終幕<エピローグ>「名古屋より壇上町へ」
◇
それから少しして、食事を終えた寿限ムたちは仲居さんにお会計を頼むのだった。
ちなみに料理に使った以外の残りのうなぎも捌いて貰っていて、今はアイテムボックスにしまってある。
今日は令の奢りだ。『……それじゃ、僕が払おうかな。ルーキーの第一歩を祝って』と財布を取り出すと、料理の代金を支払った。
それにしても分厚い財布だ……お札がパンパンに詰まっている。そんな風にジッと見つめていると、令はおもむろに寿限ムの手に自分の財布を乗せた。
寿限ムの手に、ずっしりと札束の重さがのしかかる。
「──"俺にならないか!?"」
そして令は寿限ムから財布を取り上げるのだった。……え? 何?
「何だったんだ今の……」
「一流の探索者になったらこれぐらい稼げるってことだね☆」
「な、なるほど。そういうことか……」
「……ちなみに『グラップラー〇牙』と同じ作者のコミカライズだよ」
「????」
ちなみに最後は令の補足だ。……え? あ、うん。
……よく分からないが、とにかくそういうことらしい。寿限ムは納得する。
そして寿限ムは今、スマホを契約しにショッピングモールにまでやってきていた。
これが寿限ムにとって生まれて初めてのスマホデビューとなる。探索者として活動する際に何かと必要になるらしく(便利なアプリとか色々あるらしい)、令と戻子の2人に協力してもらって自分用のスマホを契約したのだった。
これが、俺のスマホ……寿限ムは感慨深げにそれを見つめる。
オーソドックスなスマホで、色はメタリックな銀色。カッケェ……。
これまでずっと誰かが操作しているのを横から眺めているだけだったが、遂に自分でスマホを持つことが出来たのだ。もちろんメチャクチャ嬉しいに決まっている。
──そして、アパートへの帰り道。
「にしても、あそこの『ひつまぶし』はめちゃくちゃ美味かったなー」
「ねー☆ やっぱ名古屋の『ひつまぶし』はガチっしょー」
「……うん。次に名古屋に来る時は、また食べに行きたいね」
3人揃ってひつまぶしについて語り合っていた。
うな丼にも食べさせてやりたいところだけど……そうだ! 猫は人間の料理は食べさせちゃいけなかったんだっけ。
そして寿限ムは、2人に訊ねるのだった。
「なあ、ちょっと知りたいことがあるんだけど……『うな丼』って、猫に食べさせるにはどうすればいいんだ?」
「……猫?」
「うん、猫」
「ジュゲム、猫飼ってるの?」
「まあ、そういう感じ」
「……ふーん。珍しいね。猫にうな丼を食べさせるなんて」
そう言う令は、意外そうな顔を見せる。
一方で、何やら考えていた様子の戻子が口を開いた。
「……うーん。やっぱそう言うのって、ネットで聞くのが一番じゃないかな☆」
「ネットか……初めてなんだよな……」
「おー、ネット初心者。すごい健全だ」
「そっかー。せっかくスマホを契約したんだし、ジュゲムんも試してみたら?」
「悲劇。また1人、汚れた人間が増える……」
そしてそれから2人に教えられたのは、『ネットの知恵袋サイト』だった。
アカウント登録をすると、早速質問を投稿する。
「……『猫用のうな丼のレシピを教えてください』っと。こんな感じでいいか」
「うん、上出来。そのうち回答が来るから、それまで待ってるといい」
すると、しばらくして書き込みがきたのだった。
なになに……
──スマホ、便利すぎる……!
