朝と植物園

小俵鱚太

朝と植物園


亡き王女のためのパヴァーヌ聴きながら朝に認めて悼む冬の死


北風と太陽の寓話でおもうのは勝負の道具にされる旅人


ハルの持つ記憶のはじめはなんだろうわたしは冬の狛犬だけど


ホトケノザとヒメオドリコソウを教えればこっちは王子なんだねと云う


週末に会う父として、サバイバル先生として自然を見せる


よくハルは「そしたらパパは救ける?」と訊く 誘拐をされる設定で


生き延びて欲しくて見せるどの道もくだると黒目川に着くこと


さくら葉にシロツメクサを乗せてから川へ流してアメリカまでの


満開の指定喫煙所は清し わたしはカラスノエンドウも見る


帰社をして鞄を置けば花びらがふせんのようにデスクへ滑る


ひとり異動ひとり退職した部署に社史編纂室のごとく窓辺は


二リットルペットボトルを直飲みでいくときひとり暮らしとおもう


アガパンサス色のこころは六月の朝だけにあり 和紙の手ざわり


多動の子にもみなニコニコと対処できる支援クラスの授業参観


全学年一緒にうごく体育のハルは姉にも妹にもなる


ひとりひとり習熟に沿い配られるハルには二年生のさんすう


まなちゃんがヘルプマークを付けていて手帳を取得したかもしれない


わたしの裡にガラスの植物園があり夏の朝には奥までゆける


交流クラスで四年一組へと向かうハルを浮かべて打つキーボード


夏の窓打つ虫たちの音がする午後の手ごわい睡魔のなかで

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朝と植物園 小俵鱚太 @kotawarakisuta

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