12 土地調査

 

 朝10時の鐘が鳴る。

 出発の準備を整えた俺たちは、時間通りに王立警察署へとおもむいた。

 いつもの部屋へ行くと、リンディの他に男が1人座っていた。


「こちらが国土管理局から来てもらった調査員のケネルさん」

 誠実そうな20代後半の小柄な男──ケネルは立ち上がり、頭を下げた。


 ケネルが身に付けている服は登山服のようなしっかりした素材の物で、上にはポケットがいくつも付けられたベストを着ている。


 洞窟調査も考慮された装備なのか、ゴーグルと丸い魔法石で前方を照らせるヘルメットまで着用していた。


「偶然予定が空いていたので私が調査の担当になりました。実を言いますと、ルイーザ様が生きていれば私が土地を調査するはずだったのです。これも何かの縁、今日は宜しくお願いします」


「こちらこそ、調査をお願いします」

 挨拶をすると、彼はパーティーに加わった。

 戦闘力は皆無のようで、守りながら進むことになるようだ。


「オーク3人のことだけど、夜明け前に釈放して村へ帰したの。被害届を出されてたダンギも一緒にね。どうせ採掘会社の難癖だろうから」

「そうか、良かった」


 人通りが多くなってからでは、目立ちすぎる。

 人目が少ない時間に帰した配慮は正解だ。


「これからユウキたちには、王立警察の公式な代理人としてケネルさんと村へ向かってもらいます。あ、検査のほうだけど、あと何時間かしたら結果が出るみたいだから、そしたら連絡するわね」


「ああ、分かった。こちらも何かあったら連絡する」

 ごく簡単なやり取りを済ませると、西門へ向かった。



 王都を出発した俺たちはモンスターの襲撃に遭うこともなく、無事にオークの村へと辿り着いた。


 村の入口では村長が村民数人を連れて迎え入れてくれた。


「戻ってきた3人から事情は聞きました。色々と尽力なさってくれたそうで、いやあ、助かりましただ。感謝の言葉もねえです」


「いや、大したことは。それより今日は土地の調査に来たんです。村の代表の了解をもらいたいのですが」

「ええ、ダンギたちからそのように聞いとります」


 俺は採掘会社の評判や、ルイーザが交渉に介入したせいで殺害されたのではないかという仮説を聞かせた。


「それで、正規の調査を入れて、採掘会社が事件に関与した可能性を確かめたいのですが」


「こちらとしても調査を頼んます。うちらに良かれと思ってやってくれたことが原因でルイーザ様が死んだんじゃ、申し訳がねえ。その辺をしっかりさせておくべきだ」


 了解を得ると、ケネルは背負ってきたリュックから道具を出し始めた。


 公的な書類に村長の一筆をもらうと、

「調査に最適の場所を探すので、ユウキさんたちは立会人として私について来て下さい」

 彼はそう言い、村の北側に抜けて、緩やかな斜面を登って行く。


 村のすぐ外でもモンスターは出没すると村長が言うので、俺たちは護衛の意味でも付いて行くことにした。


 山道を登って10分ちょっとで、彼の望んだ場所は見つかった。

 小山の中腹で、森がひらけて平らになっている。


 ケネルは地面に小さな魔法陣を描き、その中心に短い槍のような道具を突き立てた。

 この道具を通して、地中の鉱物を探るらしい。


「それほど時間はかからないので、待っていて下さい」


 呪文で魔法陣を光らせるケネルに言われ、少し離れた岩に腰を下ろした。


「これで、ベタン鉱石より高額な鉱石が見つかったらどうするの?」


「結果次第だけど、出てきた物によってはゲザン鉱業のやってた手口と合わせて、ここでも同じ手口で利益を出そうとしてた説が高まってくる。それがルイーザを殺してでも欲しいほどの高額になるなら、妨害のために殺害を企てた理由にもなると思うんだ」


「だがユウキ、それだけでは証拠として弱いだろう。やはり殺害した犯人に直接繋がるものがなければ」

「ああ……そうだよなあ、もっとしっかりした物があれば」

 俺が腕組みで唸っていると、飛声石が反応した。


(ユウキ、あの布の検査結果が出たわよ)

「ああ、それで何か出たのか?」

(うん、それがね──)

 俺はリンディからの報告を、うんうんと確かめながら聞いた。


「ユウキ、検査で何か出たの?」

「ああ、リンディが言うには──」

 俺は聞いたままを伝える。

 するとアキノは、つぶらな目を大きく見開いた。


「ああ、やっぱりそうだったんだ、あれは」


「ま、まさかぁ!? こ、こんな物が!」

 突然、ケネルが大声をあげた。


「ベタン鉱石と聞いていたのに、こ、これほど物が!」

 普通ではない驚きようで、ひどく興奮している。


「ケネルさん落ち着いて下さい、何が見つかったっていうんですか?」


 半ばパニックの彼に近寄り、冷静を促そうとしたが、

「お、落ち着けませんよ! 王都の近くの土地からこんな凄い物が見つかるなんて! だってこれは──」

「な、なんだって!?」

 聞かされた俺自身もその事実に驚愕した。


 そのとき、リュウドが叫んだ。

「見ろ、村から火の手が上がっている!」


 眼下で立ち上る煙は、明らかに焚き火や炊事の物ではない。

 複数の火元は、家屋そのものが燃えているように見える。


 俺は一瞬火事を疑ったが、すぐにその認識を改めた。

 オークたちとは別に、村中を駆け回る人間らしき姿が目に入ったからだ。


「あの火、まさか村が攻撃されてるの?」

「とにかく急ごう!」

 言うが早いか、4人は山道を駆け降りた。

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