「『参考になりました。どうもありがとうございます』……っと」
◇
──そして、その日の夜。
……寿限ムはアパートの裏庭で、一人空を見上げていた。
パンパンパン、と弾ける音が聞こえてくる。真夏の満天の星空に、綺麗な花火の軌跡が刻まれていた。
──そして寿限ムは、あの時の言葉を思い出す。
『あの時の花火は綺麗だったな……そうだ。もしアイツを倒したら、デカい花火を打ち上げよう。そうすれば分かるだろ? 俺がアイツを倒したって……』
そう言って寿限ムはあの時東京で、刻花とオッサンを逃がして、オーガに立ち向かったのだ。あの時は約束を果たせなかったけれど……
ようやく、2年越しに倒すことが出来た。
「ま、一応、約束だったからな……」
ここで花火を上げたところで、遠く離れた場所にいる刻花には、絶対にこの花火は見えない。……だからこれは俺の自己満足だ。
俺は、これから探索者として生きることに決めた。
刻花だって、生きているなら、アイツのことだから探索者になっているだろう。きっと、ずっと先に行っているんだろうな。
「……絶対に、すぐに追いついてやるからな!」
◇
【西暦2025年・東京都近郊の某県──及川邸】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日本の都市の中で、いち早く復興を遂げた町がある。
その町の名前は──
今では『とあるギルド』が本拠地を置くその町は、2年前の姿を取り戻していた。
かつて瓦礫とひび割れの山だった町の景色も、『とある有力者』の支援によって完全に修復が完了している。
田舎でもなければ都会でもない、日本のどこにでもある町──壇上町。
そんな壇上町の町はずれには、
──名前は『及川邸』。
……そしてその主である『ゴシックドレスを着た少女』は、自室の窓辺の椅子に座りながら一人物思いに耽っていた。
彼女の名前は『及川 刻花』。
そして彼女の脳内に浮かんでいたのは、『一人の少年』の姿だった……
◇
……小さい頃の刻花にとって、自分の住むお屋敷が世界そのものだった。
お屋敷に出入りしていたのは、皆大人ばかり。黒い服を着て、いつも厳つい顔をしている男の人たちがいっぱい。
大人は嫌いだ。いつも嘘をつくから。
けど……そんな世界の中で、ただ一人自分と同じ年頃の子供がいた。
その少年は刻花が3歳の頃に、このお屋敷に引き取られたらしい。
『血は水より濃い』という言葉がある。その少年には傍流ではあるが及川の血が流れていた。
刻花は生まれつき心臓が弱かった。彼女が小さい頃に母親は心臓の病気で亡くなった。そして言われたのだ。自分は同じ心臓の病気を引き継いでいるのだと。
少年はいわばスペアだった。本流の刻花が亡くなった際の、保険としての存在。
……それが2人の関係だった。
刻花がその少年と初めて言葉を交わしたのは、刻花が5歳の時だった。
少年はその時高熱を出して、屋敷の一室に運び込まれてきたのだった。
刻花はこっそり、少年の部屋に忍び込む。
それから刻花は、ぐったりした少年のタオルを代えてあげたり、飲み物を運んであげたりしたのだった。
しばらくして、少年が目を覚ます。
「うっ……誰……?」
「私はキリカ。あなたは?」
「……ジュゲム……」
その日から刻花は、寿限ムの具合が良くなるまで毎日通い続けたのだった。
そのことを不思議に思った少年が、刻花に訊ねる。刻花はこう答えたのだった。
「私、友達がいないから」
「友達……俺もいないな……」
「そう、なんだ……」
それからしばらくして、少年は物置小屋に運ばれていった。
少年は高熱でうなされていたせいか、刻花のことは忘れてしまったようだ。
それから刻花は、少年のことを遠くから見守るようになったのだった。
刻花はお屋敷の窓から、人知れず少年のことを見つめる。
──私の、初めての友達……。
◇
──そして刻花は、パソコンの画面を見つめる。
パソコンの画面に映っているのは『猫用のうな丼のレシピを教えてください』という投稿。今しがた刻花は「♰漆黒ノ翼♰」の名前で返信したところだった。
──『猫用のうな丼』。そんなことを質問するのは、この世で一人しかいない。
「……早く帰って来なさいよね、ジュゲムのバカ……」
そして刻花は静かにパソコンを閉じるのだった……
【Stage1.Cleared!……Next→Stage2.! To be continued……】
------------
【あとがき】
お疲れさまでした! これでStage1(第1章)は終了となります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
作者としては、ひとまず1章書き上げることが出来てホッとしています。
なお、続きのStage2は近日公開予定です(現在順次公開中)。
予告しておくと、Stage2の開幕は『「縞田 桃」編①』です!
そして読者の諸君はお気づきでしょうか? この作品のレーティングに、いつの間にか『性描写有り』が追加されていることを……!
断言します。全てはコイツが元凶です。下ネタばかり言うから……
作者のモチベーションになりますので、『作品のフォロー』『★での評価(★で称える)』をよろしくお願いします!
(By作者)
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