借金8億の天職【家事師】のクズ男、公爵令嬢に買われる~借金しながら死ぬまで豪遊するつもりだった最強の俺、「アナタの所有権はわたくしにあります」って天使な令嬢が迎えに来たんだが?〜
第1話 「アナタの所有権はわたくしにあります」
借金8億の天職【家事師】のクズ男、公爵令嬢に買われる~借金しながら死ぬまで豪遊するつもりだった最強の俺、「アナタの所有権はわたくしにあります」って天使な令嬢が迎えに来たんだが?〜
夕
第1話 「アナタの所有権はわたくしにあります」
◇◇◇◇◇
ーー王都 カジノ「ピースオブケイク」
カラカラカラカラ……
黒と赤が交互に装飾されている円盤が回転し、その上を小さな白球が踊る。
「行け! 行け行け行け!! 赤だ、赤!! 赤の3!!」
「黒だ、黒の10! 黒の10!! 頼む、頼む!! 来い来い来いこぉおい!!」
周囲の人間は白球の行方を追って叫び散らしているが、俺は右眼の眼帯をクイッと元の位置に戻し、「ふっ」と余裕の笑みでも浮かべてやる。
(バカなヤツらめ……。望みすぎてもダメなんだよ)
叫んでも結果は同じ。真のギャンブラーと言うヤツは静かに、紳士的に玉の行方を見守るもんだ。
カラカラカラ、カランッ!!
「黒の24です」
ディーラーの宣言。
「「「「よっしゃぁあ!!!!」」」」
「「「「クッソォオオオオ!!」」」」」
場内には歓喜と焦燥が入り混じる。
「…………ぬ、ぬぬぬ、ぬぉぉおおおおおおおおおおお!!」
もちろん、俺は絶叫した。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ! これは夢だ、ゆめだ、夢だ!! そんなはずない! 今日は“勝つ日”だ!! 今日は“小屋”に行くんだよ!!」
「お、お客様、」
「赤なら数字なんてどうでもいいんだぞ? ……ふざっけんじゃねぇえ!! ここは赤だろ! なんで黒なんだよ! 25連敗なんて、どんな確率だよ! イカサマしてんじゃねぇえええ!!」
俺は周囲が呆気に取られるくらい絶叫した。負けに負け続け、溶かしに溶かしまくってしまった。
今朝、ボコボコにした“取り立て人に借金”したばかりの100万B(ベル)が泡となって消えたんだ。
……数秒前の俺をぶん殴ってやりたいが、もっとすべき事がある!
「え、映像記録の魔道具を確認させろ! 俺をカモりやがったんだろ!! そうなんだろ!?」
現実を受け止めれない俺がディーラーに詰め寄れば、
ガシッ……
屈強な警備兵に両脇を抱えられ、ハッと我に返る。
「出禁にされてぇか、“隻眼”」
「お前、そろそろギャンブルから足洗え」
両極端ではあるが、どちらの言葉も受け入れられない。ポイッと入り口に投げ捨てられれば、長い長い沈黙が顔を出す。
“何を考えているのか?”って……?
もちろん、何も考えていない。
正確には何も考えられない。
いや、違うな。
残ったのはただの煩悩だ。
「…………ま、待ってくれ。待って下さい……。今日はアンジェリカが待ってるんだ」
今日はストリップ小屋でお気に入りの踊り子が脱ぐ。週に一度の“おかず”を手に入れられないと待っているのは地獄。
悶々とした1週間を過ごすハメになり、街中で堂々とイチャコラしている恋人共を殺したくなる。
それは、“俺の主義”に反する。
パチッ……
先程の警備兵とふと目が合うと、泣きそうな顔をして同情してくれている。ぶっちゃけ、もう顔馴染みですらある。
友達も恋人もいない俺の娯楽。
あの張り詰めた緊張感。
ドロドロと渦巻く欲望と金。
一度でも大勝ちしてしまえば、もう逃げられない。楽しむと同時に楽して大金を手に入れられるんだから仕方ない。
「……“ピースオブケイク”」
俺はポツリとカジノの店名を呟く。
大金を稼ぐのも、大金を失うのも、“楽勝”……“たやすいこと”ってか……。
「ぐふっ……!! 世知辛いっ!!」
俺は咽び泣いた。
※※※※※
なぜ俺がクズに成り下がったか、少し弁解させて欲しい。
俺にはクズな父親がいた。
ギャンブル中毒、アルコール依存症、薬物漬け。日常的に殴られ蹴られの虐待はもちろん、外でもケンカ三昧でマジでどうしようもない父親だった。
母親は俺が物心つく前にはいなかった。
貧民街で生まれクソ親父と過ごしたが、俺が7歳の頃に薬物の過剰摂取で勝手に死にやがった。
ざまぁないと思ったのは一瞬だ。
ーーこっちも商売なんだ。借りたもんは返してもらわねぇとな。
俺は7歳にして3億B(ベル)の借金を負わされ、「闇金ギルド」に拉致された。
右目をくり抜かれ、“魔物狩り”をやらされ、地下闘技場(コロシアム)で賭けの対象にされ、そりゃあもう毎日が死の連続だった。
俺は可哀想な子だったんだ。
俺なりに必死に借金を返そうと頑張ったんだ……。
でも、俺は気づいた。
“俺ってめっちゃ強くね?”と……。
この世界では5歳になると“天職”を授かり、それに合わせたスキルを習得する。
俺の天職は【家事師】だ。
ーー“ロエル・ジュード”。お前の天職は、“かじ、し?”……である。
半笑いだったボロボロ教会の神父。
口頭で伝えられたので【鍛治師】かと思って、無駄に金槌でガラクタを叩いた日々も今では懐かしい。
“正規ルート”で言えば、真面目に努力や鍛錬をしてスキルを習得するんだろうが、“裏ルート”は確実に存在する。
ーー《いそじん》を習得しました。
ーー《調理》を習得しました。
ーー《掃除》を習得しました。
ーー《爆買い》を習得しました。
ーー《洗濯》を習得しました。
ーー《目利き》を習得しました。
ーー《戸締り》を習得しました。 etc...
