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「縞田 桃」編①

序幕<プロローグ>「『とある美少女』の記録」

 ◇


【〜西暦2023年〜日本〜】


 桜咲く4月。うららかな春の日差しを一身に浴びながら、真新しい紺色のブレザーを着た高校生たちが歩いていた。

 入学式シーズンを迎えた田舎の通学路。初々しい若人の群れは、ぞろぞろと坂道を上り、その先の校門をくぐっていく。


 ──そして『彼女』もまた、その学生の中に混じった1人だった。


 その少女の外見は、周りと比べて特に目立っているわけではない。それどころか『三つ編みおさげ』に『眼鏡』というその風貌は、むしろ地味と言えるだろう。

 だが、それでいて周りに埋もれることがない。『目立つ』というよりは、『際立つ』といった存在感が彼女にはあった。

 

 利発さを感じさせる、大和撫子然とした顔立ち。

 もし『服の乱れは心の乱れ』という言葉が正しいのならば、きっと彼女の心には一切の乱れもないのだろう。


 彼女──『縞田桃しまだもも』は窓際の自分の席に着くと、ブックカバーがかけられた一冊の本を読み始める。言うまでもなく、彼女の姿勢は良かった。


 彼女を言い表す言葉は様々だ。

 ……『大人びている』『落ち着いた』『冷静沈着』『風紀委員長』。


 どれも彼女のを言い表す言葉として、至極適切と言えるだろう。



「──次はこの問題です。縞田さん、この問題を解いて下さい」

「はい」


 そして桃は黒板の前に立つと、黒板に書かれた問題をスラスラと解く。



「……えー、であるからして……」

「先生、質問があります」


 挙手をしながら桃がそう声を上げる。



「……真面目だわ」

「委員長!」


 どんな問題を当てられてもスラスラと答え、授業中に率先して質問する等、勉強熱心でもある。そんな彼女が1年生で風紀委員長に任命された時、クラスメイトの中には誰一人驚く者はいなかった。


 ◇


 ──そして、その日の放課後。


 ガラガラガラ。

 自宅の玄関の引き戸を開けると、帰宅した桃は真っすぐに自室へと向かう。


 バタン。そして扉を閉めると、姿。 


「フォーーーーーゥ! 新作の時間だーーーッ!」


 奇声を上げながら、『ビリビリビリ!』と桃は勢いよく段ボールを開封する。

 ……ちなみに、下着姿になったのには特に理由はない。ただのノリである。

 

 ──縞田桃、16歳。

 表では真面目で通っているが、裏ではなんでもありバーリトゥードなオタクであった。


 ◇


 桃が熱心に勉強しているのは、別に彼女が真面目だからではない。その理由はむしろ、真面目とは真反対の煩悩そのもの──


「『恋愛ラヴ』! 『ロマンス』! 『秋葉原アキバ』! ──VIVAビバ、東・京ッ!」


 気合の勝どきを上げながら、桃は机に向かって勉強を続ける。そんな桃の勉強机には、様々なグッズが(公式・非公式問わず)所狭しと置かれていた。


 ◇


 ──そして時は過ぎ、2023年の冬。


 その日も桃は学校の図書室で勉強をしていた。彼女の心の中はただ一つ、『東京でのバラ色の人生』のみ。

 一方で周りの生徒はそんな彼女の心の中など知る由もなく、『今日も図書室で勉強かー。真面目だなー、縞田さん』なんて考えていたのだった。


 しかし──そんな平穏な日常は、突如終わりを迎える。


「何だ、この光……っ!」


 生徒全員が、その『白い光』を目撃した。そして、その直後──


「キャーッ!」


 校庭から叫び声が聞こえてくる。窓を開けるとそこには、『緑色の肌をした化け物』がいた。──ゴブリンである!


 ……それから間もなく、モンスターパニックが始まった。


「委員長、逃げっ……!」

「なんてこった! 『モブ顔の太田君』が死んだ!」

「この人でなし!」


 そして迫り来るモンスターから逃げ惑う生徒たち。一人、また一人とモンスターの手にかかり消滅していく。こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

 生き延びなきゃ……! 生き延びて、東京に行くんだから……ッ!

 そこから桃が見せる、ゴキブリのような生存能力。そして──


「ハァハァ……何とか生き延びた……」

 

 ──気づけば、桃はたった一人になっていた。


 ◇


 ……そして現在。2025年、夏。


 桃は逃げ込んだ避難地区に取り残され、東京どころか周りはジジババばかりの生活を送っていた。こんなはずじゃ……『恋愛ラヴ』は? 『ロマンス』は? 



「──こんなとこ、イヤです~! 『東京』、どこですか~!?」



 そんな桃の叫びは、森の中に空しく消えていくのだった……。

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