メスガキに恋をわからせ『られる』

碧美安紗奈

登校させられる

「防犯ブザー鳴らされたくなかったら話聞いてね♥」


 朝、出掛ける途中で横から声を掛けられた。視線を向けたが誰もいない。


「あは、あたしがどこにいるかもわからないざぁこなの?♥ ここだよ♥」


 声は下から聞こえていた。小さかったのだ。

 ピンクと黒を貴重とした地雷系ファッションの美人系女子小学生。紫のランドセルを背負っている。

 八重歯が特徴的で釣り目がち、ツインテールの髪型が似合いすぎだ。

「学生? 社会人? どっちでもいいや♥ 途中まで同じ道だから一緒に行ったげるね♥」


 防犯ブザーのキーホルダーをちらつかせながら、半ば強制的に並んで歩く。

 いきなりのことにどぎまぎするも、目的地への進路をそれるわけにはいかない。


「ふ~ん、やっぱ比べたらお年寄りだね♥ わかると思うけどあたしはJS、女子小学生。何年生かは秘密♥ ヤっちゃったら犯罪になるのは確実だけど♥ 名前はモイラ、変でしょ。キラキラネームってやつだよ♥ あなたは?♥」


 年齢と立場を聞くや、自己紹介を交えてからかう。仕方なくこっちも名乗る。


「なにビビッてんの♥ おもしろいからこうしちゃうよ♥ あ、家族で~す♥」


 周囲を気にするわたしを嘲笑い、腕を組んで抱きつく。不審がる周囲には自分で言い訳もする。


「こっからは違う道だから残念♥ ざこ大人さんは寂しいだろうけど、またくっついたげるから安心してね♥ あ、これ連絡先書いたメモ。捨てたら通報だよ。じゃね♥」


 やがて分かれ道で彼女は、自身の携帯番号やSNSのアカウントを記したカラフルなメモ用紙を握らせてきた。そして、別の進路へと小走りで進んでいく。

 手を振りながら悪戯な笑みで振り返りつつ、小学校の方に去ったのだ。

 これが、モイラとの出会いだった。以降、わたしはつきまとわれることになる。


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