正悪の生殺与奪

森本 晃次

第1話 留美子との出会い

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。途中の小説の説明部分で、どこかで聞いたことのあるようなお話だとお思いになるかも知れませんが、「皆さん、よくミステリーをお読みですね」ということで、了承ください。あしからずです。


「世の中には、善悪という言葉はあるが、正悪という言葉はあまり使わない。なぜなのだろうか?」

 公務員なる職業と聞くと、

「定時から定時までの楽なお仕事」

 というイメージが強いかも知れない。

 特に年を重ねるにしたがって、そういうイメージを持っている人が多いカモ知れないが、それもピンからキリで、昔から言われる、

「お役所仕事」

 などと言われるところは本当に楽なのかも知れないが、国家公務員であったり、警察などは、そんなことを言っていられないほど多忙だったりする。

 これは、どの商売においても言えることなのかも知れないが、一口に

「公務員」

 という言葉で一括りにされるというのは、どうにも腹の虫がおさまらないと思っている人も少なくないだろう。だが、やはり公務員というと、

「安定していて、楽な仕事」

 というイメージが強いのか、困ったものだ。

 公務員というだけで、いろいろな制限があるにも関わらず、そんな偏見の目で見られるというのは、本当に心外だと思っている人も結構いるに違いない。

 警察官などの中に、どれだけそう思っている人がいるのかまでは分からないが、世間とは隔絶された世界であることに間違いはなく、その分、偏見に見られるのも仕方のないことだろう。中には横柄な景観もいたりして、警察の品位にも関わることであり、しかも警察官の不祥事も後を絶たない。

 前の日に、どこかの署で、署長を始め、役員クラスが記者会見を開き、フラッシュが焚かれる中で礼儀正しい姿勢で、深々と頭を下げている姿をテレビで見たばかりなのに、まるで、

「デジャブを見ているのか?」

 と思うように、その日もまるで恒例になったかのように、フラッシュの中で頭を下げている警察官がいる。

「あの制服を見ると、頭を下げているイメージしか浮かんでこないよな」

 と、世間の若者などは、そう皮肉って揶揄しているが、まさにその通りである。

 警察官のトップが頭を下げている姿まで連鎖反応を起こしていると思うと、実際の現場の警官たちにとっては、何ともやり切れない気持ちにさせられるというものだ。

 しかし、実際にそんなトップの行動が非難されるような、嘆かわしい状態になっていようがどうしようが、犯罪というのは待ってくれるものではない。毎日どこかで事件が起こり、発生した事件への捜査に、現場の警官は真剣に向き合って、市民のために奮闘してくれているではないか。

 刑事ドラマなどでは、警察官が恰好よく事件を解決している姿が見られ、それこそ、一時間や二時間の枠で解決されている。

「時代劇みたいだ」

 時代劇などでは、放送開始の四十分すぎくらいになると、印籠を出すにいちゃんの後ろにいる白髪の老人や、おしらすで肩を出して、もろ肌を見せて、その桜吹雪で悪人をギャフンと言わせるという、いわゆる、

「痛快時代劇」

 と呼ばれるものがひと昔前であれば、ゴールデンタイムで放送されていたのだろうが、最近では見なくなってから久しい。

 さらに刑事ドラマでも、二時間サスペンスのような番組も実際には減ってきている。

 一時期は、曜日ごとに放送局を変えて、週に半分くらいは二時間サスペンスをやっていたのに、今ではレギュラーはほとんどなく、時々忘れた頃に新作を放送するくらいだ。

 再放送は、昼間の時間帯にしているが、どれほどの視聴率なのか分かったものでもない。下手をすると、

「同じサスペンスの話を、半年前にも見たような気がする」

 と思うほどの乱発ぶりに思えて、ここ十年くらいでテレビというものの価値自体が変わってきたのではないかと思うほどである。

 その最たる例がゴールデンタイムだと言ってもいいだろう。

 最近のテレビは、ゴールデンタイムで一番変わったといえば、ナイター中継がなくなったことくらいであろうか。昔から午後七時くらいから九時くらいまで野球中継が必ずと言っていいほどあった。それもまだ野球というものが、男性ファンや一部の女性ファンくらいしかいなかった時代からの賜物だった。