死に直面し続ける中で手にした、俺の《生活技能》はぶっ壊れている。
おそらく、『俺が望む日常生活』を円滑にすることのできる“天職”。常に死地にいる俺に、女神は応えるしかなくなったのだろう。
“勇者”? “賢者”? “剣聖”?
いやいや、『何者にでもなれる』んだぞ? 1番ぶっ壊れてる職業(ジョブ)は【家事師】だろ? 間違いない。
それはそれとて、13歳くらいかな?
俺は自分の力にドン引きし始めた。
そして、一向に減る事のない3億の借金を前に悟る。
「こりゃ、もう無理だ」と……。
「逆に借金しまくって豪遊すりゃいんじゃね?」と……。
そこからは早かった。
ーーなぁ、金、貸してくれよ。
俺は“奪う側”に回った。
力を与えたのは闇金ギルドのクソどもだが、これまでの仕打ちを黙ってられるほどお人好しではない。
どうせ俺はクソ親父のクソガキだ。
でも大丈夫だ。心配するな。
“子孫は残さない”
どうせモテない。
片目しかないし、結婚は諦める。でも、万が一にも“第二の俺”を生まないように、童貞を貫く。
“友達も作らない”
どうせできない。
まともな教養も常識もない。
人質にされたりしたら厄介だから、特定の人間と心を通わせる事がないようにした。
“闇金ギルドからしか借りない”
どうせ悪い事して稼いだ金だ。
裏で無茶苦茶してるんだから、正面から踏み倒してやっても問題ない。
この3つを決める事で、親父と差別化する。アイツと同じになるのは無理だ。
奪われる気持ちが分かる分、“相手”は俺が決める。クズはクズなりに落とし所を決めるもんだ。
『善人に迷惑をかけない、奪わない』
『クスリには絶対に手を出さない』
これを俺の絶対のルールと決めた。
俺は“悪”からしか奪わない。
ーー金を貸してください。
ーーお金、いいっすか?
ーー今月もちょっとだけ……。
ーーほら、金貸せ!
俺は闇金ギルドから金を借り続けた。
もちろん、返す気なんてさらさらない。
つい先日、俺の借金は8億になったが、取り立てれるなら取り立ててみればいい。
俺は1人で生きている。
誰かと関わると、俺に巻き込まれるのだから仕方がない。
つまりは、孤独を持て余す。
そりゃぁ……、
ギャンブルに狂うだろ?
ストリップ小屋に通うだろ?
酒場でアルコールに依存するだろ?
ほら、クズの完成だ。
※※※※※
「はぁ~……」
俺はズズッと鼻水を啜りスクッと立ち上がる。
次に闇金ギルドの連中が顔を出すのは1週間後のはずだ。
100万B(ベル)を一晩で溶かすなんて俺なら、“ピースオブケイク”だ……。
(……ダンジョンに設置した映像投影の魔道具で覗き見しながら、引きこもるか。いや、「自作の鎧騎士」で暇を潰すか……)
俺の家は闇金ギルドの隠れ家の一つを占拠して、かなり改装している。そこはもう【家事師】の本領発揮ってヤツだ。
《日曜大工(ニチヨウダイク)》。
意味のわからない言葉ではあるが、このスキルの性能は言わずもがな。
《目利き》のスキルで魔石の“性能と値段”を把握。それに合わせた加工と付与を《日曜大工》すりゃ、魔道具や“分身”を作り出すのなんて朝飯前だ。
「……ふぅ~……、今日は“ダンジョンセッ○ス”してるヤツいるかなぁ?」
アンジェリカの裸を見れない今、“おかず”の確保は必須だが、
グゥウゥ……
思えば朝から何も食ってない。
「……まずは1週間分の飯か。ゴミでも漁るかな……」
やっと歩き始めようとした俺は、未だにこちらを見つめている警備兵に軽く手をあげる。
余裕で無視されるかと思ったが、「もう来るなよ」と大きく口を開けて伝えてくる。
うん。“善人”だ。
今日はやっちまったな。
しっかり迷惑かけちまった。
…………いや、25連敗はおかしいだろ。
イカサマしてんなら、ぶっ潰す!
お、覚えてろよ!
俺がまたじんわりと涙を浮かべて歩き始めると、
カラカラカラカラッ……
どこぞの大貴族の豪華な馬車がこちらに向かって来ているのに気づく。
(ふっ、領民から巻き上げた金で堂々とカジノかよ。大した“貴族様”だな……)
俺は軽蔑の眼差しを向けながら、裏路地へと入って行くが、
カラカラッ。
豪華な馬車の気配は俺の背後に停まる。
「……ん?」
眉をひそめて振り返る俺を他所に、ガチャリッと扉が開く。
「“ロエル・ジュード様”ですね?」
そこには天使がいた。
「…………!!」
あまりの美しさに絶句する俺に、女は小首を傾げ、一枚の紙を取り出す。
「アナタの所有権はわたくしにあります」
近寄りがたいほどの美貌をニコッと笑顔に変化させて“借用書”を手に見つめてくる女。
緩やかに弧を描くその真紅の瞳にはマヌケヅラの俺がいる。
「…………ぉ、おっぱい、でかっ……」
俺は多分、第一声を間違えた。
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