16 決着
キィン! と耳に突き刺さる金属音。
2人は激しく切り結んでいた。
続いて、ギリギリギリと鍔迫り合いが始まる。
腕力ではいくらかリュウドに分があるのか、体を押し込んでいく。
だが若干のパワーの差などでは、余裕を作れるものではない。
予備動作、技の出掛かり、剣を振り抜いた後。
それらのあらゆる場面で生じる
その理屈に
互いが剣を弾き、1度距離を取ると、再度2人が交差する。
「うらあっ!」
攻勢で切り込んだのはジャックスだった。
リュウドは放たれた袈裟斬りを防ぐが、ジャックスは剣を一瞬引き、すぐに幾度も打ち掛かる。
これも彼は、的確な剣の運びでしのいで見せた。
続けてジャックスは横に
その着地と同時に体を屈伸させ、彼はバネ仕掛けのように跳躍して踏み込んだ。
「イヤーッ!」
攻守逆転からの一太刀。
重い一撃を防御したジャックスだったが、再び鍔迫り合いに
「これがサムライとやらの技か。悪かねえな」
「お前などに評価される剣は持ち合わせていない」
構えを取り直したジャックスの刃がぎらりと物騒な光を放つ。
リュウドは剣を正面で構える、青眼に構えた。
右足を前に出し、続いて左足を同じだけ前へと引く……その摺り足でじりじりと間合いを計っていき、
「!」
両者がほぼ同時に駆け、真っ向から切り結ぶ。
が、ここで間合いを合わせ辛いと見たか、ジャックスは一旦離れると、相手を睨みつけながら横へと駆け出す。
距離を維持しながらリュウドは並走する。
2人はそのまま、障害物のない村の隅にまで走った。
牧草地なのだろうか。
足を取られるほどではないが、足首ほどの高さに草が
一陣の風が吹き抜け、草地が波を打つ。
風が
踏み込んでからの鋭い突き。
諸手突き、片手突き、そこにフェイントを絡めつつの連続突き攻撃だ。
リュウドはそれを左、右と振った剣で逸らし、顔面を狙う刺突にはボクシングのスウェーのように上体だけ反らして対処する。
更なる突きに息を合わせ、リュウドは剣を巻上げると、2人は距離をつめた
繰り出される剣と剣がぶつかり、火花を散らす。
当たれば肉を切り裂き、骨まで喰い割る、凄まじい斬擊の応酬。
キンキンキンキン!
一撃ごとに気迫が
武術の心得がないものには、2人の剣さばきを目で
しかし、
ここまで激しく剣を交えながらも、互いに動作を阻害するほどの怪我は負っていない。
それは実力の
「ぬう!」
「チッ!」
鍔迫り合いから互いに飛び退き、リュウドとジャックスは8メートルほどの距離を取った。
「ジャックス。これだけの才と腕があれば、従者どころか精進次第では騎士にもなれたものを」
「騎士? 馬鹿を言え、あんなつまらんものになってたまるか」
ジャックスは吐き捨てた。
「剣なんてものは所詮敵を殺す技術だ、他人を
「貴様が剣を語るか。人格までそのくだらぬ魔剣に引き摺られたようだな」
リュウドは刀を、今までにない上段に構えた。
そして意識的に息を強く吐き出し、グッと両手に力を込める。
心身の緊張とリラックスをコントロールし、攻撃力を高める剣気を急激に高めていく。
ジャックスは察した。
恐らく、今までとは違う、取って置きの技が来ると。
彼は警戒はするものの、恐れ
むしろ好機到来と捉えていた。
荒々しく攻撃的な剣に見えて、ジャックスが最も得意とするのは、相手の攻撃を自在に
彼はパリングの才に
剣術大会や騎士との試合など、ここぞという状況でその能力を発揮してきたのだ。
だがしかし、それを知る者は数少ない。
構えを取りながら、ジャックスは思い出す。
心底気に入らなかった、生意気なあの女──ルイーザを殺した場面を。
身体中に麻痺を受け、それでも剣を構えて果敢に斬りかかってきたルイーザ。
繰り出された剣を受け流して跳ね上げ、無念の眼差しに勝ち誇った顔を焼き付かせ、そして──。
さあ来い、奥義でも何でも来てみやがれ。
斬り込んで来たとき、お前はあの女のように無様に、後悔しながら死ぬんだ。
自然と上がる口角の笑みをこらえつつ、ジャックスは相手に集中する。
ちょうどそのとき、リュウドの高められた精神と剣気は最高潮に達した。
上段構えのまま、ぐぐっと体が沈むと、
「っ!」
言葉を発せず、凄まじい殺気と共に一気に間合いへと躍(おど)り込む。
羽ばたく
大きく踏み込み、今まさに上段から剛剣が振り下ろされようとする。
その瞬間。
ジャックスは剣を
これを弾き返して、反撃で確実に仕留める。
攻撃を受け止めたときが奴の最期。
勝利をつかむのは、この俺だ。
「さあ来いっ! ──!?」
予想だにしない出来事にジャックスは固まった。
リュウドが剣を振り下ろす寸前、構えを瞬時に中段へと転じたからだ。
ジャックスが反応しようとしたときにはすでに、リュウドは
「な、なにっ、ぐ、ぐああああ!?」
腕、わき腹、脚から同時に血が噴き出す。
すれ違う瞬間、視認できないほどの速度で上中下段の三段斬りを見舞われたのだ。
「あ、あいつ、大技を出すと見せかけて、あのタイミングでフェイントを」
唖然とするジャックスは凍りつく殺気を背中に浴びせられ、よろけながら振り返った。
そこには大上段に構える、リュウドの姿が。
「う、うわあああ!」
悲鳴をあげて死に物狂いで剣を掲げるジャックス。
その剣を目掛け、全力の一太刀が浴びせられる。
バキィン!
微かな余韻を残す金属の破砕音とともに、名もなき魔剣は砕かれた。
「あ、ああ、俺の剣が……」
ジャックスはその場にへたり込んだ。
プライドをも打ち砕かれたかのように。
つかんだはずの勝利が、彼の手からあえなくこぼれ落ちた瞬間だった。
「貴様などに剣を振るう資格はない」
リュウドは長光を鞘に納めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。