 そのせいもあってか、いつもテレビ中継されるのは、

「球界の盟主」

 などと言われてマスコミから贔屓されているあの球団で、ファンというと、

「野球を知らない、女子供か、田舎者」

 と言われていた、あの球団である。

 どうしても、九時までの放送と言っても、野球ファンがちょうどいいところで切られてはたまらないと延長をいうと、九時からのドラマを楽しみにしている女性ファンからは、

「野球のせいで、時間が繰り下がった」

 として、生活のリズムが狂うことにクレームを入れられたものだ。

 スポンサーとしては、中を取って、

「最大延長三十分」

 などという姑息な方法を用いていたが、それで試合終了まで放送するわけでもない。

 ただ、それもここ十何年かくらい前までで、それ以降、ほとんどゴールデンタイムで野球中継をすることはなくなった。その分、バラエティが増えたのだが、正直、視聴率という意味ではどうなのだろう?

 だが、なぜ野球中継がゴールデンタイムから消えたのか? その理由は、有料放送の普及にある。

 ケーブルテレビを始めとして、有料の衛星放送が、それぞれのジャンルで確立されて、それが主流になってきたのだ。

 有料だから、スポンサーはあっても、無料の民放とは違って、お金を出してくれる視聴者がスポンサーも兼ねていると言ってもいいだろう。だから、

「視聴者様は神様」

 という形での放送になる。

 そうなると、野球中継などでも、スポーツ専門チャンネルがいくつもできて、自分のひいきチームを徹底的に贔屓してくれる放送になっている。有料で見るのだから、好きなチームのチャンネルを選ぶのは当たり前だ。そして、触れ込みとしては、

「ホームゲームの全試合、試合開始前から、試合終了の後迄放送します」

 という宣伝である。

 試合開始前というと、普段は見ることのできない試合前の連中風景であり、試合後というと、ヒーローインタビューはもちろん、勝利の際の球場イベント迄、漏らさずに放送するのだ。ファンとして見れば至れり尽くせり、有料でも気兼ねなく見れるので、嬉しい限りである、

 野球以外の専門チャンネルも充実している。

 映画にドラマ、音楽から、娯楽まで、ずっとそんな放送をしてくれるので、安心だ。

 見逃しても、一週間に何度か再放送があったりするので、見逃す心配もあまりない。

 そんな有料放送が増えてきたことで、民放離れも進んでくる。コマーシャルばかりの民放を見る気にもなれないからだ。

 最近では、レコーダーも格安であるので、見忘れた番組は録画して、休みの日にでも見ればいい。二十年くらい前から増えだしてきた有料放送は、ある意味時代を先取りしたシステムに感じられた。

 いろいろなジャンルのファンを一度に満足させることができる画期的なアイデアであり、今までなかったのが不思議なくらいだ。

 もっとも、、製作した会社との放映権の問題など、諸問題が山積みだったというのは頷けるが、こうやって視聴者が一度に満足できる形で落とし込んだところはさすがだと言えるだろう。

 ただ、一つの懸念は、これだけテレビも便利になって要望も簡単に叶えられるようになると、次第にテレビに対して興味を失い、テレビ離れが起こってくるのではないかという考えもある。

 ネットの普及で活字離れが起こり、本が売れなくなったというような状況もあった。しかも、ネットというのは、どんどんいろいろな発信源が生まれて、進化しているように見えるが、果たしてそうなのだろうか? いいものが忘れ去られていき、どんどん便利で簡単ものだけが残っていくことに違和感はないのだろうか。

