プロローグ
――?????
「ごおおおおッ!!」
「わおーんッ!!」
「うおおおおおッ!!」
洞窟の中で3頭の獣の咆哮が反響し響き渡る。
洞窟は地下水が岩盤を溶かすことによって出来たいわゆる鍾乳洞と呼ばれるタイプの洞窟だ。
人工的に作られたトンネルとはちがい、足元は水によって削られた部分とそうでない部分が不規則に入り混じった穴ぼこだらけの状態になっており、大小の水たまりが数えきれないほど点在している。
天井からは石灰石が固まって出来たつらら状の鍾乳石が点在しており、それが障害物として三頭の獣達の前に立ちはだかっていた。
最初に動いたのは、三頭の中で最も巨大な体格を有する異形のヒグマだった。
体高3.5メートル、体重400キロ以上の巨体に加え、右肩の皮膚を突き破ってモコモコとキノコが生えている。
もやは巨獣と形容したくなる巨大なヒグマは目の前にある邪魔な鍾乳石を掌で薙ぎ払い、進路を確保すると頭を低くして四足歩行で体当たりを敢行する。
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
一般的に、四足歩行するクマの最高時速は60kmに達すると言われているが、目の前の巨獣はそんな常識を完全に無視して、全身に白いオーラを身にまとい一瞬で時速100キロ以上に加速する。
巨獣の恐ろしい突撃に立ち向かったのは、巨大なオオカミだった。
タイリクオオカミを遥かに超える体重200キロを超える体格を持った巨大なオオカミは、全身を群青色の毛皮で覆い、弱点を守る様に首周はオレンジ色のタテガミに包まれている。
ゴースト魔法≪クロノキバ≫
オオカミは己の牙に漆黒のオーラをまとわせ突撃して来る巨獣に飛び掛かりするどい牙を突き立てる。
普通に考えたら、体重400キロのヒグマが時速100キロ以上に加速したら止めす術はない。
例え喉元に食らいついたとしても、突撃の運動エネルギーで吹き飛ばされてしまうだけだ。
しかし、巨獣に食らいついたオオカミは吹き飛ばされなかった。
巨獣の全身を覆っていた白いオーラと、オオカミの牙を覆っていた黒いオーラが互いに打ち消し合い、100キロ以上のスピードで加速していた巨獣のスピードがみるみる落ちて互いに頭を突き合せる膠着状態が出来上がった。
自分の突撃がオオカミの牙によって止められたことを本能的に察した巨獣は、目の前の狼を排除するために右腕を振り上げる。
草魔法≪ジュヒコウカ≫
獣魔法の魔力はゴースト魔法の魔力をぶつけることによって減衰する。
巨獣がそんな魔法理論を知るはずもなかったが、獣魔法が防がれた巨獣は本能的に自らの持つ第2の刃を抜刀する。
巨獣の持つ右前足がまるで木の幹のように硬質化し目の前の敵を叩き潰すための鎚に変わる。
オオカミに巨獣の爪が振り下ろされる直前、第3の獣が飛び出してきた。
第3の獣は、巨獣と同じヒグマだが体重200キロを超えるくらいの若いオスの個体だった。体格は体重400キロを超える巨獣とは比べ物にならないほど小柄で、右前足も異形化しておらず、動物園に行けばいくらでも見られそうな普通のヒグマ。
しかし、この若者は体格的に圧倒的に劣ることを100も承知で巨獣に向かって突撃を敢行する。
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
例え巨獣と同じ獣魔法を使ったとしても、体格的に圧倒的に劣る若いヒグマの攻撃で巨獣を倒すことは出来ない。
彼が狙ったのは、巨獣の動体ではなくオオカミに振り下ろされた右腕の方だった。
同じヒグマでも体重差がありすぎて単純な力比べで勝つのは難しい。
しかし、右腕一本に対して全体重をぶつければ一時的に力を拮抗させることは可能だ。
体当たりでコウカを止められた巨獣は、魔力を介さない単純な腕力で生意気な若いヒグマに左前脚で張手を見舞う。
魔法を使った直後の隙を突かれた若いヒグマは、圧倒的な腕力に抗しきれず10メートルほど吹き飛ばされた。
だが、若いヒグマと共闘しているオオカミは巨獣の見せたスキを見逃さない。
火魔法≪カエングルマ≫
オオカミの赤いタテガミが燃え上がりオオカミを包みこむと、オオカミは炎に包まれた身体で巨獣に体当たりを繰り出す。
体当たりが決まった瞬間、ボンッ!!と大きな爆発音が鳴り響き。
巨獣は鍾乳石をなぎ倒しながら10メートルほど吹き飛ばされた。
獣たちは三者三様に距離を取り、戦いは仕切り直しとなった。
三頭の獣は新たな戦いのはじまりを宣言するがごとく、大きな咆哮が洞窟内に鳴り響いた。
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