第8話 恵子でも、三つの魔法の同時発動は出来ない
――天原恵子
「ウゥゥゥゥ!」
私は脇腹の痛みに耐えながら立ち上がる。
あまりの痛みに自然と低いうなり声があがる。
なんなのこれ……今の攻防、私はカエングルマを使うようミ・ミカに動きを誘導されていた。
こんなに簡単に返し技を食らうようではもう突撃技は使えない。
「………」
違う、違う、違うッ!
例えババを引く可能性があっても、突撃技を使うという選択肢を捨てたらダメだ。
カウンターを怖がって選択肢を狭めたら、それこそミ・ミカの掌の上で転がされてしまう。
ゴースト魔法≪天眼≫
重要なのは決して選択肢を狭めず、敵の動きを予想して最適な魔法で攻撃すること。
そして、ミ・ミカの動き予想する手がかりは霊感で観測できる彼女の魔力だ。
私は改めて天眼を使って自分の霊感を強化する。
同時に私は大きく息を吸い込んで、肺に空気をため込んだ。
火魔法≪オニビ≫
私は口内に魔力を集めて火球を作りミ・ミカに向かって発射する。
オニビは着弾と同時に爆発する火球を発射する魔法で、テレビゲームでよく使われるファイヤボールと性質的に同じ魔法だ。
実は、私は――いやニビルのマモノハンターの大半が、マモノ退治でこの手の射撃魔法をほとんど使わない。
理由は、弾速が遅すぎてマモノだろうと人間相手だろうとほぼ確実にかわされるからだ。
肉体強化魔法の一つ、思考速度強化はとても強力な魔法だ。
少ない魔力消費にもかかわらず、脳の思考速度と神経の情報伝達速度を10倍以上に強化するので、超音速で放たれたオニビも小学生が投げるドッチボールの球のような感覚で見切られてしまう。
ただし、このノロマな飛び道具にも一つだけ良い所がある。
たとえ見切られたとしても、回避か、防御をしなければミ・ミカはオニビの爆発でダメージを負う。
つまり、私はノーリスクでミ・ミカに回避か防御を強要できるのだ。
ドガアアアアンッ!
火球が爆発し、紅蓮の業火と爆風が地面に小さなクレーターを作る。
しかし、予想通りミ・ミカはその場を跳び退いてオニビを回避していた。
問題無い今のオニビはただの牽制だ。
私は回避行動を取ったミ・ミカに追撃をかける。
火魔法≪オニビ≫
飛び退いた直後の着地点を狙って放ったオニビを回避するためミ・ミカは魔法を発動させる。
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
ミ・ミカが魔力の噴射でオニビを回避するのを見て、私は本命の魔法を発動させた。
火魔法≪カエングルマ≫
マモノを攻撃するのに一番便利なのは突撃魔法だ。
射撃魔法はかわされてしまえばそれまでだが、よほどの至近距離でなければ回避した相手を追いかけて突撃軌道を変えることができるし、防御されてもそのあとの近接攻撃につなげることができる。
先ほどは何も考えずに突っ込んで手痛い反撃を食らったが、オニビで何度も回避行動をさせてから突撃すれば話は別だ。
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
私の突撃をギリギリまで引き付けてミ・ミカは足の裏から魔力を噴出させて上空に逃れた。
でも――それは、私の想定内だ。
「わんッ!」
火魔法≪オニビ≫
私は空中にいるミ・ミカにオニビを放つ。
「それもかわせるッ!」
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
何も足場のない空中に居るにも関わらず、ミ・ミカは魔力の噴出だけで下から迫るオニビを回避した。
まさか空中でもケモノノハドウで高速移動が出来るなんて――改めて思い知らされる、目の前にいるミ・ミカという少女は私の想像をはるかに超えるバケモノだ。
「恵子、いまの攻撃は良い」
「ウゥゥゥゥゥ!!」
褒められても全くうれしくない。
裏を返せば、いままでの私の魔法の使い方は、なんの工夫もせず力押するマモノと同じだったと言ってるようなものだ。
「ワォォォォォンッ!!」
私は咆哮と共に魔力の収束を開始した。
火魔法≪オニビ≫
こうなったら徹底的に食らいついてやる。
まだだ、まだ私は全ての手札を使い切ったわけじゃない。
ミ・ミカは私の放った牽制のオニビをひらりと跳躍して回避する。
ここから追撃しようにもまともな攻撃魔法では、ケモノノハドウ駆使した変則高速機動で動き回るミ・ミカをとらえるのは不可能に近い
だけど……。
ゴースト魔法≪ジッタイカ≫
不可視の手を伸ばしミ・ミカの袴の裾を握りしめる。
私はジッタイカで、ミ・ミカを拘束するのと同時に全力疾走で彼女に接近する。
ジッタイカは攻撃用の魔法ではない、幽霊の私がほかの物質に触れるため魔法だ。
だから、不可視の手の力は弱く、ミ・ミカの身体能力ならジッタイカの拘束を簡単に振り切られてしまう。
それでいいッ!
たとえ一瞬でも動きを止めることが出来れば、それは大きな隙になる。
ミ・ミカが拘束を振り切った隙を付いて、至近距離からカエングルマを叩き込む。
しかし、ミ・ミカはその場を動かなかった。
彼女が拘束を解かずにその場に立ち止まったことで、カエングルマを使うタイミングを失った私は、疾走した勢いのままミ・ミカに噛みついた。
ミ・ミカが左腕を突き出して盾代わりにしたので、私の牙は彼女の二の腕の皮膚を食い破り滴る血が私の口の中に入って来る。
「恵子でも、三つの魔法の同時発動は出来ない」
ミ・ミカが右手を振り上げながら小さくつぶやくのを聞いて、全身の肌が泡立ち、恐怖が脳天から足先まで突き抜けるのをハッキリと感じた。
彼女の言う通り、私が同時に使える魔法は二つまで。
肉体強化とジッタイカを維持したまま、別の魔法を使うことは出来ない。
「最大出力ッ!!」
ミ・ミカが振り上げた右手に大きな魔力が収束していく。
不用意に左手に噛みついてしまった私には、もはや次の一撃から逃れる術は存在しなかった。
身体から魔力を噴射して移動するための推進力に変えるのがケモノノハドウという魔法の正体だ。
しかし、推進力として利用する魔力の噴射を敵に直接ぶつけることも出来る。
それが……。
獣魔法≪ケモノノチカラ≫
平手打ちと同時に強力な魔力の噴出が脳を直撃し、私は意識を失った。
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