るのだろうか。

「新しいせんせい?」

 どこかで声がした。校長から俺のことは伝わってるようで皆俺が誰なのかをなんとなく把握しているようだった。

「今日から君たちの先生になった木見灯乃飛って言います。これからよろしくお願いします」

 俺は黒板にチョークで名前を書きながら優しく話す。小学生と言っても1年生はほとんど幼稚園児と変わらない気がする。中にはえらく落ち着いた子もいるがそのような子は幼稚園から落ち着いている。

「それではさっそく1時間目の国語をしたいところですが、先生はまだ皆さんのことをよく知らないので、今から渡すこの紙に皆さんのことを書いて貰います」

 突然始まったお楽しみ会のような展開にガヤガヤとしだす生徒たち。

 当然ながら生徒名簿を確認してるから名前と顔は一致するが、生徒たちと仲良くなるためにはこういったイベントが必要だ。過疎化した小学校なら余計に。

 20分程時間を取り、名前と好きなものを書いた紙を集める。

「ありがとうございます。それじゃあ授業を始めましょう。国語の教科書を1枚めくって下さい」

 こうして俺の新しい生活が始まった。

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