 ブログやインスタグラムのようなSNSと呼ばれるものの普及も、さまざまな社会問題を引き起こしているのも事実だ。しかし、今までにも新しいものが出てくれば、それに対しての問題がなかったわけではない。いかにそれを使いこなすかという自覚とモラルが、利用者に求められる時代なのだろう。

 そんな時代のことが書かれた特集をその日はたまたま事件もなく、久しぶりにゆっくりした中で、門倉刑事は刑事課の自分の机で読んでいた。

 その記事を書いた記者とは以前から知り合いだったので、その人の記事は雑誌が出ればチェックするようにしていた。その記者は女性で、彼女とはふとしたことで知り合い、今でも彼女とは友達として仲良くしていた。

「私、最近やっと自分の記事を雑誌に掲載できるようになったんですよ」

 と、その記事を書いている安斎留美子はそう言って喜んでいた。

 地元の短大を出て、二年前に就職した出版社は、主に地元のカルチャーを特集するような雑誌社で、その中でも彼女は過去の歴史をまとめたような記事を書きたいと、以前から話をしていた。

「よかったじゃないか。それも君がやりたいと言っていた過去の歴史をまとめたものなんだろう?」

「ええ、そうなんですよ」

 と彼女の声は弾んでいた。

 彼女のいう、

「歴史」

 というのは、学問上の歴史というわけではなく、何かをテーマにした出来事や社会性の歴史の話になるので、歴史というよりも、何かの、

「歩み」

 と言った方がいいだろう。

 今回の記事は、

「これまでの、テレビ、ネット事情」

 というテーマを与えられたようで、どこまでさかのぼるかにもよるのだが、留美子としては記事の分量から、バブル期を挟んでの過去約二十年を土台にまとめたようだ。

 ちょうど歴史的には、

「二十一世紀の歴史」

 がテーマになっているようで、門倉にとっても、十分に納得できる内容だった。

 彼女と知り合ったのは、まだセーラー服を着てポニーテールの可愛かった高校時代だった。

 それから短大を経て今までなので、五年くらいの付き合いであろうか。

 女の子の成長はめまぐるしいのので、短大に入学してすぐくらいの頃までは定期的に合っていたので、それほどどんどん大人っぽくなる彼女に対して、目のやり場に困るくらいだった。

 同じセーラー服を着ているのでも、一か月前に会った時に比べれば、明らかに綺麗になっている。

 最初は、

「可愛さ八、綺麗さ二くらいだったのに、一か月も経つと、可愛さ五、綺麗さ五になっている」

 というほどに思うほどだったが、目を逸らしたくなるのも無理はないカモ知れない。

「どうしたんですか? 門倉さん」

 と、急に何も言わずに留美子がそう言い出した。

 きっと、自分をまともに見ない門倉刑事に対して、抽象的な表現をしているのだろうが、それも分かっていて言っているので、どこか小悪魔的に見えるから、余計に視線を向けるのが恥ずかしかった。

「あっ、いや」

 とテレていると、

「門倉さん、テレると可愛くなるんですね」

 とさらに責めてくる。

 だが、門倉はそんな彼女を見ていて、

――よかった――

 と思うのだった。

 それにしても、こんなにあどけない表情を向けられると、さすがにドキッとするもので、さらに小悪魔的な態度は見ていると、無意識にしている感じがあった。それを感じると一抹の不安が襲ってくるような気持ちだったが、それも、彼女と出会った時のことを思い出すからだった。

 そもそも彼女と出会ったのは、ある日、門倉刑事が出かけたコンビニで中学生が万引きをしているのを見た時だ。自分がこの場で捕まえてもいいのだが、店の人が気付いているのであれば、店の人のやり方に従うのが筋だと思い、しばらく様子を見ていた。

 すると、その万引き犯は、自動ドアを出て店を出て少しすると、店のスタッフから声を掛けられた。

 門倉刑事は、それを遠めに見ていたのだが、

「お客さん、お支払いがまだのようですが?」

 という男性スタッフの表情を見て、門倉は、

――まずい――

 と、一瞬感じた。

 その男性スタッフの顔は、完全にしてやったりの表情で、上から目線のどや顔だったのだ。もし、この少年が精神的に病んだ状態での犯行だったのだとすれば、感情を逆なでするのも同じだったからだ。

――大丈夫なのか?

