No.91 月を待つ

 月は見えなかった。

 けど薄墨の雲を仄かに明るく感じる向こうには、確かに存在しているのだろう。


「しばらく会わない方がいいね」

 彼女の言葉が過ぎった。


 風に流されて雲がうごめく。

 透けてくる明かりは少し強くなったもののまだ姿は見えない。


 しばらく待ったが、雲間から月を見ることは叶わなかった。

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