第4話 遺物の文字
もうちょっとだけ……、という
「朝からなかなかの成果じゃないか。やっぱり連れてきて正解だったな」
「別に俺じゃなくてもあそこを掘っていれば、誰かしらが発見してると思うけど」
「まあ、そういわれちゃ詮無いことだが。でも、何か出てくると楽しいだろ?」
「そりゃ、出てくればね」
でもそれ以上に手も腰も痛い。これを午後もやるとなると正直、部活動の弓道の練習よりもよっぽどきつい。
「そういえばこの遺跡については、まだ何も教えてなかったな」と、食パンをかじりながら栄次郎は言った。
「別に知らなくても問題ないけど」
「いや、知ってた方が発掘も楽しめるだろう。それに背景が分かっていたほうが発掘で出土品を見つける際にもちょっとは役立つ」
時代背景や当時の様子についての推察があると発掘する際に重点的に調べるべき場所を決めたり、出土品についての考察をしたりしやすいのは確かである。
栄次郎は優作にも食パンを渡してきた。そして食べるように促す。「昼を食べながら少し、この遺跡について話しておこうか」
遥か
「この記録というのが実に興味深いんだ。使われているのはどうも象形文字に近く、それでいて文字というよりも記号のようでもある」
栄次郎が興奮気味のそのことについて話していたが、そこについては専門的なこともちらほら混じり、優作にはよく理解できなかった。かろうじてわかったのは記号に意味を持たせて組み合わせることで、特定の情報を表していたのではないかという仮説を栄次郎が立てているということだった。
文字についての話が一段落したところで、再び月を崇める国についての推察に戻った。とはいえまだ本格的な発掘はこれからのため、こんな感じなのではという想像に次ぐ推察程度の話だった。隠れるように暮らしていたこの国もついには他国の干渉を受けるようになって、争いの中で滅びていったようだと栄次郎は締めくくった。
その話の後、発掘中に優作は大きな石のかけらを発見した。ただの石とは思えず表面を観察してみると何かが人為的に刻まれていることに気付く。それこそまさに栄次郎が話していた象形文字に違いなかった。確かに文字というよりは記号なのかという印象を受ける。丸と折れた傍線が二つ……? だいぶ劣化しているようでよくわからないが、そのようなものが刻まれていた。
優作が、文字らしきものが刻まれた石を見つけたことを伝えると栄次郎が飛んできた。栄次郎はこの文字のようなものにかなりご執心のようである。それから文字に首ったけになってしまった栄次郎を残して優作は別の現場に移動した。
すでに発掘が進んでいる所では、直径数十センチから一メートルくらいの穴であるピットが集まっているような場所もあり、建物の柱穴なのではと期待感をそそられるようなところもちらほら見受けられる。どこの手伝いに向かおうかと優作があたりを見回していると、発掘現場の一角でちょっとした声が上がる。気になって優作が見に行ってみると、准教授の浜野が興奮気味に何かを指さしていた。
「何かすごいものでも見つかったんですか?」
すると浜野は竹串で座標を保存してあるものの中から一つを取り上げて、優作に見せる。
「これを見てください。なかなか珍しいんですよ」
「これは
石鏃に比べて気持ち重さを感じる。それに何となく表面の質感に違いがあるようにも感じた。
「さすが教授の息子さんだね。そう、これは石鏃ではなく
「鉄鏃、ですか?」
「そうそう」浜野は大げさに頷き、鉄鏃について話し始める。「弥生時代以降になると鉄器が使われるようになるんだけど、この鉄鏃もその一つでね。石鏃は主に狩猟に使うために生み出されたんだけど、この鉄鏃に関してはその目的の主として対人戦闘を想定していたんだと考えられているんだ」
「ということは、ここの集落も戦争を想定していたということですか?」
「さて、あるいは他国に攻められた時のものなのかもね」浜野が楽しそうにそう言った。
栄次郎の話ではここにあったとされる国は隣国に滅ばされたという仮説が立てられている。その根拠になり得る可能性のある発見だったため、浜野は興奮していたのだ。
優作は浜野の話が終わると、午前中にガリかけをしていた場所に戻り、ひたすら同じようにガリかけを進めていった。そうしているうちに日が暮れ始め、遺跡発掘一日目が終了した。依夜の様子を見てみると、ようやく何か出てきたと思ったらただの
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