第33話 諦めなければ永遠に戦えるはず
カミアに乗って俺は『氷結山脈』の頂上にある廃寺院まで来ていた。
「うぅ……流石に寒いな」
その名の通り、山脈の頂上ではめちゃくちゃ雪が降っていて寒い。
凍えそうになりながらも、俺はその廃寺院に足を踏み入れた。
地面は凍っていて、パキパキと足音が鳴る。
そのまま奥に行くと、縛られたベアを見つけた。
「……っ! ベア! 大丈夫か!」
「アリゼか……。やっぱり来てしまったのか」
諦めたような口調で言うベアに俺は近づこうとして。
奥から一人のメイドが姿を現した。
「あなたがアリゼさんですか……。なるほど、それなりに強そうですね」
そのメイドの立ち振る舞いからすでに強者であることが分かった。
生半可な覚悟では勝てない相手だろう。
「……アンタがベアを攫ったのか」
「そうですね。SSランクなんて言われているものだから、てっきりもっと強いのだと思っていましたが、意外とあっけなかったですね」
ベアに対してそこまで言える人間はなかなかいないだろう。
俺は警戒レベルを最大限まで引き上げながら会話を続ける。
「ベアを攫った理由は何だ?」
「そんなの決まってますよ。魔王様のため、あなたを潰そうと思ったからです」
「……そもそも魔王は死んだはずだろ? それに俺はただのしがないおっさんだ」
俺が言うと彼女は嘲笑するようにふっと笑った。
そして淡々とした声で言う。
「あなた、自分の立場を理解していないようですね。それに——魔王様はまだ死んでませんよ」
…………なっ!?
魔王はアーシャたちが倒したと聞いていたのに。
倒し損なったと言うのだろうか?
そんな俺にメイドは補足を付け加えた。
「と言っても、死んだのは事実ですけどね。適切な表現は、蘇る、ですか」
……どうやらこいつらは魔王を再び蘇らせようとしているらしい。
「……なるほどな。ともかくここでお前を倒さないといけないらしいな」
「そういうことです。まあ、倒されるつもりは毛頭ありませんが」
そう言いながら彼女は腰の細剣を引き抜く。
俺もそれに合わせて帯刀していた剣を構えた。
「すぐに死んだりしないでくださいね。楽しみが減ってしまうので——」
そう言った瞬間、彼女の姿がかき消えた。
……どこに?
そう疑問に思う前に、俺は横から衝撃を食らい吹き飛ばされる。
「——ぐはっ!?」
もの凄く重たい攻撃だった。
ゲホゲホと口から血が溢れてくる。
「この一撃を耐えますか。……ベアトリクスさんよりかは丈夫なんですね」
「相手は老体だぞ。そりゃそうだろう」
必死に軽口を叩きながら、俺はどうにか起き上がる。
こりゃあ、『限界突破』を使うしかないか。
俺の魔力量は少ない。
——が、魔力効率だけは自信がある。
そのおかげで最大限まで効率を高め、魔力を注ぎ込めば、ベアですらも余裕で倒せるほどだ。
しかしそうしてしまうと、俺の体に過剰な負荷がかかってしまうのだ。
もって三分、それを超えると俺の体は魔力に耐えられなくなり内側から崩れていく。
だがそんなことを言っている暇はなさそうだ。
すぐさま『限界突破』を使い、全ての能力を底上げした。
濃縮された魔力がバチバチと電撃を走らせ、俺の周囲にまとわりつく。
「ふむ……なかなかの魔力量ですね。だが、私にはまだ届かない」
彼女はスッと剣を正中線に構えて言った。
「エンチャント——獄炎」
瞬間、その細剣に魔力が帯び、一拍置いてごおっと燃え始めた。
さらにメイドは言葉を続ける。
「筋力増強、思考速度上昇、視野拡大、速度上昇——」
ドンドンと自身を強化していくメイド。
俺は思わずその魔力量の異常さに慄き呟いていた。
「……なんだよ、その魔力量は」
「これが魔王様のお力なのです。彼が私に下さった力なのです」
そして全ての強化を終えたメイドは、圧倒的な魔力のせいで青く輝く瞳を俺に向けた。
「さあ——命をかけた戦いをしましょう」
瞬間、ドゴンッと地面を捲らせながら俺に向かってくるメイド。
直線状の攻撃だが、その圧倒的な速さと力でねじ伏せてこようとする。
俺はそれを何とか剣で防ぐ。
剣と剣がぶつかり合い、その衝撃波で寺院の壁が吹き飛ばされていく。
魔力同士が溶け合って青白い火花が散った。
「ぐっ……!」
俺はその圧倒的なまでの力に圧され、踏ん張る右足を地面にのめり込ませた。
……ここまでやっても届かないのか。
自分の無力さ、そして彼女の強さに歯を食いしばる。
メイドが剣に込めた力を抜いたと思うと、くるりと一回転し回し蹴りをする。
俺は耐えることで精一杯だったせいで、その攻撃を諸に食う。
——ドゴンッ!
地面を何度もバウンドしながら俺は吹き飛ばされた。
「……ふむ、まだ耐えますか」
血を吐きながらも立ち上がる俺に、興味深そうにメイドは言った。
そして剣を高々と掲げ、彼女は獰猛に笑った。
「それではラストといきましょうか。これで終わりです。エンチャント——火蛇」
その剣を纏っていた炎が天高くまで伸び、天井をも貫いていく。
そしてその剣を振り下ろされ、俺の体は燃え盛る。
「がぁああああああああああ!」
熱い、熱い熱い熱い!
「その炎は敵対者の命が尽きるまで、消えない炎です。——さようなら、英雄の師匠」
俺は薄れゆく意識の中で過去を思い出していた。
少年だった頃。
奴隷たちを拾った頃。
田舎にいた頃。
どれも輝かしくて楽しかった思い出だ。
……こんなことを思い出すなんて、俺ももう終わりなんだな。
そう思い諦めた次の瞬間、その寺院に影が降りた。
慌てたようにメイドは空を見上げて、叫んだ。
「くそっ! 天空城がやってきましたね!」
そう、『氷結山脈』の遥か上空に巨大な城が浮かんでいた。
それを見た瞬間、俺の体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。
——今なら何でもできる気がする。
俺は体を燃え盛らせながら立ち上がり、剣をメイドに向けた。
「第二戦、始めようか」
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