第29話 三度目の再会は突然に

「おー、アリゼ様はSランクになられたのですね! おめでたいですわ!」


 王城に向かう馬車の中、クリスティーナ——クリスさんは俺たちの話を聞いてそう喜んだ。

 それに対して俺は、嬉し恥ずかしで頭を掻くと言った。


「まあ……ベアに勝てたのはたまたまだし、ほんと運が良かっただけだよ」

「あら、ベア……? もしかしてベアトリクス様とお知り合いなのですか?」


 クリスさんにそう尋ねられ、俺は頷くと答える。


「まあ、彼女は俺の育て親みたいな感じだな。ずっと一緒に旅をしてきたんだ」

「それが今では英雄様たちの師匠様なのですね! 凄いですわ!」


 確かに運命何が巡ってくるのか分からんもんだ。

 ただの田舎少年が、いつの間にかSランク冒険者だもんな。


 そんなふうに感慨に耽っていると、ようやく王城が見えてきた。


「これがニーサリス共和国の王城ですわ! オシャレでしょう?」


 クリスさんは自慢げにそう言った。

 アルカイア帝国の王城に比べると一回り小さかったが、その分丁寧に装飾されてるように思えた。

 色々なモチーフの紋章や絵画などが壁一杯に彫られている。


「本当ですね! やっぱりここの王城は何度見てもオシャレです!」

「こうしてミア様やルルネ様にお越しいただくのも四年ぶりとかになるのでしょうか?」


 ミアは王城を見て元気よく褒める。

 それを聞いたクリスさんは感慨深そうにそう言った。


「そうですね。私たちが訪れたのがちょうど四年前ですね」


 ルルネの言葉に俺はほほぉっと感心して声を漏らす。


「やっぱりみんなは魔王を倒すべく世界中を旅してきてたんだなぁ」

「まあ……そうなりますね。自慢げに言うことではありませんが」

「いやいや、自慢してもいいことだと思うぞ、これは。みんな頑張ったんだから」


 そう言うと照れたようにミアとルルネは視線を逸らす。

 もっと胸を張って自慢してもいいと俺は思うが、彼女たちは謙遜するらしい。

 やっぱり出来た子たちだ。


 馬車が王城の門を潜って止まり、扉がやってきたメイドさんに開けられる。


「お待ちしておりました、アリゼ様、ルルネ様、ミア様」


 そう言って手を差し出してくれるメイドさんにお礼を言いながら降りようとして——。

 その顔がふとどこかで見覚えのある顔だと思い出す。


「もしかして……アーシャか? どうしてメイドなんかやってるんだ?」


 俺の言葉にぱあっと表情が明るくなって、彼女——アーシャはいたずらっ子のような笑みを浮かべると言った。


「お久しぶりです、アリゼさん。ふふっ、いたずら成功ですね」


 こうして俺はなぜかメイド姿のアーシャと突然の再会を果たすのだった。



   ***



 俺たちと、普段着に着替えたアーシャは客間に通され、そこで雑談をしていた。

 ルルネはアーシャにふと尋ねる。


「他の二人はどうしたのよ? なんでアーシャだけここにいるの?」


 そう尋ねられ、アーシャは一から説明を始める。


 ミアに出し抜かれ三人はここ北国に取り残されたこと。

 それに気がつき、すぐに追おうという話になったこと。

 じゃんけんで負け、天空城にアーシャ一人が取り残されたこと。

 そんなときにクリスさんの誕生会があり、そこに呼ばれたこと。


 ……なるほどな、天空城に取り残されたことがかえって俺たちとの再会に繋がったと。


「ってあれ? 天空城は今、空っぽってことだよな?」


 その俺の疑問にアーシャが答えてくれる。


「はい。まあそもそも天空城は私たちがいなくなっても一ヶ月は浮き続けますからね。大丈夫ですよ」

「へー、そうなのか。凄いなそれは」


 どういう仕組みなんだろうか?

 ちょっとおじさん、気になります。


「しかし、アーシャも立派に育ったな。随分と美しくなったものだ」

「……ふふっ、私ももう大人ですからね。こんなもんですよ」


 ドヤ顔で胸を張って言う彼女はとても愛らしい。

 昔から大人ということに拘っていた彼女だからな、一際言われて嬉しかったのだろう。


「な、何ですか、その微笑ましいものを見る目は。私はもう大人なんです、立派なんです!」


 俺の視線に気がつき、狼狽えたように言うアーシャ。

 そんな反応をするのは大人になった今でも変わらないらしい。


「ともかく。誕生会って何をやるんだろうな?」


 俺が首を傾げると、アーシャがそれに答えてくれる。


「どうやら普通のパーティーらしいですけどね。ただ、一般人でも出入りが可能というのが、特徴らしいです」


 なるほど、流石は平和なニーサリス共和国だ。

 そこら辺も緩い感じらしい。


「へえ、いいね。それは楽しそうだ」

「ふふっ、そうですね。せっかく招待いただいたのですから、存分に楽しみましょう」


 そして俺たちはしばらく雑談をし、王城のメイドさんが呼びに来るまで昔に浸った。

 メイドさんに連れられて広間に行った頃には、すでに日も傾いているのだった。

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