第22話 夜歩く
からくりは、そんな難しいものではなかった。
要するに、学内SNSが夜間の学校利用の許可書と連動していて、使用の申請をすれば承認され次第SNSのメールにQRコードが送られてくる……という訳だ。
理屈が分かれば、そんなに難しい話でも何でもない。
寧ろ、今時の技術を使っていると言って良いだろう。
「……何というか、金を掛けているのは分かるけれど」
「お金を掛けないと困るでしょう? 何せ、ここに通っている生徒の大半は大富豪の子供。一人一人は小さいかもしれないけれど、仮に学校の乗っ取りなんて企てられたら……どうなるかな? きっと小さな国の一つぐらいなら、買えると思うよ」
要するに、それぐらいの大金は集まるだろう——ということか。
簡単に言っているけれど、それってとんでもないことだよな。一つの国を買えてしまうぐらいだなんて、それぐらいのお金を手に入れてしまったら、きっと人は——まともな感性は働かないはずだ。
まあ、尤もここを乗っ取るなんて大それたことをしている時点で、箍は外れているのかもしれないけれど。
「……実際、この学校のセキュリティってどんなものなのかね? 流石に何処にでもあるようなセキュリティじゃ、難しい気もするけれど……」
「スタンドアローンなサーバに、何重にも独自に開発したファイアウォールがあるぐらいだし、セキュリティは問題ないんじゃない?」
詳しいな。
「うちの学校の情報って授業で習うよ。情報セキュリティの一例として、堅牢なセキュリティを誇る我が校の説明が入るから」
「自分の学校好きすぎかよ……。まあ、堅牢なセキュリティだというのならば、それを誇りたいと思う気持ちも分からなくはないけれど」
余計なことをべらべらと喋っていなければ良いけれどね。
例えば、セキュリティホールとか。
「そんなことは絶対に有り得ないし、言うことはないよ。この学校は、AIがセキュリティを管理しているから」
「というか、何でそんなことを知っているんだ? 一介の学生……のはずだよな?」
今は学校の構内に入っているから、聞いている人間は居ないはず——だ。隠れている人間が居たらまた別の話なのだろうけれども、流石にそれが見つからない限りは、ぼくも分からない。流石に特殊能力を持ち合わせている訳でもないし。
「あれ、言わなかったっけ? うち、この学校のセキュリティシステムを開発しているんだよ。パパが開発に携わって、ママが会社の経営をしている、って訳」
そうだったのか。
何だか、そう言われてもあんまり頭が追いつかないのだけれど……。
「別にセキュリティを開発しているからって、何か特別なことを知っている訳ではないけれどね。さっきから話していることの八割方は、情報の授業で習うし、生徒なら全員が知っていることだから。流石に二割ぐらいはわたしのような親族しか知らない情報もあるけれども」
あるんじゃねえか。
流石に全部が知っている情報だとしたら、それはそれでびっくりだけれどさ。
「じゃあ、この学校のセキュリティは万全ってことなんだな?」
「そうだと思うけれどねえ。少なくとも、この学校に取り入れられているのは最新の科学技術だから。いや、最新ではなくて、最先端でもなくて、その先を進んでいるというか……」
「うん? 最先端でも最新でもないってどういうことだよ。それ以上に、何かあるのか?」
「言ったでしょう。この学校に通う生徒の親は大富豪……、それは様々な科学技術を開発している会社の社長でもあり、様々な場所に権力を持っている人間だったりする訳。そういった存在が、ここを試験場とするのよ」
「試験場?」
「或いは実験場とでも言えば良いかもしれない。未だ世には出ていない最先端の最先端とも言える技術を、ここで試す。そうしてそれが上手くいけば、廉価出来る技術が出てくれば、満を持して世に発表する。……それが、有栖川学園なの。つまり、有栖川学園は世界の科学技術から何歩か先に進んでいる。だから、そんな簡単にセキュリティを突破することなんて、出来ないという訳よ」
「……良く、それを政府が許可しているよな」
和紗の言っていることが嘘な可能性もあるのだろうけれど、しかし額面通りに受け取ると、この学園は治外法権が成立しているのか? と考えてしまう。
「政府は許可してくれているんだと思うよ。或いは、言っていないだけかもしれないけれどね。きっと調べれば、黒い金の動きとかわんさか出てくるんじゃない? 学生であるわたし達は知る手段もないけれどね」
そう締めくくると、ぼく達は合宿所へと辿り着いていた。
色々と興味深い話をしたような気がする。
しかし、今日合宿所にやって来たのは、他に理由がある——鬼火を見つけるためだ。
先ずはそのために英気を養わねばなるまい。腹が減っては戦はできぬ、とは良く言ったものだ——ぼくはそう思って、合宿所の扉を開けた。
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