青春爆発 先を越されたから、推しキャラの着ぐるみ使ってNTRります

是宮ナト

プロローグ

 「母さん達どこ行ったんだよ……?」

 ○○ドーム何個分と例えられる広さのアミューズメントパーク入口付近で少年はとてつもなく大きな不安に駆られていた。それを紛らわせるように小さな足取りで付近をウロウロしている。時刻は午後四時、少年は荒れ狂う海のような人混みの中、家族と引き離されてしまった。家族を探しひたすらに歩いていると何とか入口の辺りまでたどり着いたが、見知った顔は見当たらずカップルや家族連れが楽しそうに辺りを徘徊している。アミューズメントパークの雰囲気のせいか雑踏がリズミカルに音楽を奏でているような音に聞こえた。

 ただ少年はそれどころじゃなかった。誰がどう見ても迷子なのだが、世間とは非情な物で少年を見ては目を逸らして三度、夢の国へと意識を戻していた。やがて歩き疲れた少年は全体を見渡せる中央のベンチへ力なく座った。出そうな涙をぐっと堪えて足をばたつかせていると隣に誰かが座ってきた。

 隣に座ったのは少女で恐らく少年と同い年ぐらいの子だった。ただ彼と違い表情は純粋無垢な笑顔だった。

 「君、もしかして迷子?」

 「たったら何だよ……」

 「実は私もなんだよねー!」

 彼女は楽しそうに笑った。少年には到底理解ができないようで、イラつきが彼の中で沸々と煮えたぎり始めた。反射的にそっぽを向いた少年に彼女は少し慌てる。機嫌を直そうとする彼女は顔を覗かせるが、少年の怒りは収まることはなかった。困り顔で頭を掻くと、彼女の中で天啓が舞い降りた。思わず大きな声を出して目を輝かせた。一方の少年は意地でも少女と目を合わせてやるもんかと強い意志で口を強く噤ぎ、目を逸らし続けた。ただ、少年の抵抗はあっけなく終わることになる。

 「見て! 今から始まるよ!」

 少女の一言を皮切りに陽気で楽しそうな音楽が流れ始めた。少女がくるりと舞いスカートを花弁のようにひらりと膨らませると、タイミングよくキャラクター達が陽気なステップを踏みながら、通路を手際よく支配する。通行人達は待ってましたといわんばかりの笑顔で今から始まるパレードに足を止めた。キャラクターとともに踊る少女、小さい体で華麗に舞う様はお世辞にも上手ともいえない出来で、パレードを見る観衆達は微笑ましそうにクスクス笑っていた……ただ、一人を除いては。

 少年は気づいたら少女に見惚れていた。楽しそうに躍る彼女は妖精のようで、堂々とセンターを陣取っている様は勇敢な小さな王女様といった感じだった。見惚れているとパレードが刻々と終演に近づき始めた。クライマックスに向けてキャラクターとダンサーが集結し始めると、少女は部外者にも関わらず輪の中へ乱入する。

 普通なら退場させられるところだが、ノリのいい看板キャラクター、デニーロが彼女を抱きかかえ、一番目立つポジションへ少女とともに移動するとクラッカーが鳴り響きカラフルな紙吹雪が空を綺麗に着飾った。音楽が鳴りやむと観衆の拍手が辺りを包み、見事パレードが終演を迎えた。

 少年は呆気にとられながら小さく拍手していた。思い通りの未来になって満足そうな少女は歩み寄る。

 「へっへーすごいでしょ! 私、デニーロに抱っこされちゃったっ!」

 「ああ、すごいな」

 少年は再び素っ気ない顔に戻る。いつの間にか少年の不安はきれいさっぱり消えていた。陰りが消えたことを確認すると、少女は手を取って少年と歩き始めた。

 「私さ、将来役者になりたいんだ! 皆の前で歌って踊って感動させる演技をして、ちやほやされるんだ」

 「そうか。がんばれよ」

 少年の受け答えが気にくわなかったのか、ニコニコした顔がフグのように顔を膨らませて少年の方を睨んだ。すると、少年の方へ立ちはだかり両肩を強く掴んだ。

 「あのさ! 人が夢を語ってるんだよ! もうちょっと反応したらどう?」

 「言うだけはタダだし、本当に叶うかどうか分からないものに興味ないんだよ」

 少年の言葉を受けて、さらに怒りの表情を爆発させた。今にもビンタされそうな気迫に少年は目をつぶり硬直するが、それは杞憂に終わることになる。

 「それじゃあ、私が夢を叶えたら結婚……は早いか、君から告白してきてよ。そしたら、彼女になってあげる。それまでは私、誰とも付き合わないから!」

 少女の突飛な発言に少年は顎が外れるくらい口を大きく開いて、理解不能といった顔をしていた。それと同時に頭がおかしいやつに話しかけられてしまったと自分の警戒心の無さを悔いていた。

 ただ、よく見てみると少女の顔は少年の好みだった。少女にしてはあまりにも大人びた端正な顔立ち、肌は真珠のような白さと綺麗さを秘めていて、髪は絹のように艶があり、光を乱反射していた。それと少年が人一倍気に入ったのが、少し目つきが悪いのと、小さく綺麗な桜色の唇だった。例えるなら幼い人慣れした白い狼、少年の頭に浮かんだのはそんな例えだった。次第に少しずつ少女に興味を抱き始めた。だから、自然と口が動き始める。

 「名前は……何ていうの?」

 「私? 川口晴だよ、覚えておいてね。将来の彼氏クン?」

 小悪魔めいた表情でウインクする少女に思わず胸が高鳴る。頬の赤みを隠すために視線を逸らすが、少女は追撃を緩めない。少年に早く名前を言えとニヤニヤしながら無言の圧力をかけてくる。

 「お、俺は……高――」

 「晴! 探したのよ!」

 少年の言葉は悲鳴に近い叫びでかき消された。声の方を振り向くと、少女の母親らしき人物が必死の形相でこちらへ向かってくる。少女の前で膝から崩れ落ちると精一杯抱きしめた。母親はよほど心配だったのか、痛いくらいに抱きしめていた。その様子を見て少女はキャハハと高笑いしていた。その様子を見ていた少年はほっとした気持ちになった。親子の感動の再会を眺めていると、少年を呼ぶ女性の声が近づく。迎えがきてくれたと気付いた少年は声の聞こえた方へ走り出した。

 「もう! 痛いよ~ママ!」

 「あなたが勝手にいなくなるからでしょ!」

 「ごめんって! それよりもママ、私ね! 未来の彼氏見つけちゃった! 紹介するね……って、どこいった?」

 少女が振りむいた時には少年はいなくなっていた。母親は不思議そうな顔をしながらも少女の手を繋ぎ歩き始めた。すると、遅れて父親が汗まみれになりながら安堵の表情で少女を見つめた。三人が再び笑顔に戻ると、空いてる手を繋いで帰路へ着くために歩を進めた。

 少女の心はこのアミューズメントパークへいると時よりも心が躍っていた。勢いとはいえ、名前も知らない少年に告白してしまったことに、羞恥心と後悔がこみ上げてきた。だが、それと同時に大きな期待に胸を膨らませた。大人になって名前も知らない好みの少年がもしかしたらもっとイケメンになって、自分を見つけて恋仲になってくれるかもしれない。

 

 そんなロマンティックな妄想を膨らませながら少女は笑顔で帰った。

 

 

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