 と思って様子を見ていると、急にその男はおもむろにカバンの中に手を突っ込んでいた。

「やめろ」

 と言って、門倉刑事は陰から飛び出したが、その少年は、男を突き飛ばして、ちょうど何も知らずに店に入ろうとしている女の子の腕を引っ張り、

「近づくな」

 と言って、彼女の腰を羽交い絞めにしながら、首筋に取り出したナイフを向けた。

 その子はまだ高校生のようで、顔はみるみる恐怖に歪んでいくのが分かった。

 最初は何が起こったのか分からない様子で、その顔には恐怖はなかったが、さすがに首筋に向けられたナイフを見ると、さっと顔が青ざめていくのが分かった。

 その行動は電光石火だった。まるでコマ送りにしているかのように見える状況は、思い出すとスローモーションに感じられるくらいで、そんな状況というのは得てして、まったく無駄のない行動とは、まわりに時間を感じさせないもので、あっと思った時には、すでに遅かったのだ。

 無駄のない動きには隙もなく、それが相手を金縛りにかけるのかも知れない。

 犯人の目は完全に血走っている。下手に刺激をすれば、何をするか分からない。店員は完全に腰を抜かしてしまって、さっきの勢いはどこへやら、まったく情けない話だが、これも仕方もないことであろう。

 男は、彼女を吊れたまま、少しずつ後ろずさりを始めた。門倉刑事はジリジリと相手に近づいたが。それは相手が逃げるからで、決して自分から近づいたわけではない。

 こういう時に刺激は絶対にしてはいけないのだ。

 だからと言って、説得に応じるような目をしてはいない。

 まるで薬物乗用車ではないかと思えるほど、最初は目線が明後日の方向を向いていたが、次第に落ち着いてきたのか、門倉を凝視するようになった。それはまだマシな方で、このまま目線を合わせることがなければ、どうすることもできない時間が無駄に流れるだけだった。

 かといって、むやみに声を掛けるわけにはいかない。だが、時間が掛かりすぎると、人質になっている女の子の精神状態がいつまでもつかが問題だ。

 彼女に下手に負担をかけると、もしここで解放されてもトラウマとして精神的な疾患が残らないとも限らない。門倉刑事はそこまで考えていた。

 刑事課の門倉刑事には、凶悪事件を扱ってくることで、あらゆる立場から現状を見るという視野が確立していた。そのことで、刑事としての経験値も上がってきて、次第に、

「老練な刑事」

 という称号を貰えるようになってきた。

 それを嬉しいととるかは本人次第だが、別によくも悪くもあまり気にしていないようだった。

 犯人との睨み合いがどれほど続いたのか、相手が次第に疲れてきたようだ。

 何しろ相手はまだ中学生くらいの男の子、顔にはニキビが浮かんでいて、世間を知らないというイメージが表情から溢れている。

――我慢比べなら、こんなガキに負けるわけはない――

 と思っている門倉であったが、それだけにこの緊張した時間に相手がどこまで耐えられるか、それを心配する時間帯に入ってきたことを意識していた。

 もう少しすれば、こちらから責められる時間になってくるのだが、問題は彼女の方だった。

 さっきまでの青ざめた顔も落ち着いてきたようだが、その精神状態は、

――きっと、キレる寸前のところで足踏みをしているのかも知れない――

 と感じていた。

 足が震えているようで、ひょっとすると、このまま失禁でもするかも知れない。それだけはさせてはいけないと門倉は思った。

 こんな極限であれば、失禁は仕方がないが。それはまわりから見た場合の発想であって、本人からすれば、これほど恥ずかしいことはない。自分が蹂躙されて、それをどうすることもできず、苛立っている状態、そんな状態での失禁をまわりに見られるということは、どんな状況において失禁を見られることよりも、一番恥ずかしいことだと自分で思い込んでしまうのではないかと思ったからだ。

