第9話

「あ、起きた」

 錐人が目を覚ますと勿朽の顔が視界に映った。

「ここは…?」

 意識が定かでは無い僕の問いに勿朽が答える。

「玄武組の待機所だよ。気を失っている君を、藤色の髪の先輩が担いで来たんだ」

 体を起こすと金属音がした。見ると僕の手首は手錠が付けられ拘束されていた。

 そうか捕まったのか僕は。

「昏睡してたってことは、また使ったの?あの力を。でもあの先輩には傷一つ付いていなかったけど」

「力は使ったけど人に向けては撃っていないよ」

 他の組の生徒を庇って捕まったとは、なんとなく言い辛くて簡潔に告げる。

「ふぅん?」

 納得したのかどうなのか勿朽はそれ以上追及してこなかった。

 僕は辺りを見回す。既に十数人の生徒がここには集結していた。

「亜妻君も鹿島君も傷代君もまだ戻って来ていないよ。もう直ぐ終了時間だから、逃げ切れるんじゃないかな」

 まだ捕まってなければだけど、と勿朽は言う。

 何だろう、今日の勿朽は口数が多い気がする。

 勿朽は普段必要なことしか話さない。僕も口下手な方なので、亜妻が一人で苦笑するのが僕等の班の日常である。

 そこで僕は気付く。勿朽の手にも手錠が付いていることに。

 ああそうか捕まったことが恥ずかしいのか。女性に運ばれた僕ほどじゃ無いにせよ(しかも二回目だ)、演習で脱落したことが決まり悪いらしい。そこで照れ隠しに言葉を重ねている訳だ。

 僕はそれが微笑ましくつい口角が上がってしまう。

「何笑っているの」

 勿朽が僕を睨む。ただでさえきつい表情が一層厳しくなる。

「いや、可愛いなと思って」

 あ、失言だ。本音が漏れてしまった。

 すると勿朽の顔が耳まで真っ赤になる。口をぱくぱくさせて思い切り動揺していた。その表情はいつもの不機嫌な顔が嘘みたいに愛らしかった。

この瞬間、風見錐人は勿朽流華に恋をした。

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