7

感情に揺さぶられながらもドルヲタパーティなるものは盛況のうちにお開きとなった。

まさか課長の家でこんなに楽しい時間を過ごせるなんて思いもよらなかった。

帰りはイチローさんとオルトと今日のことについて話しながら駅に向かった。

ふたりとも上気していて楽しい時間を過ごせたんだなと思った。

それぞれが新しい推し仲間を得たのだ。

イチローさんはむあちゃん推しの子の話をいっぱいしゃべる。

オルトは、くうちゃん推しの母子の話だ。

僕は舞山さんの話を伝えた。


「姪御さんは知り合いだったんだ」とイチローさんが言った。

「そうです取引先の子です。」

「ヲタじゃないんだね」

「はい」

「サブローさんとまぶだちって感じでしたね」とオルト。

「うん、すごい仲良しだったね。しおみさんが見たら嫉妬するよ」とイチローさんがギクリとするようなことをおどけて言う。

「なんか話しやすいんですよ」と返事してその話は終わった。

でも僕の心のなかでは、それとは別の感情が出てきてなかなか引っ込まなかった。

理性だ。必要なのは理性だ。

そう言い聞かせた。

それでもふとん入ってまでその感情は収まらなかった。

やっぱり僕は普通じゃないんだろうか。

朝起きてしおみさんと日課の通話をした。


向こうは、夕方だ。

なんとか理性が勝った。

何事もなかったかのように昨日の話を伝えた。

しおみさんが楽しそう、私も参加したいなあと言った。

日本に戻ってきたときにもまだやっていたら参加してねと返事した。

実際そうなったら理性がちゃんと働くだろうかと余計なことを考えた。

しおみさんはその日のことを伝えてくれた。


昼に食べた初めて行った店のバーガーがおいしくて僕に食べさせたいと言った。

通話では伝わらないもの、味とか匂いとか食感とかをどうにか伝えようとしていろいろ説明してくれた。

ほんとに食べたくなった。でも今は絶対に食べられないと思うと切なくなった。

なぜ僕たちは離れ離れに居るんだろう。当たり前のことを悔しく思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る