――時間との闘いだ――

 次第に焦ってくる自分の気持ちを何とか抑えながら、

「お前は刑事ではないか」

 と何とか言い聞かせ、いずれ訪れるであろう、相手の隙をつくというチャンスを逃さないように、それだけを考えていた。

「好機来たれり」

 と感じたその瞬間があった。

 相手は一瞬、その注意を他に向けた。何に気を取られたのか分からなかったが、そんなことを考えている余裕はない。

 急いで飛びつくと、相手は逃げようとした。本来なら絶対に離してはいけない人質に対して力が緩んだのだ。

――しめた――

 と思ってからは、電光石火の早業だった。

 それまでに培っていた刑事としての犯人との格闘あモノを言ったわけだが、相手が中学生ともなれば、実に脆いものだった。相手をひれ伏させるまでに、どれだけの時間が掛かったのか、あっという間に相手は自分に首根っこを確保されていた。

「大丈夫かい?」

 と声を掛けたが、女の子はへたりと座りこんでしまって立ち上がることができない。

 警察にはすでに通報されていたようで、すぐにパトカーがやってきた。

 パトカーから出てきた警官は、その状況を見て、すでに事態が収拾していることに安堵しただったが、そこでひれ伏している少年と、抑え込んでいる門倉刑事を見て、

「門倉さんじゃないですか?」

 馴染みの警官が声を掛けてきた。

「やあ、ちょうど通りかかってね」

 と、警官にそういうと、捕まった犯人は、門倉が警察関係の人間であるということに、初めて気づいたようだった。

 よろめいた女の子の同じように知らなかったのだろうが、すでに意気消沈していて、自分から動くこともできず、うな垂れた状態だった。

 さっそく犯人は警官が拘束し、そのまま交番までとりあえず連れていかれたようだが、門倉もその女の子も、そしてレジのバイトの子も、事情聴取を受けることになった。

 バイトの子は、その場から離れることができないということで、コンビニのバックヤードでの聴取になったが、門倉と女の子はそのまま交番まで赴くことになった。

 その子は、すぐには喋れるわけではなかったので、一部始終を見ていた門倉が事情聴取に応じた。

「なるほど、それは門倉さんも君も災難だったね」

 とねぎらいの言葉を警官が掛けたが、その頃には彼女の方も幾分か落ち着いてきているようで、

「はい、ありがとうございます」

 と返事ができるようになっていた。

 しかし、まだ指先の震えは止まっていないようで、その時の恐怖がよみがえってくるのか、たまに、自分の指先を見つめているようだった。

「それにしても、万引きくらいであんな行動に出るなんて、どうしてだったんだろう?」

 と門倉がいうと、

「あの少年、学校で結構いじめられっ子だったようで、あの万引きはそのストレスから、実は無意識だったようで、盗んだことを指摘されて初めて気づいたと言っているようですからね」

 と警官がいうと、

「なるほどね。あの時のアルバイト店員の態度が結構上から目線で、しかもどや顔をしていたようだったので、ちょっと怖いと思ったんだけど、僕が飛び出すのがちょっと遅かったようだね。まさか、近くを歩いていた女の子にとびかかるなんて、思ってもみなかったよ」

 と言って、門倉刑事は溜息をついた。

「それにしても、彼には彼なりの理由があるのかも知れないけど、まったく関係のない人に襲い掛かったということで言えば、まったく同情の余地はないですよ」

 と警官にいわれて、

「まったくその通りだ。だけど、彼も相当追い詰められた気持ちになっていたんだろうね。中学生くらいだったら、しょうがないのかも知れないけど、どうしてあんな風になってしまうのか、溜息しか出ないよな」

 と、本当に溜息しか出ない門倉刑事だった。

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