Day2 透明
「赤銅色の髪、琥珀色の瞳、健康的な小麦色の肌、紺色のシャツに黒いスラックス。以上、ホテルトコヨの宿泊客の特徴。ニジイロカサモドキに捕食されて行方不明。情報求む」
こんな文章が入ったポスターが町中に貼られて、さらに二日が経過した。
今日、ホテルトコヨの裏口に訪れたのは、飛行漁船の漁師だった。彼は、天空や雲の中に住む飛行魚介類を獲ることを専門にしている。
「鰯雲の中でニジイロカサモドキを見つけたよ」
漁師がどんっと威勢よく置いたコンテナの中には、でろんとした大きなクラゲが詰め込まれていた。
その色はなんとも珍妙。紺色、琥珀色、黒、赤銅色、小麦色がまぜこぜのマーブル模様になって、クラゲの表面を彩っている。
ホテルトコヨの料理長であるミヤマは、早速コンテナを厨房に運び込んだ。ギラリと光る包丁で慎重にニジイロカサモドキを捌いていく。
忽ち触手を取り去り、傘の部分をすいっと切り開いた。
すると、死んでいるはずのニジイロカサモドキがぷるんっと突然大きく震えた。何かがクラゲの中から這い出してくる気配がする。だが、その「何か」が何なのかはよく分からない。
「ああーよく寝たぁ! あれぇ、ここはどこですか?」
声が響く。
ミヤマはパチパチ瞬きをした。死んだクラゲが喋るはずがない。かと言って、他に声の主は見当たらない。
これは大変な怪奇現象に違いない!
そう思ったミヤマは大慌てでフロントに飛んで行った。
「失礼ですが……旅人様ですか?」
厨房に呼ばれたイガタは虚空に向かって尋ねる。
「はい、支配人さん? 私は一体どうなってしまったんでしょうか?」
声が応える。姿は見えずとも、明らかにおろおろとした様子が伝わってくる。
「ふむ……」
イガタは、俎板の上に横たわるカラフルなクラゲを眺めながら考え込んだ。
「どうやらニジイロカサモドキはお客様の色を食べてしまったようですね」
「色?!」
「つまり、今のお客様は全ての色を失って透明人間となっております」
「そんな……」
旅人は絶句した。口をへの字に曲げ、頬がぴくぴくと痙攣する。しかし、透明人間故にその悲しみと絶望の表情は誰にも見えはしない。
「透明人間だなんて……不便すぎる……一体これからどうすれば……」
両目があるべき場所から透明な涙がほろほろと溢れ落ちていった。
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