第四章:英雄たちの日常編
第36話 デートウィークが始まります
俺たちは鏡華大心国への道すがらに、小さな街へ寄った。
いったんちゃんと休憩を取ろうということになり、一週間ほど滞在する予定だ。
「というわけで! 今週はデートウィークにしたいと思います!」
宿の一番大きな部屋を借り、そのベッドの上でミアはそう宣言をした。
その言葉に俺は首を傾げて尋ねた。
「デートウィーク? なんだそれは」
その問いにミアは人差し指を得意げに立てながら説明する。
「それはですね……今週は私たち五人が、一人ひとりアリゼさんとデートをしていくのです!」
「え、一人ひとりとデートしていくのか……? それってかなり大変なんじゃ?」
しかし俺の言葉は無視され、少女たち五人は盛り上がっていく。
「流石はミアね。いい提案をするわ」
「そうですね、ルルネに全面的に同意します」
「いいじゃん、デート! 私もしたい!」
「デート。……楽しみ」
それぞれが楽しそうにそう言っているのを見て、流石にやめますなんて言えなかった。
おじさんが少女たちの夢を壊すわけにもいかないしなぁ……。
ミアはベッドの上に立ちながら、さらにこう言葉を続けて言った。
「さて――後は順番決めですが……」
その言葉に空気は一変。
バチバチとした緊迫感のある空気に変わった。
「あなたたちには絶対に負けないわ。勝たせてもらうわね」
「いえ、勝つのは私です。ルルネさんには――いえ、皆さんにも負けません」
ルルネの勝気なセリフにアーシャも強気で返す。
それを聞いていたアカネは立ち上がり、ブンブンと腕を振りながら言った。
「戦闘なら負けないよ。どこからでもかかってきな」
そんなアカネに若干の呆れ顔を含ませながらニーナが言う。
「……アカネは脳筋。戦闘なわけない」
ニーナの言葉に頷いて、ミアは高らかとこう宣言した。
「勝負はいたって簡単! じゃんけんです! これなら不平等は起こらないでしょう?」
途端にみんな、それぞれでじゃんけんのトレーニングを始めた。
……じゃんけんのトレーニングってなんだよ。
ただの運ゲーにトレーニングとかないのだが、それぞれが真剣な表情でやっている。
しかしおじさん、少しばかり疎外感を感じます。
「さて、そろそろ始めましょうか」
ミアの言葉に余計空気に緊迫感が走る。
ピリピリとしながら、みんなはじゃんけんの構えを取った。
「最初は、ぐー!」
高まっていく緊張感にどうしても疎外感が拭いきれない。
……そこまで順番大事か?
ちゃんとみんなとデートするって。
「じゃんけん――」
そして高まりきった緊張感の中、五人揃って勢いよく手を出した。
「ぽんっ!」
……あいこだ。
「……あいこですね」
「そうだな……。残念だ、ここで勝ち逃げしておきたかったが」
アーシャの言葉にアカネがぽつりと返す。
どんだけ順番に命かけてるんだよ……。
おじさん、ちょっとついていけないです。
「じゃあ、いきますよ。――あいこで」
再びじゃんけんの構えをし、緊張感が高まっていく。
なんかこっちまでドキドキしてきたけど、絶対に錯覚だよなぁ。
「しょ!」
お、今回は勝負が決まったな。
「……ふっ、勝ちましたね。激しい戦いでした」
ドヤ顔で他の四人を見ながらアーシャは言った。
他の四人は本気で悔しそうな顔をしている。
「しかし! まだ二番手が残ってます! またまたいきますよ!」
ミアは気を取り直してそう言うと、再びじゃんけんを始めるのだった。
それから十数回の勝負ののち、順番が完全に決まった。
一番手がアーシャ。
二番手がアカネ。
三番手がニーナ。
四番手がミア。
そして最後がルルネだった。
それぞれ勝ち誇った表情や悔しそうな表情を滲ませている。
まるで激しい戦いがあった後のようだった。
ようやく勝負が終わり、俺が会話に混じる余地が生まれたので、アーシャに尋ねてみた。
「それで、アーシャはどこに行きたいんだ?」
俺の言葉にハッとアーシャはやっちまったみたいな表情をする。
「そうでした。勝負に夢中でどこに行くかを考えていませんでした」
「……おいおい、そっちのほうが大事だろ、多分」
それからアーシャは、というか他の四人も、どんなデートをしたいか真剣に考え始める。
暫くしてアーシャはぽつりとこう言った。
「私は……ショッピングに行きたいです」
「そんなんでいいのか?」
「そんなのがいいのです。アリゼさんとショッピングなんて久しぶりですし」
というわけでとりあえずアーシャと行く場所が決まった。
「というか、もう夜も更けてきたしそろそろ寝ようぜ。他の四人はまだ考える時間があるんだしさ」
俺がそう言うと代表してルルネが言う。
「そうですね。そろそろ寝ましょうか。……ふっ、まだ私たちには考える時間があるので」
そして何故かアーシャに勝ち誇ったような表情を向ける。
それに対してアーシャは悔しそうな表情をした。
……うん、時間が経って彼女たちの考えていることが、分からなくなってしまったかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は自分の部屋に戻って一人眠りにつくのだった。
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