第35話 新たなる旅立ちをする者たち

 ニーサリス共和国を出て、五人の英雄たちとのんびり歩きながらさらに次の国を目指していた。

 ミアが醤油という調味料を切らしてしまったらしく、鏡華大心国に向かうことになったのだ。


 俺と五人の英雄、そしてカミアと大所帯で歩いているものだから、普通の旅人が通りかかったら何事かとビックリするに違いない。


「アリゼさん! 見てください、私めちゃくちゃ強くなったんですよ!」


 そう言って剣を取り出して振るおうとするアカネにルルネが冷たく言い放つ。


「アカネ、あなたが剣を振るったら大変なことになるでしょう? 場を弁えることを覚えたらどう?」

「……むぅ。良いじゃないか、ちょっとくらい。ルルネはずっとアリゼさんと一緒にいたんだしさ」


 そのアカネの言葉にルルネは気まずそうに視線を逸らした。

 そんな二人のやり取りに関係なく、ニーナは自由気ままに俺の背中に飛びついた。


「おんぶして、疲れた」

「……ニーナは大人になったんだろう? 自分で歩くくらいしたらいいんじゃないか?」

「それだったら大人になんかならなくていい。そもそも私はインドア系」


 ニーナからは絶対に降りないぞという意志を感じたので、俺は仕方なく彼女をおぶる。

 そんな彼女を他の四人は羨ましそうに見ていたが、ニーナは小柄だから許されるんだからな?


「しかし我の背中に乗らなくていいのか?」


 カミアはそう言って背中に乗るよう促してくるが、俺は首を振って答える。


「いや、当分は遠慮しておくよ」

「……そうか。それなら仕方がない」


 どこか悲しそうに言うカミア。

 でも三半規管をやられるからやっぱり当分はいいかなぁ。


「てか天空城も置いてきたけどいいのか?」


 現在、天空城は氷結山脈のてっぺんに置き去りになっている。

 ちゃんと地面に下ろしてきたから、墜落して被害がでるってことはないだろうが。


「まあもう当分使い物になりませんからね」


 アーシャがそう言い、俺は首を傾げる。


「そうなのか? それはどうして?」

「ええとですね、天空城の恩恵は神様からの贈り物で、魔王を倒すためのものです。だから魔族がいない間は悪さが出来ないように使えないようになっているんですよ」


 なるほど、そりゃそうか。

 神からの贈り物だと人間の力バランスを壊しかねないしな。

 あの時の魔力の向上量を考えると、特にな。


 しかしこうして五人で旅をするのも凄く久しぶりだなぁ……。

 もう十年ぶりになるのか。


 そんな感傷に浸りつつ俺たちはのんびりと歩き、鏡華大心国に向かうのだった。



   ***



 とある村で、一人の少女が村人たちに見送られようとしていた。


「ルイン、アリゼさんに出会ったらまた感謝を伝えておいてくれ」

「分かったよ、村長。でもまずは強くなった私を見て貰わなきゃね!」


 少女はそう力こぶを作ると、村に背を向けた。

 背中からは村人たちの啜り泣きが聞こえてくる。


 これが旅立つ側の気持ちなのかと、前に出ていった男を思い出す。

 彼もこんな気持ちで出ていったのだろうと。


「それじゃあ――行ってきます」


 そうして一人の少女が、魔の森から出てくる。

 その先の要塞都市アルカナで令嬢と出会うのは間もなくのことだろう。

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